「こういう人は結婚できない」という、決めつけはあまりしたくないのですが、自分自身を含め、周りの「結婚したい」と言いつつしていない女性を見ていると、ある共通点があることに気がつきます。

それは、みんなそこそこ「しっかりしている」ということです。類が友を呼んで、私の周りに自分と似た感じの女性が集まっている可能性もあるのですが、みんな仕事をしているし、派手な借金などはせず、地道に暮らしています。それだけでなく、週末には常備菜を作り、健康面にも気を遣い、何かあればちょっと上等な手みやげなどを即座に用意できる社会性もあったりして、その中では私などはどちらかというと「しっかりしてない」部類に入るほどです。

そして、結婚している男性を見ていると、「掃除ができない」「自炊は袋ラーメンぐらいしかできない」「税金を払い忘れて督促状が……」など、信じがたいほどしっかりしていない事例が散見されます。これも、フリーライターという世間的には特殊な仕事の世界ゆえの出来事かもしれませんが、こういうことを見ていると、少し考え込んでしまいます。

「しっかりしている」という長所が短所へと変わる瞬間

一般的に、甘え上手な女性は男性との関係がうまくいきやすく、甘え下手な女性はうまくいきにくい、とよく言われますが、これは男女を入れ替えても同じで、甘え上手な人のほうが、結婚に向いているのではないかと私は思います。甘え上手であったり、多少依存的なくらい相手に自分のことを任せられる人のほうが、自然に誰かとチームを組みやすいからです。

一方、甘え下手な人はどうかというと、甘え下手な人はだいたい、他人に一方的に甘えることを「悪いこと」「申し訳ない」と思っています。「何かしてもらったら、そのぶん返さなければ」と思うし、「ごめん、ちょっと悪いんだけどお願い~」と、ちゃっかり何かを頼むことが、「良くないこと」と思っているふしがあります。

甘えるのが「上手」か「下手」か、ではなくて、価値観の問題なのです。私は、恋愛や結婚をしたい、と思うたびに、この「甘え下手」な自分の性質を責めてきました。人に簡単に甘えるものじゃない、自分でなんとかしろ、という教育を、なんで受けちゃったんだろう……とすら思いましたし、簡単にちゃっかり甘えることが許されなかった、自分の長女体質を恨んだこともありました。

歯磨き粉やトイレットペーパーは切らす前に必ずバッチリ補充する、このスキのない几帳面さが男を遠ざけているのかも……と、自分の性格にまで原因を求める始末です。学生時代から、社会に出る頃までは「しっかりしている」ことが善だと、私達は教えられます。しかし、30代も半ばを過ぎた今、独身の男女が「しっかりした」暮らしをしていると、「だから結婚できないんだよね」と、しっかりしているスキのなさが悪い、というようなことを言われてしまうのです。

結婚できないこともつらいですが、私にはこのことが、けっこうつらいのです。「結婚したい」「誰かと深い関係を結びたい」と願いさえしなければ、何度も貧乏生活をくぐり抜け、なんとかちゃんと生活している自分のことをほめてやりたいくらいですし、今後の人生についても、もっといろいろしっかり楽しいことを組み込みながら生活していこう! という気概も持てるのに、「結婚したい」と思ったとたん、その「しっかりしている」という長所が、全部否定されたような気持ちになるのです。

もちろん、しっかりしている人でも結婚している例はたくさんあるので、私が結婚できない原因はもしかするとそこではないのかもしれず、そう考えるとさらにグルグルとわけのわからない落ち込みのスパイラルに巻き込まれていきそうになるのですが、もしこの先、結婚できたとしてもできなかったとしても、今までそれなりにしっかりと生きてきた自分のことを、否定しないでいたい、と思うのです。

<著者プロフィール>
雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。その「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を昨年上梓。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『POPEYE』などで連載中。

イラスト: 野出木彩