次々に登場人物が殺される

■1位『もう誰も愛さない』(フジテレビ系、吉田栄作主演)

吉田栄作

吉田栄作

今回は2位と迷ったあげく、こちらを1位に。その理由は、現在放送中の連ドラにも通じる超速&上下動の激しいジェットコースタードラマを27年前に制作していたから。

「誰が味方で誰が敵なのか?」「先の展開がまったく読めない」「ちょっとくらい強引でも、辻褄が合わなくても、押し切ってしまえ」という思い切った物語で、荒唐無稽のはるか向こう側にある世界観を作り上げた。しかも前述したように、トレンディドラマ全盛期だっただけに、先見の明がうかがえる。

1位に選んだもう1つの理由は、「二度と地上波の作品では見られない」カットが多いから。何しろ、「ほぼ全員死んだのではないか」というほど、次々に登場人物が殺され、「バラバラにされた首や手足がゴミ置き場に捨てられる」という凄惨なカットもあった。

ダブルヒロインの宮本小百合(田中美奈子)は子宮がん、田代美幸(山口智子)は強姦、美幸の弟・春樹(神田利則)は家に放火して一家心中、大物財界人の娘・亜紀(荒井乃梨子)は偽装結婚に輪姦。その他にも、不倫、妊娠、恐喝、横領、賭博など悪いことだらけで、壮絶もここまでくると、不謹慎にも「ワクワクする」「笑っちゃう」レベルに到達していた。

当作の肝は、「これらの罪は、すべて愛がもたらしたもの」という前提。「あふれんばかりの愛は、一歩踏み外すと猛烈な憎しみや執着につながり、どんな罪でもいとわなくなってしまう」ということだろう。“愛憎群像劇”というジャンルでは、いまだこの作品を超えるものは現れていない感がある。

主人公の沢村卓也を演じた吉田栄作は、当時22歳。モデル体形とサラサラのツーブロックヘアーでトレンディ俳優の最前線に立ち、「ウォー!」の絶叫をはじめとするケレン味たっぷりの芝居がハマっていた。オレ様キャラが独り歩きした結果、数年後に低迷期を迎えるが、これは裏を返せば「吉田栄作以降、ここまでキャラが立った主演俳優が出ていない」ということかもしれない。

主題歌はビリー・ヒューズの「とどかぬ想い」、挿入歌はランディ・クロフォードの「スウィート・ラブ」。イントロを聴くだけで、一気にあの時代へ連れていってくれる名曲だ。

ラブストーリー細分化の時代へ

■平成3年その他の主なオススメ作品

あらためてふりかえってみると、平成3年は、80年代から続くラブストーリーの流れが、より細分化した印象。社内恋愛や遠距離恋愛などをテーマに、リアルな心理描写を交えて制作されたものが目立った。その他の主な作品は以下。

  • 鈴木保奈美

    鈴木保奈美

  • 織田裕二

    織田裕二

赤名リカ(鈴木保奈美)の奔放さ、永尾完治(織田裕二)の優柔不断さは、その後の時代性を先取りか。ただ結局、恋愛依存度の高い関口さとみ(有森也実)を選ぶ結末が当時らしかった『東京ラブストーリー』(フジテレビ系、鈴木保奈美主演、主題歌は小田和正「ラブ・ストーリーは突然に )。

令子(今井美樹)、建太(石橋凌)、圭子(仙道敦子)の三角関係に、亜希(中嶋朋子)、良一(福山雅治)を絡めた社内恋愛ドラマ。内館牧子の脚本だけに社長の陰謀も見られた『あしたがあるから』(TBS系、今井美樹主演、主題歌は今井美樹「PIECE OF MY WISH )。福山の記念すべき初ドラマ出演作。

  • 中山美穂

    中山美穂

  • 高嶋政宏

    高嶋政宏

テーマは、東京在住の看護師・美代子(中山美穂)と、札幌に転勤した恋人・雄介(大鶴義丹)の遠距離恋愛。距離によるすれ違いのもどかしさを11話にわたって描いた『逢いたい時にあなたはいない…』(フジテレビ系、中山美穂主演、主題歌は中山美穂「遠い街のどこかで…」。いまだ「なぜ大鶴義丹?」の謎は解けていない。

新人デパートマン・大介(高嶋政宏)の奮闘と、小百合(西田ひかる)との恋を描いた『デパート!夏物語』(TBS系、高嶋政宏主演、主題歌は西田ひかる「ときめいて」)。万引き、店内ナンパ、クレーマー、悪ガキなどと対峙する大介のバカ正直キャラは、弟・高嶋政伸の『HOTEL』と酷似で、兄弟の人気を物語る。

  • 田中美佐子

    田中美佐子

  • 中村雅俊

    中村雅俊

  • 松下由樹

    松下由樹

高野康彦(中村雅俊)・朝子(田中美佐子)夫妻、芹沢耕平(石田純一)・早紀(かとうかずこ)夫妻の危機と再生を描いた『結婚の理想と現実』(フジテレビ系、中村雅俊主演、主題歌はZARD「Good-bye My Loneliness」)。田中、かとうのほか、森尾由美、横山めぐみら美女がそろい、ZARDのデビュー曲が見事にフィット。

恋人・真実子(松下由樹)の嘘が原因で交通事故を起こした徹(野村宏伸)は刑務所へ。出所後、白い目で見られ、交際を反対され、被害者から責められる中、償いの日々を描いた『君だけに愛を』(日本テレビ系、野村宏伸主演、主題歌は渡辺信平「よりかかってOnly You」)。題材こそショッキングだが、弁当屋を舞台にした純度の高いホームドラマでもあった。

丸山夫妻(岡江久美子、綿引勝彦)と13人の子どもが織りなす大家族ドラマ『天までとどけ』(TBS系、岡江久美子主演、主題歌は川越美和「涙くんさよなら」)。1991年の第一シリーズから8作が放送された『愛の劇場』が誇る傑作で、子ども役で若林志穂や河相我聞らが出演していた。

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。