もし外国の友だちが「私がきのう初めてたこやーっきを食べましたよ。」とニコニコして日本語で言ったときに、「それ『私が』じゃなくて『私は』なんだけど。あと『たこやーき』じゃなくて、『タ、コ、ヤ、キ』って言うんだよ」と答える人を見たら、授業じゃあるまいし、なんて性格の悪い人なんだと思いませんか?
「へえー、美味しかった? どこで食べたの?」というのが自然な反応ですよね。
実は、長年の日本の英語教育では、成績や評価のための授業に偏ってしまい、本来の英語のコミュニケーションをする機会が極端に少なかったのです。そのため、私たちは英語を話そうとすると、無意識に「間違いを指摘されないか」を気にしてしまう癖がついてしまっています。
今まで受けてきた英語教育は、文字を読んだり書いたりすることが中心でした。その結果、文字を見ないと話せない、文章を日本語に訳さないと答えがでてこない、文字だけ学んでも音声にした時の英語らしい強弱や抑揚が身についていない、ということが起こっています。だから、口頭だけの会話のやりとりに苦手意識を持つ人が多いわけです。
これと対象的に、海外の人は英語を習い始めると比較的早く話せるようになります。理由を調べてみると、学習法が全然違っていたのです。ずばり、海外の外国語の学習法は《アウトプット中心》で、「リスニング・スピーキング」の繰り返しをたくさん行います。「初級者にはまだスピーキング学習は早い」などと言っているのは日本だけのようです。
ビジネスではスピーキング力がより重視されますので、これから英語を学び直そうというビジネスパーソンは、海外の学び方が参考になるわけです。幸いなことに、語学を習得する能力は、幼少期を除けば年齢にはそれほど関係ないようです。
では、初級者向けのスピーキング学習法をご紹介しましょう。初級者の英語スピーキング力とは、CEFR*1でpreA1~A2レベルです。
*1:国際的な語学力基準CEFR
文字に頼らない音声中心の学習とはどんな内容から始めればよいでしょう? もしビジネスで英語を使えるようになることがゴールなら、日常生活や仕事に関する場面の簡単なやりとりをおすすめします。もちろん、趣味や好きなスポーツの英語からでもいいのですが、ビジネスでよく使う表現や語彙と違うので、ちょっと遠回りかなと思います。
場面やりとりのセリフを丸覚えし「リスニング・スピーキング」を繰り返す
よく「自分が話せないのは単語が浮かんでこないから。つまり語彙力が足りない。まずは単語を覚えなきゃ」と思う人がいます。確かに語彙数は必要です。でも語彙を増やす学習として、単語ひとつひとつを日本語と対比して暗記する方法はおすすめできません。それをやっても、文章で使われるのを聞き取り、とっさに口に出して使えるとは限らないからです。
文章を聞き取り、スピーキングで使える語彙を増やすには、あるシーンで出てくる英語表現を言えるようになること、つまりセリフの丸覚えが近道だと思います。
たとえば“sure”という単語の使い方を考えてみましょう。(皆さん、発音は大丈夫ですね?) 辞書には「確信している・確かな」という意味だと書いてあります。意味を知っていたとしても、瞬発力が問われる会話で、瞬時に理解したり、言えたりするでしょうか?
同じ“sure”という単語でも、シーンによって様々な表現で使われているのがわかると思います。シーンに沿ってまるごと覚えたほうが良い事例としてご紹介しました。
まずは、簡単で短い表現から始めます。シーンを思い浮かべながら、何度も聞いて話して、セリフごと口から自然に出てくるようになるまで練習してみてください。なお、それぞれどんな発音やイントネーションで話すかも丸ごと習得してしまいます。さらに、主語や動詞、目的語を入れ替えて、自分が伝えたい応用版を話してみてください。そしてオンライン英会話レッスンなど、生の場面で実践してみてください。すると、次に同じような場面に出くわした時に、使えるようになっていきます。
こんな風にして、場面に応じて自分がセリフとして言えるレパートリーを増やしていってください。オンラインレッスンや実際の仕事で使ってみると、だいぶ「英語が話せる感」がでてくると思います。
実はこの手法、チャット型のライティングにも有効です。英語でのオンラインミーティングでは説明中でもチャットでリアルタイムにぽんぽんと反応や質問が来ますよね。自分もチャットを送ったところ、ちょっと時間がかかり、話が次に移ってしまったなんてこともあると思います。あのペースに乗るには、丸ごと表現が使えると便利です。
次に、もう少し長い文章を話してみましょう。
「その会社、メンバーカードをオンラインで申請できる仕組みを作るべきだよね」
これを英語で表現するとたとえば、こんな文章になります。
The company should develop an online application system for membership cards.
これを英語らしく聞こえて相手が理解できるように話すためには、以下の点に注意することが必要です。
・一つの単語のなかでどこを強調するか(単語のアクセント)
・文章のなかでどの単語を強く話して、どれを弱く話すか(強調する単語)
・文章のなかでどこを区切って話すか(文章の区切り)
・文章の抑揚はどのようにつけるか(イントネーション)
例にあげた文章をどう言えばいいのかを次の図表に示しました。
これができるようになるためには、いちいち日本語で「えーと、イントネーションはどうつけるんだっけ?」などと考えている間はありません。これもまた、たくさん聞くと同時に真似て話して慣れて、レッスンなどで実際に使ってみることが有効です。
初級者の人は、自分のレベルの良質な教材を徹底的に聞いてマスターするのがいいですね。「良質」という意味は、ビジネスシーンでよく使われる汎用的な単語を使い、短めのセリフで構成されていて、どの職場でもありそうなトピックを取り上げているものという意味です。初級者の方は、あまり特殊な状況や、何かの業界に偏ったものでないほうがよいでしょう。日本語で仕事をするときのよくあるシーンと重ねて考えると、わかりやすいと思います。
リスニングとスピーキングの力を伸ばすためには、音声のインプットとアウトプット学習を繰り返し行うことが大事と言いました。ここで注意してほしいのは、リスニング=耳で聞くこと、アウトプット学習=声に出すことではないという点です。
インプット学習とは、リスニングを中心に、音声を聞いたり、読んだり、聞いた通り声にだしてみる学習のところまでを指します。アウトプット学習は、オンライン英会話など自由な会話の場面で、自分で話すことを頭で考えて英語で表現することと言います。理論的には、インプット量のほうが多く、インプットされたストックから、その一部がアウトプットされると言われています。だからと言って、インプットが中心でよいというわけではありません。
アウトプット学習というのは、かなり意識しないとできないものです。例えば、25分間のオンライン英会話レッスンでも、積極的に発言しようと努力しないと、ついつい聞き役になっていたり、あいづちだけで終わってしまいがちます。初級者の人でも、25分のレッスンを有効に使うには、15秒、30秒くらいはまとめて話せる話題を準備して臨むのも良いかもしれません。レッスンのあと、自分が今日はどのくらいの時間話せたかなと振り返るのも、アウトプット力を高めるのに役に立ちます。
一方、インプット学習で、人気の高いリスニング教材や生の英語のスピーチでストックを増やすという習慣も欠かせません。伝えることに徹しているという点では、スピーチ教材から学べることはたくさんあります。有名な人のスピーチを聞いて、その人になりきって気に入った一部分を自分でスピーチしてみるのも効果的な学習法です。
どんな風に英語をはじめたらよいか、イメージが湧いてきましたでしょうか?
次回は、よく話題になる「中学英語」について解説します。