このコーナーでは、これまでドローンの飛行に関する基本的なことについて紹介してきました。最終回の今回は、番外編としてちょっと時事ネタっぽくドローンの産業利用についてお話したいと思います。

  • ドローンは仕事にできるの?

    ドローンは仕事にできるの?

ドローンの初めは“軍事用”

まず、その前にドローンの歴史を短く振り返ってみましょう。1935年イギリス、軍事用として開発された複葉機が最初のドローンと言われています。続いて1940年、同じく軍事用としてアメリカで登場。練習用の標的機として用いられました。ちなみにこの標的機は「Target Drone」と名付けられ、これ以降無人航空機を“ドローン”と呼ぶようになったと言われています。

軍事用で有名なのが1995年アメリカで開発されたRQ-1プレデター。テレビなどのニュースでご存知の方も多いのはないでしょうか。こちらは現在もアメリカ、イギリス、トルコなどで実戦配備されています。

軍事用として開発されたドローン。民間用としては、1987年日本のヤマハ発動機R-50が最初と言われています。これはヘリコプタータイプの産業用ドローンで、主に農薬散布用として開発されました。人が乗って操縦するヘリコプターにくらべ資格が遥かに取得しやすく、フライトの費用もさほどかかりません。さらに、ピンポイントで農薬散布ができるため、瞬く間に普及しました。

民生用ドローンでは、2010年フランスのパロット社がリリースしたAR Droneが最初と考えてよいでしょう。このモデルは、現在でもAR Drone 2.0として発売されています。比較的安価なので、興味がある人はAmazonなどで探してみるとよいかと思います。

このように、現在では用途に合わせて様々なドローンが存在するようになってきました。今後もこの傾向はますます強まっていくでしょう。

産業利用の6つの場面

さて、本題のドローンの産業利用ですが、私が知るかぎり現在のところ大きく次の6つの活用方法となります。

■農薬散布をはじめとするアグリ関連
アグリ関連、とくに農薬散布は前述のヘリコプタータイプのR-50の時代から行われておりますが、近年は農業従事者の人手不足問題もあり、ドローンの活用が急速に広まっている分野です。ドローン自体も現在、DJI のAGRAS MG-1シリーズやヤマハ発動機YMR-08などいくつかのメーカーが専用のドローンをリリースしており活況を呈しています。聞くところによりますと、農薬散布のほかに作物の生育状況の確認や、ビニールハウスの洗浄などにも活用さているようです。

土木測量の分野でもドローンはよく使われています。特に公共事業などではドローンの活用は必須になっているほか、農業と同じく少子高齢化による人材不足など、今後なくてはならないものになることは確かです。こちらはDJIのPhantom 4 RTKが測量に最適化されたドローンとしてよく知られ、専用のアプリとともに極めて計測精度の高い測量を行います。

ちなみに3年ほど前、私はドローンの民間資格のための講習を受けたことがあるのですが、そのときの参加者のほとんどが測量関係に従事されている方々でした。いかに、この分野でドローンが必要とされているかがうかがえます。

■ビルや橋梁など建造物、設備の点検検査
近年、高度経済成長期以前につくられたビルや橋梁の劣化が問題になっていますが、そのような建造物の点検検査でもドローンが使われています。足場を組み、人が点検していくよりも手間がかからず、短時間で終わるため現場でも好評のようです。さらにマンションなどの大規模修繕や、太陽光発電施設などでもドローンによる点検や検査はもはや珍しいものではなくなっています。こちらは、大型の特製ドローンから、民生用ドローンまで様々なものが用いられているようです。

■災害調査
災害調査でも近年ドローンの出番が多いようです。地方自治体や自衛隊、土木系の企業などが飛行させることが多く、その多くは被災後の現場の様子を把握し、その後の復旧に役立てるものとなります。海外の例となりますが、先日パリのノートルダム寺院が火災に見舞われた際に、すぐにその様子を同市の消防局がドローンで撮影し、発表したことは記憶に新しいものです。ちなみに、使われている多くは、中国・DJI製の民生用ドローンのようですが、自衛隊などではフランス・パロット社のドローンも採用しています。

■デリバリー
デリバリーは、ドローンの産業利用では以前から研究、開発が最も行われてきた分野です。実用化には解決しなければならない課題が多く、本格的な運用となるとまだ先のように思われていましたが、先日、この夏の限定となりますが、横須賀市で運用がはじまりました。これは同市にあるスーパーから1.2km先の東京湾に浮かぶ猿島までオーダーのあったバーベキュー用の食材や酒類、薬など最大5kgの商品を運ぶものです。これまでの試験運用的なものと異なるのは、商用運用として一般のひとがスマホプリからオーダーを行い、さらに配送料もオーダーしたひとが負担するなど本格的。

ビジネスとして成功すれば、かなり近い将来、大きく状況が変わってくるものと思われます。デリバリーに用いられるドローンの特徴としては、ペイロード(持ち上げることのできる重量)の大きな大型のものとなります。

■テレビ映画など撮影関連
テレビや映画、CMなどでは、明らかにドローンで撮影したと思われるシーンが増えてきています。手間や費用が遥かに抑えられるだけでなく、ヘリコプターを使った空撮映像より被写体の距離が近いため、これまでにない映像が撮れるドローン。多くのテレビ局や、映像制作会社で用いられています。使われるドローンは多様で、映画撮影用の大きなカメラの載せられる大型のものから、DJIのMavic 2 Proのような民生用のものまであります。


今回簡単に紹介した6つの分野以外にも、様々なところで活用されているドローン。使い古された感のある言葉ですが、ドローンを「空飛ぶ産業革命」と例えることがあります。産業革命とはいささか大げさに思われますが、少なくとも一部の産業にとってドローンはこれまでのビジネスのやり方を大きく変え、しかも効率よく安全なものにしていると言えます。今後ますますその活躍の場は広がっていくことは確実のように思えてなりません。