近年は大規模な災害が日本各地で頻繁に起きている。2019年だけ見ても、10月の台風19号はいくつもの河川で氾濫を引き起こしたし、9月の台風15号では電柱の倒壊などが原因で1カ月以上もの停電生活を余儀なくされたエリアが出た。千葉県や福島県を震源地とするM6以上の地震も頻発し、九州での豪雨による災害が激甚災害に指定され、「命を守る行動を」が「新語・流行語大賞」にノミネートされた。
このような災害大国・日本では、いつ自分が大規模災害に見舞われるかわからない。いざ、大雨や地震などに遭遇した際に被害を最小限に食い止めるには、日頃からの備えが肝要となる。そこで今回、東京都墨田区にある本所防災館の今村均館長に各種災害への対策などについてうかがった。第2回のテーマは「台風」だ。
台風や大雨でどのようなことが起こる?
台風や大雨の被害で深刻なものに、水害がある。河川の氾濫は最初にイメージされるもののひとつだが、近くに河川がないからといっても油断はできない。「内水氾濫」と呼ばれる都市型の水害もあるのだ。内水氾濫は街中で降った雨が局所に集中し、処理能力を超えて下水などが逆流してしまうような事態を指す。
また、潮位が高いタイミングで台風が襲来してしまうと、高潮による災害も起こる。高潮の威力は津波に匹敵するほどのもの。海抜が低い地域などは、浸水被害なども想定される。
さらに台風の場合には風の脅威もある。瞬間的には特急電車や新幹線に匹敵するような速さの風速があり、その速度でいろいろなものが飛ばされてしまうとイメージすると、その脅威が想像しやすいのではないだろうか。
大雨や台風の風を実際に体験
取材に協力してくれた本所防災館では、大雨や台風の風を疑似体験できる施設があるので、実際にどのようなものか試してきた。
この施設で体験できる雨量は、50mm/h以上の雨。かなり重装備な長靴に雨合羽が用意されており、どれほどの雨なのか不安がよぎる。マスクも装着して、なるべく前を見ずにうつむき加減でバーを握るように指示された。
雨が降り始めると、まず雨粒が雨具に当たる轟音が耳に響いた。これでは車の走行音など周囲の物音にも気づきにくくなってしまうだろう。そして、指示通りにうつむき加減で待機していたのだが、雨量が多すぎて雨水が鼻に入ってしまい、呼吸もしにくい印象だ。当たり前だが、傘などがさせる状況ではない。ちなみに、雨量が50mm/hを超えてくると、都市部の水の処理能力を上回ると言われている。
続いて、風速30m/sの暴風を体験した。一瞬、体を後ろにもっていかれそうになるような圧を感じ、しっかりとバーを握る。やや前傾姿勢で踏ん張っていないと体勢を維持することは難しく、おそらく歩行もやや困難だろう。もし、この風の中で傘をさしていたとしたら、なんと92㎏の人を傘で受け止めているのと同じくらいになってしまうという。
先日、甚大な被害をもたらした令和元年台風19号は、最大風速55m/sと言われており、その猛威はどれほどだったか想像できなかった。実際には、雨と風の両方が同時に襲ってくることもあり得る。事前にしっかりと安全対策をしておくべきだと実感した。
台風や大雨の前にできる対策は?
台風が来ると予想される場合において、あらかじめしておいた方がよい対策を以下にまとめた。
■窓や雨戸などの戸締まりをしっかりとしておく
■側溝や排水溝などは掃除をして水はけをよくしておく
■屋外に置いてあるものは屋内に格納し、風で飛ばされないように対処しておく
■停電や断水などが起こる可能性に備え、飲料水だけでなく、風呂に水を溜めておくなどして生活用水の確保もしておく
「台風が来るとわかっているようでしたら、雨戸がある場合は雨戸の戸締りをしっかりして、強風でガラスが割れて部屋の中に飛び散るのを防ぐためにカーテンも閉めておきましょう。可能であれば飛散防止フィルムを窓に貼り、もしないようでしたら養生テープでも代用可能です」
河川の増水が激しい場合、避難を余儀なくされる可能性も出てくる。平時より避難所の場所や避難経路を把握しておき、緊急時にはどこへどう行けばよいのかを確認しておくのがよい。
「実際に避難するとなったら、気象庁が出している警戒レベルでご自身がお住いのエリアの状況を把握し、緊急避難に時間を要する年配の方やお子さんがいらっしゃるようでしたら早めに避難所に行っておくといいでしょう。結果的に避難が必要なほどの被害が出なかったとしても、今後の緊急避難時における予行演習にもなります」
避難が取り越し苦労に終わっても、被害が大きくなって避難そのものができなくなる事態よりははるかによい。ニュースなどに耳を傾け、常に状況を把握するようにしておきたい。
港区にも土砂災害警戒区域が存在する!
台風や大雨に伴う水害は地形による影響も大きく、各地域でハザードマップなども公開されている。また、崖崩れや土石流などの土砂災害が起こりやすいエリアについては、都道府県から「土砂災害警戒区域」として指定されている。都市部では関係ないと思っている人もいるかもしれないが、実は港区や世田谷区などでも、指定されているエリアが存在する。事前にしっかりと確認しておき、万一の際に戸惑わないようにしてほしい。
そして、当たり前ながら台風や大雨の際には不要不急の外出は控えるように。河川や用水路などに近づかないのはもちろん、強風によって壊れた看板や倒木など、どのような危険が迫っているかわからない。もし帰宅が間に合わないような場合には、土砂災害や洪水、高潮などのリスクのあるエリアから速やかに離れ、浸水の可能性を考慮し、近くの頑丈な建物の3階以上の場所などに避難するようにしよう。
近年は気象状況の変化もあり、10月に猛威をふるった台風19号クラスの台風がまたすぐやってくる可能性も否定できない。災害は忘れた頃にやってくる――。普段から防災意識を高め、しっかりと対策をしておくようにしてほしい。