最近、とある仲の良いご夫婦と食事をしていたところ、奥さまの口からこんな言葉が飛び出しました。

「やっぱり、今の世の中、古臭いけど結婚するのが当然っていう風潮がまだまだあるでしょう? 私なんか、そういうの従っちゃうほうだからなんとなく結婚しちゃったけど、別に結婚がそんなにいいかっていうと、それはそれで大変だしねぇ……。考えがあって、独身を貫いてる人って、カッコいいと思うわ」

ちょ、ちょっと待って……! 思わず口の中に放り込んだアツアツのカキフライを吐き出しそうになりました。

この連載を読んでくださっているみなさんならご存じかと思いますが、私は別に、「主義主張があって独身」を貫いているわけではないのです。

「なんとなく」結婚できる人とは?

「なんとなく世間の風潮に流されて結婚しちゃった」人がいるのと同じように、この世の中には、私のように「なんとなく結婚してなくて独身」という人もいます。この二種類の「なんとなく」の違いはなんなのでしょうか。

私は、確固たる信念があって「独身でいたい」と思っているわけではないですし、確かに結婚するかもというタイミングも人生の中で何度かありました。でも、それをことごとく逃してきたということは、やっぱり心のどこかで「結婚するのが人として当たり前」とは、思っていないのかもしれない……。そんな気がしてきました。

「結婚したい」と言いつつも、「楽しくない結婚なら、しないほうがまし」とか、「正直、可能な限りめいっぱい仕事したい」とか、実は思っているんじゃないか……。そして、「なんとなく結婚した」人は、「どんなものでも、とりあえず結婚というものを経験してみるか」とか「いいトシだし、そろそろするもんだよな」とか、そういうふうに思っているのではないでしょうか。

「結婚したい」と「結婚するのが当然だ」という二つは似ているようで、実は全然違っています。「結婚したい」という気持ちと、「結婚するのが当然だ」という考え方の間には、実は暗くて深い河が流れているのでは……。そんな気がした一日でした。このミゾを埋めることに成功した人から、結婚してゆけるのかもしれません。

<著者プロフィール>
雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。その「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を昨年上梓。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『POPEYE』などで連載中。

イラスト: 野出木彩