独身女によく投げかけられる代表的な言葉のひとつに、このようなものがあります。
「プライドが高すぎるからいけないんじゃないの?」
こう言われて「あー、そうかも! 私ってプライド高いからダメなのかも!」なんていうリアクションを返す女は、ほぼいないと言っていいでしょう。
ほとんどの場合「そんなことないよ!」と、否定の言葉が返ってきますし、私も全身全霊で「そんなことないよ!」と言い返したことがあります。でも、「そんなことないよ!」では言い尽くせない、複雑な感情がその背後にはあるのです。
独身女性の傷だらけのプライド
「結婚したい」と思っている独身女性の多くは、日常的に傷つく機会が非常に多いです。私は現在、36歳ですが、24歳には24歳の、27歳には27歳の、32歳には32歳の焦りがあります。
年下の女性からは「ああはなりたくない」という目線で見られ、同世代の男性からは、結婚してないというだけで「なんか融通きかなそうで怖い」「手を出したら本気になられそうで重い」と、微妙に口説きづらい対象として見られ、女を磨こうとがんばれば「気合い入りすぎ」「結婚焦ってるの見えすぎて逆に怖い」、仕事をがんばれば「もう仕事に生きることに決めたんだね! 応援するよ!」と見当違いな応援をされる……。それが独身女性の日常です。
婚活市場では、36歳なんてもう値崩れ起こしまくってたたき売りするしかない年齢だということも、わかっています。「そのトシで相手を選ぼうなんてぜいたく」だと言われるような年齢であることも……。
「結婚」というものを考えるとき、すでに独身女性のプライドはズタズタなのです。たとえ若くても、周りの結婚できている女性と比べて自分には何が足りないのかと悩む人も多いでしょうし、「本当はこれぐらいの年齢で結婚して、出産するつもりだったのに、私は何をしてるんだろう。どうしてうまくやれないんだろう」と、理想のライフプランとの誤差にやりきれない思いを抱えている人も多いでしょう。
そんな状態で「プライドが高い」と言われても、「そうじゃなくて、もうプライドがズタズタだから、最後に残った小さなプライドぐらい自分で守らないと、生きていけないんだよ!」という悲痛な叫びを返したい気持ちでいっぱいになります。
最後に残ったプライドは、人として、女として、生きる尊厳なのです。世間一般の認識が「それを捨てて婚活しないと、もう結婚できないよ」というものであっても、それなりにがんばって生きてきた自分をたたき売りするのは悲しすぎると思ってしまうのです。
高く売ろうとは思わない、けれど、安売りしないといけないような場所に行ってこれ以上傷つきたくない……。そんな複雑な独身女の心は、説明すればするほどさらに「めんどくさい」「重い」ものであり、なかなか人には言えないもの。それを言わずにグッとこらえて毎日必死に生きている独身女の気持ちを、少しはくんでもらえるとうれしいなと思います。
<著者プロフィール>
雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。その「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を昨年上梓。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『POPEYE』などで連載中。
イラスト: 野出木彩