地方出身者が地元の料理を食べたくなったら駆け込める、同郷の人との触れ合いに飢えたときに癒してくれる、そんな東京にある"地方のお店"を紹介していくこの企画。コロナ禍の昨今、せめておいしい地方の物を食べて各地を旅行した気持ちになりたい! という他県のあなたも必見です。

怒涛の東北三連続だったので、そろそろ別の地域にスポットを当ててまいりましょう。今回は、中部地方の岐阜県にフォーカスします。

  • 岐阜の"うんまいもん"を求めて


岐阜県は周りを愛知県、富山県、滋賀県、長野県に囲まれた内陸の海なし県。下呂温泉や白川郷、飛騨高山など観光地として有名な地域も多く、旅行で訪れたことがある人も多いかもしれません。ちなみに、食品サンプル生産量日本一の郡上市や、天下分け目の合戦「関ヶ原」も岐阜県ですね。

今回は、そんな岐阜の料理を求め、御茶ノ水にある「飛騨居酒屋 蔵助」さんにお邪魔しました。千代田線新御茶ノ水駅からニコライ堂を右手に小川町駅方面に歩いて、少し細めの道を入ったところにあるお店です。外階段を2階に上がって、お邪魔しまーす。

  • 高山祭りの山車の絵がかわいい外観

店内はテーブル席が60席。各テーブルが仕切られていて落ち着いた雰囲気の内装です。お店の建具や照明などは、岐阜の職人さんが手掛けているそう。地元へのリスペクトが詰まっています。

  • 和風で温かみのある店内

通していただいた席には「令和」の書が。あの会見で菅総理(当時は官房長官)が掲げた「令和」を書かれた岐阜県出身の書家・茂住菁邨(もずみ・せいそん)先生直筆の書なんだそうです。凛として安定感のある字面ですね。

冬を乗り切る生活の知恵がうまい!

まずお出しいただいたのは「まめつかげ」(490円)。「つかげ」は飛騨の方言で「揚げた物」を意味するそうで、「まめつかげ」とは、大豆に醤油、砂糖、小麦粉で衣をつけて揚げたものです。現地では定番のお菓子で、給食にも登場する馴染み深いものなんだとか。

  • つい手が伸びるポリポリ「まめつかげ」

1つ摘んで口に放り込むと想像していたよりもしっかりとした歯応え。衣には、ほんのりとした甘さと香ばしさがあり、遅れて大豆のきな粉のような風味が広がります。ついつい手が伸びる素朴なおいしさがどこかほっとさせてくれます。上京された方には懐かしい味なのでしょうね。

「まめつかげ」は元々、雪深い飛騨の冬を乗り越えるための保存食らしく、大豆の水分を飛ばすために低温で揚げているそうです。とはいえ飽きのこないこの味、ついつい食べ過ぎて冬を越える前になくなっちゃったりしたんじゃないかと余計な心配してしまいますな。カテゴリーはお菓子ですが、日本酒とも相性が良く、おつまみとしてもおいしくいただけます。

お次は、お店でも人気の「漬け物ステーキ」(690円)が登場。白菜の切り漬けを焼いて、卵でとじた飛騨地方の居酒屋では定番のメニュー。「漬けステ」の愛称で親しまれているそうです。

  • 現地に行ったら通ぶって「漬けステ」と注文したい「漬け物ステーキ」

鰹節がゆらゆら。白菜の漬け物と卵、鰹節のみのシンプルな見た目ですが、アツアツで食欲をそそりますな。食べてみると白菜のポリポリな食感。漬け物特有の旨みと酸味が滲み出してきます。そしてこれを卵の甘みが包み込む。特に味付けはしていないらしいのですが、そうは感じさせないおいしさです。鰹節の風味もグッド!

