昔、仕事関係で出席した結婚披露宴で、こんな光景を見たことがあります。新婦友人代表のスピーチで、新婦の会社の同僚女性が「○○ちゃん(新婦)を取られてしまうようで、寂しいですけど……」と言いながら、泣き出してしまったのです。

私の隣に座っていた人は「新婦の父でもあるまいし、なんで泣くの!?」とびっくりしており、私も「取られた」という強い言葉に驚いてしまいました。

当時、私はまだ20代の半ばごろで、結婚への焦りもなく、結婚願望すらほとんどなかったので、他人の結婚式で感極まって泣くということがあまり理解できませんでした。

こういう連載をしているせいか、私もときどき、「結婚で、友達に先を越されたときって、どんな気持ちになるの?」という質問をされます。女同士の嫉妬とか、どっちが上かという優越感ゲームのような話を期待されているのだと思いますが、最近私が感じていることは、そういうものとは少し違います。

結婚によって「女の友情」は分断される?

同世代の独身の友人と、結婚への思いを語り合っていたとき、友人がふと言ったことがあります。

「今、すごい自分の気持ちをわかってもらえてる! って感じてるけど、もし雨宮さんが結婚してたり、私が結婚してたりしたら、ここまで純粋に『わかるわかる』って言い合えないかもしれないね」。

結婚してるかしてないか、子供がいるかいないかで、女同士は分断されるとよく言われます。実際どうなのかと言われると、友達が結婚したり出産したりしたくらいで、友情がなくなることなどありません。「早く結婚しなよ~」「子供はいいよ~」なんて毎度毎度先輩風を吹かしてくる友人だったら、つらくて距離を置いていたかもしれませんが、そういう友人は幸いいません。

友情がなくなるわけではない。でも、確かにその「同世代で独身の友達」が結婚することを考えると、私は少し寂しい気持ちになったのです。

もちろん、最初に思うことは「おめでとう!」です。心から彼女の幸せを祈っています。ねたむ気持ちはありませんし、もしそんなものが湧いてきたら、すみやかにその感情を分析し解体します。彼女との友情が大事だからです。

ただ、こんなふうに、私の苦しみを自分のことのように理解してくれて、同じつらさを分かち合えて、深夜まで一緒に飲めるような「独身」という立場の女友達と、今までと同じようにはつきあっていけないのだな、と思うと、やはり寂しいのです。

もしかすると、友達の中で、自分ひとりが独身のまま年老いていくかもしれない。そう考えると、周りが夫婦、家族ばかりになってゆく中で、どのようにプライドを持ちながら軽やかに生きてゆけるのか、途方に暮れてしまいます。

何かに例えるならば、同じ部活でがんばってきた先輩が先に卒業してゆくような気持ちでしょうか。そして、自分の学年には部員が私一人しかいない、みたいな……。無理に例えようとしてえらく寂しい光景を想像させる結果になって申し訳ありません。

さすがにそんな気持ちで、三十代後半の女が結婚式でスピーチを読みながら泣いていたら、めでたい席がお通夜のような雰囲気になるのは避けられないので、それだけはやめておこうと思いますが……。

しかし、こういうことを言っていると、結婚が決まった友達が私にそれを言うタイミングをどうするか、非常に気を遣われたりして、それが一番つらいというか、申し訳ないのですよね。みんな、ウエディングハイになって、こちらの寂しさなど吹き飛ばす勢いでガンガン報告してほしいものです。

<著者プロフィール>
雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。その「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を昨年上梓。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『POPEYE』などで連載中。

イラスト: 野出木彩