近年は大規模な災害が日本各地で頻繁に起きている。2019年だけ見ても、10月の台風19号はいくつもの河川で氾濫を引き起こしたし、9月の台風15号では電柱の倒壊などが原因で1カ月以上もの停電生活を余儀なくされたエリアが出た。千葉県や福島県を震源地とするM6以上の地震も頻発し、九州での豪雨による災害が激甚災害に指定され、「命を守る行動を」が「新語・流行語大賞」にノミネートされた。
このような災害大国・日本では、いつ自分が大規模災害に見舞われるかわからない。いざ、大雨や地震などに遭遇した際に被害を最小限に食い止めるには、日頃からの備えが肝要となる。そこで今回、東京都墨田区にある本所防災館の今村均館長に各種災害への対策などについてうかがった。最終回のテーマは「防災グッズ」だ。
避難時に役立つ非常用持ち出し袋の中身は?
地震や台風などの深刻な災害が発生し、緊急で避難しなければならなくなった場合、そこから荷物をまとめていたのでは逃げ遅れてしまう。最低限必要なものを「非常用持ち出し袋」として事前に用意し、まとめておくことが大切だ。非常用持ち出し袋を用意する際は以下のポイントに注意しよう。
■両手が使えるような形状のものを選ぶようにする
■なるべく移動の際の負担になりにくいものを選ぶ
■家族とはぐれた場合に備え、1人につき1個の非常用持ち出し袋を用意する
■玄関などのすぐに取り出せる場所に置いておく
次に非常用持ち出し袋の中に入れておくとよいアイテムを挙げていく。
・懐中電灯などの明かり
セットで予備の電池なども確保しておくとよい。最近はLEDライトなど、エネルギー効率のよいものもある。ローソクとマッチ、ライターなどもあってもよいが、避難所などでは裸火を使うことはできないので、基本的には電池などがなくなった場合の予備として扱うのがよいだろう。
・飲料水、食料品
飲料水と食料品は最低3日分あるとよい。食品は調理が不要で、なるべくそのままでも食べられるものを用意しておくほうがベター。ストレスがかかると唾液も出にくくなるので、食べやすいものを選ぶ。子どもの離乳食などは入手しづらくなる可能性があるので、必ず用意しておこう。
・携帯ラジオなどの情報端末
災害の状況を確認できるような情報端末も必須アイテム。災害時にはデマなどの誤った情報が流布されてしまうことがある。正しい情報を得られるようにしておきたい。
・モバイルバッテリーなど
近年ではスマートフォンなどで情報収集し、SNSなどで連絡や発信するのが大半。バッテリーを充電できるようなものを用意しておくのもよいだろう。
・衛生用品、常備薬、救急用品など
子どものおむつや生理用品などの衛生用品、持病がある人の場合は常備薬も入れておく必要がある。普段飲んでいるサプリメント、ケガをしてしまった際に用いる消毒薬や包帯などもあるとよいだろう。
・着替えや防寒用品、雨具
着古したもので構わないので、動きやすい衣類も入れておく。災害時には至る所に危険なものが散乱する恐れがあるため、長袖・長ズボンがおすすめだ。ブランケットやカイロなどの防寒用品もあるとよい。女性の場合はロングスカートや、子どものプールで使う巻きタオルなども避難所での着替えでプライバシー確保にも役立つ。季節ごとに内容を変えるのもよいが、どの季節にも対応できるように用意しておくとよいだろう。また、雨合羽などの雨具も用意しておこう。
・貴重品など
通帳、印鑑、保険証、免許証などの貴重品類も緊急時に持ち出せるようにしておきたい。現金も小銭を含めていくらか用意しておこう。特に10円玉は公衆電話で連絡する場合に必要になる可能性が高い。
・ヘルメットや防災頭巾、手袋、靴
避難時には思わぬものが落下してくることもあり、地面にさまざまなものが散乱している可能性もある。頭を守れるものや軍手のような手袋、丈夫な靴があるとよい。
いろいろと列挙していったが、基本時には「最低限のもの」を意識して用意してほしい。荷物が多くなれば身動きが取りにくくなるし、それで避難が遅れてしまったならば本末転倒だ。そのうえで、自分の心が落ち着くようなちょっとしたアイテムを少しプラスしておくのは、精神衛生を保つためにはいいかもしれない。
「例えば、お子さんが遊ぶためのおもちゃやトランプなどのゲームだったり、キャラメルやチョコなどの甘いお菓子だったりと、心を静めてくれるようなちょっとしたものはあってもいいと思います」(今村館長)
その他、好きな香りのハンドクリームなどもよいが、香りの強すぎるものは周囲に人がいる避難所では厳禁。香りが苦手な人がいるかもしれないということも認識しておきたい。
また、過剰なアイテムも避難所では考え物だ。避難所は誰もがストレスを抱えた状態にある。その中で一人だけ、充実したアイテムで過ごしてしまうことは、不要なトラブルを招きかねない。「自分のことは自分で守る」が災害時の鉄則ではあるが、他の人を刺激しないことも重要。キャンプ用品やカセットコンロなどは便利ではあるが、多くの人がいる環境では使うことが難しいかもしれない。非常時であることを十分に理解して用意するようにしてほしい。
ライフライン断絶に備えてローリングストックをしよう
大規模災害が起きても、必ずしも避難所生活となるわけではない。食料に問題がなく自宅が安全であれば自宅避難という選択肢もあるため、自宅避難に備えて専用に備蓄しておくことも大切。衛生用品や常備薬など、自分や家族がいつも必要としているものを少し多めにストックしてお無理きなく備えよう。
備蓄のすべてを災害時用の長期保存できる食料にする必要はなく、缶詰やレトルト食品など、普段の食事にも使いながら、常に一定の日数分の食料品や衛生用品などを用意(ローリングストック)しておけるように、意識しておくと無駄がなくなる。
自宅だけでなく、職場での備蓄や防災の備えも肝要だ。職場も自宅と同様に長時間いる場所であり、災害時には帰宅困難などで身動きが取れなくなる可能性がある。会社で備蓄を行っている場合もあるが、自分でもデスクの引き出しなどにストックを作っておいてもよいだろう。
災害が起こった際に自分を守れるのは自分だけ。自分の命を守るために最低限必要なものは何かを考え、今から万一の事態に備えるように心がけよう。