FXルールを株に適用

1ドル=88円台に突入する場面もあり、株式市場も円高の影響を受けて日経平均は冴えない動きとなっている。今年も後残すところ3カ月のみになってしまった段階で、自分のFXと株のパフォーマンスを比較してみると、軍配はFXに上がっている。

その理由は「損切り(ストップロス)」と「利食い(プロフィットテイク)にあると思う。レバレッジ取引であるFXでは「損切りルール」と「利食いルール」をきちんと設定している。最初に手痛い思いをして損切りの大切さを学んだので、今では利食いも発注時から機械的に入れるようにしている。だから大儲けはしていなくても6年間なんとか生存しているのだと思う。

FXで最初に手痛い経験をしたのは、レバレッジ取引は現物取引とは異なっているにも関わらず、現物取引と同様に考えてしまったことに原因があると思っている。証拠金取引の限られた資金の中で行うには、相場観以上に資金のマネージングの方が重要なのである。

元々、自分の株取引には「損切りルール」も「利食いルール」もなかった。正直に言うと、株で損切りをしたことはかつて一度もない。塩漬けは驚くに値しないどころか10年物のビンテージ銘柄だってある。以前保有していたオーディオメーカー「ナカミチ」に至っては、放置している間に会社は倒産した。百万円がゼロ。株券はまさに紙切れとなり、私の手元に"証(あかし)"として残っている。

私の場合、FXは短期取引に徹していて、損切りの効用もあるが、小幅に利食ってきた結果として利益を創出していることは明白である。ということは株も同様にすれば、利益が出るようになるかもしれないと考えても、長年、株は長期投資、と体よい言い訳をして、買った後上がっても利食うこともなく(「ナカミチ 」だって一時+30万円になった)、当たり前のように放置してきたやり方をFX方式に切り替えることはなかなか出来にくかった。

利食ってナンボ - 後悔するなら決めておく

株は基本的には「買い」前提。上がる銘柄に投資しないと儲からないから、皆これから上がる銘柄を探している。この銘柄は下がりそうだから買わないかと勧められたら(勧める人もいないと思うが)誰も買おうとは思わないけれど、この銘柄が上がりそうだから買わないかと勧められたら、ヨシッ買おう! と思う買い意欲に満ちているマーケットだ。だから下げても、それは一時のことで、"いつか"人気化して"だれか"が買ってくれる時がくれば上昇する、という期待をしてしまうので、ちょっとくらい塩に漬けておいてもいいかなと思ってしまうのだろう。 しかし、損切りや利食いに対する考え方は、基本的に、FXでも株でも同じであるはずである。それに実際これだけパフォーマンス格差が生まれれば、固い頭もスイッチせざるを得ない。2009年終盤に向けて、FXで構築したルールが株にも良い結果となって欲しいと願っている。

FXでは、株式市場と違って、為替市場は24時間休みなく動き続けていて、急激な変化、つまり状況の変化が起こりやすく、レートの動くスピードも早い。その上、値幅制限がないこともあって、どうしても損切りの方に重点が置かれてしまうせいか、意外に利食いルールはおろそかになっている、つまり、どう利食うか決めていない人が多いのではないだろうか。

天井で売ったり底値で買ったりすることは、ほぼ不可能に等しいのに、多かれ少なかれなんらかの後悔をしてしまうのであれば(例えば、もう少し早く売っておけばよかったとかもう少し待てばよかったとか)、ストップロスと同じように、あらかじめストッププロフィットとして「利益がこれだけ出たら絶対に確定する」と決めておけばよい。

「損小利大」と現実

損切りのレベルは、チャートポイントで判断するか、それとも値幅でするか、%でするかは本人次第だが、基本的には自分の許容できる損失がベースになる。ところが、利食いでは利益を最大限に引き出すということが欲につながるので、裁量で利食いレベルを考えるのは一段と難しい。であれば、利益には欲の許容を敷くべきだと考える。自分の欲と不安との戦いになり、利食うタイミングに右往左往させられてしまうなら、いっそのこと最初から機械的にラインを引いてしまうのも一つの利食い方法になる。

「損小利大」は大変素晴らしい言葉だ。FXで初めてこの言葉を聞いた時は大きくうなずいたものだが、トレードを重ねても、理想との距離はなかなか縮まらない。利益を最大限に引き出そうとして損失に転じてしまっては元も子もないのが現実だからだ。相場は試練である。「頭と尻尾はくれてやれ」と戒められながら、「利大」を要求される。

しかし、FXでも株でも私は完全を求めないことだと思っている。投資をしたら必ず儲けなくてはならないと思うのは仕方がないことだが、そうではなくて、まず「損小」第一で考えてみる。(ストップロスで)小幅な損に留め、次に(ストッププロフィットで)小幅でも利益を出して、一回一回の取引に一喜一憂するよりは、トータルで儲かればよいくらいの気持ちでやれば心も軽くなり、柔軟な姿勢で相場に対峙できる。相場で最も怖いのは凝り固まった考え方と謙虚な気持ちを失うことだ。それに流動性が高い為替市場であれば、いくらでも仕切り直しはできるはずである。

執筆者紹介 : 香澄ケイト氏

主な略歴 : 為替ジャーナリスト
米国カリフォルニア州の大学に留学後、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国。外資系証券会社で日本株 / アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事する。退職後、株の世界から一転してFXに関する活動を開始し、為替情報サイト、マネー雑誌などの執筆、ラジオ番組への出演およびセミナー等の講師を努める。著書に『あなたのお金を10倍にする外貨投資術』(フォレスト出版)、『今すぐ始めるFX5人の投資家が明かす勝利のルール』(すばる舎)がある。