世界エンタメ経済学(32) ビヨンセにゲイの詩人…就任式の人選に表れたオバマ大統領の周到な目配り

米国時間21日に予定されるオバマ米大統領の2度目の就任式。この式典に華を添えるアーティストや文化人などの人選が決定したとのニュースが同10日に流れていた。

Beyonce, Clarkson to perform at Obama inauguration - AP（Yahoo!)

前回（2008年）の大統領選挙から夫唱婦随（あるいは「婦唱夫随」？）でオバマを応援し続けているビヨンセ、それにやはり2008年からの支持者で昨年9月の民主党全国大会でも歌を披露していたジェームズ・テイラー（70年代から活躍し続ける白人フォーク系シンガーソングライター）、さらに「アメリカン・アイドル」シーズン１の優勝者で、現在若手カントリーシンガーのなかでもたぶん最も勢いのある1人であるケニー・クラークソン、といずれの場合もほぼ順当な人選といえようか。

バラク・オバマ米大統領とジェイ・Z&ビヨンセ夫妻

とくにビヨンセについては、過去にスーパーボウル（NFL決勝戦）やNBAオールスター戦のハーフタイムショーなど数々の大舞台で国歌斉唱していた実績（下掲ビデオなど）もあり、また2009年の時に歌った「At Last」や「America the Beautiful」の記憶も鮮明で、さらに選挙期間中の資金集めへの貢献、ミシェル夫人との親密な間柄、そして両ファミリーの「家族ぐるみの付き合い」等々を考え合わせると、「いよいよキタか」という感じさえしてしまう。

ちなみに、前回登場したのはアレサ・フランクリン（いわずと知れたソウルの大御所、アフリカ系）、ヨーヨー・マ（チェリスト、アジア系）、それに詩人のマヤ・アンジェロウ（アフリカ系）。前回は大ベテランのアレサが務めた大役を、今回は30歳をわずかに越えたばかりのビヨンセが仰せつかった、という事実はやはり感慨深いものがある。

ところで。

「オバマ自身も関わった」というこの人選、実に目配りの行き届いたものと思える。このあたりについては米国の国勢調査の結果とつきあわせてみるとよくわかるのだが、白人が2人に黒人が1人、そしてヒスパニック系が1人と、今回はアジア系こそ登場しないものの、ほぼ人種別の人口構成を踏まえたものとなっているのだ。

State & County QuickFacts - US Census Bureau

このページには、白人（ヒスパニック系を含まず）が63.4%、アフリカ系が13.1% 、ヒスパニック系が16.7%などとある。また別のページからアクセスできるグラフをみると年齢別・性別の人口などもわかる。

この人選のなかで特筆すべきは、詩の朗読で登場するリチャード・ブランコなる人物のプロフィール。上掲のAPの記事には、「キューバから脱出してきた移民の子どもで、現在44歳（大統領就任式に登場する詩人のなかでは最年少）」などとあり、さらに「ゲイ」とある。オバマが昨年（大統領としてたぶん初めて）「同性婚を正式に支持する」としていたことを思うと、これまた「想定内」といえるかもしれないが、それにしても「まったくすごいこと」になったなとあらためて驚いた次第である。

ハリウッドにはジェーン・リンチ（『グリー』のスー先生）やエレン・デジェネレス、それにアダム・ランバート（白人男性歌手）のように、堂々とゲイであることを認めた有名タレントがいる。また昨年夏にはフランク・オーシャン（ジェイ・Zなどと仕事をしてきている若手の黒人アーティスト。2月10日に結果が発表される第55回グラミー賞では6部門でノミネート）がカミングアウトして、大きな話題を呼んでもいた。