「漬けステ」は、保存食の漬け物を焼いて食べる習慣から生まれた家庭料理で、漬かりすぎて酸味が出てしまった食材を卵でとじることで、マイルドに食べられるように工夫されたそう。漬け物を焼くというのは、筆者からすると馴染みのない感覚ですが、「豚キムチ」という料理もありますし、どこか近しい感じなんでしょうか。

意外だったのは、添え物の印象が強い漬物が焼いて卵でとじることで、一気に立派なおかずになることです。岐阜という土地が生んだ長い冬の中で、料理のバリエーションを増やす知恵だったのかもしれません。家の冷蔵庫に古くなった漬け物があるという方、だまされたと思ってお試しください。「こいつ、おかずやんけ!」ってなりますよ。

岐阜名物「飛騨牛」を使った料理を堪能

さて、飛騨高山の名物料理でこれの右に並ぶものなし(と筆者は思っている)「飛騨牛カルビの朴葉みそ焼き」(1,690円)の登場です。

  • 飛騨コンロが目印。サシの入った大振りの飛騨牛が楽しめる

これぞ飛騨高山って感じ。表面の文字が特徴の飛騨コンロが岐阜へいざなってくれますね。筆者は飛騨高山を訪れる度にこのコンロを買おうか悩むんですが、今のところ寸前のところで踏みとどまっています。

殺菌効果のある朴(ほお)の木の落ち葉の上に、ブランド牛である飛騨牛と岐阜産の椎茸を味噌が乗った一品。このビジュアルでテンションぶち上げ。お肉と味噌、また朴葉の香りが食欲をそそります。

  • 焼き上がった飛騨牛

まずはお肉をパクリ。「味噌に和えた肉なんだから味噌味やろが」と思ったあなた。甘い! 甘いんです!(笑) 味噌越しでもはっきりとわかるほどの肉の甘み。アンド旨み。スタッフさん曰く「当店のお肉は生で食べられるくらい新鮮なんですよ」とのこと。わかります。鼻から抜ける香りすらおいしいもの。このおいしさ、事件です。

一緒に焼かれた椎茸もお肉の脂と味噌の旨みをばっちり吸って美味。お肉と椎茸を交互に食べて飽きがこない「おいしい、おいしい」至高のループ。終わらないでくれぇ……。

こんな感じで夢中になっていたら、固形燃料がなくなる前にきれいにたいらげてしまいました。そして最後に残った少し焦げた味噌をチビチビ食べながら日本酒を飲むのです。

味噌と塩味のはざまにお肉の余韻を感じつつ、キュッと日本酒で喉を潤します。すごい多幸感。やば。

  • リッチな気分になれる「氷室」

ちなみに今回の料理のお供は、飛騨高山にある二木酒造さんの「大吟醸生酒 氷室」(一合 990円)。フルーティな甘みにキレがよく軽やかな喉越しが特長で冷が最高。シズルという器も岐阜の職人さん作というこだわりです。

ほかにもお店には岐阜各地の日本酒が取り揃えられおり、スタンプを集めるとプレゼントがもらえるスタンプカードがあるそう。岐阜の酒蔵巡り(リモート)が楽しめますね。

御茶ノ水は飛騨の情報発信基地?

  • 店長の高岡亮介さん(左)とスタッフの神出匠太朗さん(飛騨市出身、斐太高校卒)

「飛騨居酒屋 蔵助」は、前身のお店を2005年に小川町でオープン。今の店名に変更後、2013年に現在の場所に移転し、開業から今年で15周年を迎えました。

飛騨市出身のオーナーの仲谷丈吾さんが高校卒業を機に上京。システム開発会社勤務ののち、複数の飲食店で経験を積み、飛騨の料理や地酒を扱うお店をスタートしたとのこと。

お店は、飛騨の食材や情報を東京で発信していく基地としての役割はもちろん、「東京で一旗揚げるぞ!」と飛騨や岐阜県から出てきた方々がつながる場にしたいという思いもあるそう。そのため、期間限定で岐阜の高山以外の地域にスポットを当てたフェアを行ったり、「蔵の会」という交流イベントを開催したりするなど、通常の営業に加えて活動しているそうです(現在コロナウィルス対策で休止中)。

内装や食材など岐阜にこだわり通し、飛騨への熱い思いがある人たちが支える「飛騨居酒屋 蔵助」さんに、みんなで一緒に行こまいか!


<店舗情報>
「飛騨居酒屋 蔵助」
住所:東京都千代田区神田駿河台3-5-15 荒井ビル2階
営業時間:11:30~14:00、17:30~23:15
定休日:日曜、祝日

※価格は税込

取材・文=古屋敦史、構成=小山田滝音(ブラインドファスト)