先日、JR常磐線の特急「ひたち」に乗った。目的地は勝田駅。普通列車でもいいし、特急「ときわ」でもよかったけれど、ちょうどいい時間帯が「ひたち7号」だった。乗ってみてびっくり。上野駅から水戸駅まで、117.5kmをノンストップで走った。在来線特急としては、かなり豪快なノンストップ区間だと思う。ダイヤ改正のたびに時刻表を通読しているから、たぶん知っていたはず。だけど実際に乗ってみて感激した。帰宅した後、早速、列車ダイヤ描画ツール「Oudia」で常磐線を描いてみた。
常磐線は東京都の日暮里駅と宮城県の岩沼駅を結ぶ幹線だ。運転系統としては上野~仙台間を結び、東北本線を補完する役割もあった。1982年の東北新幹線開業で、東北本線はローカル列車主体のダイヤになったけれど、常磐線は現在も特急列車が活躍する。速達型の特急「ひたち」は爽快な走りを楽しませてくれる。停車型で短距離の特急「ときわ」を含めると、おおむね30分間隔の運行となる。一方、仙台寄りは単線区間もある閑散線区。東日本大震災で被災した不通区間も残る。特色のあるダイヤを描けそうだ。
今回は品川~仙台間のダイヤを作ってみた。2015年3月のダイヤ改正で上野東京ラインが開業し、常磐線の多くの列車が品川駅発着となった。時刻表の常磐線のページも品川駅・東京駅発着時刻の欄が設けられた。そこには常磐線の列車しか掲載されていないため、東海道線・宇都宮線・高崎線の列車も追加。岩沼~仙台間では東北本線の列車を追加した。常磐線長距離列車とは別掲扱いの常磐線快速電車も加えている。
色分けはいつものように、赤が特急列車、緑色が快速・特別快速、青がホームライナー系統を示している。黒い線は普通列車。ちなみに仙台付近の早朝と夜の赤い線は寝台特急「カシオペア」だ。全体を通して見ると、都心寄りは常磐線快速の緑色が目立ち、郊外は特急列車がメイン。特急列車は短距離系統と長距離系統がある。ここまでは当連載第57回の中央東線と似ている。都心をターミナルとする幹線の典型といえそうだ。新幹線が開業するまで、ほとんどの在来線幹線がこのような姿だったと思われる。
列車の線の濃度を比較すると、品川~上野間の密度が最も高い。4系統の路線が入り込むから当然だ。続いて常磐線快速電車も走る上野~取手間。取手駅は常磐線における直流区間の駅の北端に当たる。ここから仙台方面は交流電化区間で、上野方面へ直通する列車は交直流両用電車だ。緑の線のいくつかは土浦駅まで伸びている。これは特別快速で、つくばエクスプレスに対抗して設定された。
上野~取手間に次いで列車の多い区間は取手~勝田間。勝田駅の手前の水戸駅は茨城県の県庁所在地の駅で、特急列車は都市間連絡の役割が大きい。特急「ときわ」が水戸駅を終点とせず、隣の勝田駅まで走る理由は、勝田に車両基地があるから。近くに大企業の工場も集積しているため、水戸駅から回送ではなく、勝田駅まで営業運転を行っている。勝田駅はひたちなか海浜鉄道湊線の起点で、おおむね特急列車と接続している。
いわき駅は特急「ひたち」の終着駅。いわき市は福島県の沿岸地域の中核都市である。常磐線特急列車は東京都内と茨城県・福島県を結ぶ都市間連絡特急として、ビジネス需要が多い。運行頻度の多さも納得だ。
ところが、いわき~岩沼間になると運行本数が激減する。かつては特急列車が仙台駅へ到達していたけれど、現在は直通列車はなし。単線でもともと運行頻度が低い上に、東日本大震災の影響で不通となっている区間もある。岩沼~仙台間は東北本線で、仙台通勤圏だから運行本数も多い。しかし、常磐線からの直通列車は少ない。単線のため、住宅開発は東北本線のほうが主だったのかもしれない。
常磐線らしいところを拡大してみよう。上野~勝田間では、朝ラッシュ時間帯に車両基地のある勝田駅から都心へ、特急列車が次々に発車していく。まるで城攻めに行く水戸藩士のようだ。逆に夜の時間帯は続々と勝田駅に凱旋してくる。これが毎日のように繰り返される。ただし、屈強な水戸藩士も、都心の通勤ラッシュには抗えない。上野のお堀にせき止められ、東京駅にはたどり着けない。
上野~水戸間ノンストップの特急「ひたち7号」は、品川駅を9時44分に発車し、東京駅は9時53分発、上野駅は10時ちょうど発だ。10時に上野駅から右下へ向かう線を見ると、他の特急列車より急角度。やはり速い。普通列車の追い越しも多く、気分がいい。
「ひたち」「ときわ」の前身「スーパーひたち」「フレッシュひたち」は長らく上野駅発着で親しまれた。現在も常磐線特急列車の大半が上野駅を毎時0・30分に発車している。これだけの頻度で等間隔の運行だと、国鉄時代ならエル特急のブランドも付いただろう。「ひたち」「ときわ」がエル特急にならない理由は、エル特急のブランド自体が使われなくなったというだけではなく、エル特急の条件でもあった自由席がないからともいえる。ともに全車指定席で、自由席の代わりに座席未指定券という制度がある。筆者が乗車したときは、ほとんどの乗客が指定席券での乗車だった。
仙台側は東京側とまったく異なる運行状態になっている。駅名の横の青い線は単線区間を示す。いわき駅を境に、運行本数が極端に少なくなる様子がはっきりわかる。都市部ではない上に、被災してこの土地を離れた人が多く、乗客も少ないのかもしれない。
竜田~原ノ町間と相馬~浜吉田間が震災による運休区間だ。実際に列車が走っていれば各駅が表示されるはずだけど、「Oudia」では時刻入力のない区間が省略され、圧縮されてしまった。東北本線の仙台駅付近は活況だ。運行本数も多く、復旧の手応えを感じる。
常磐線では、東日本大震災で被災するまで、上野~仙台間を走破する特急「スーパーひたち」が設定されていた。震災がなければ2012年3月からいわき駅で特急列車が分割され、いわき~仙台間で新しい名称の特急列車が走る予定だった。もし実現していれば、この区間はもっとにぎやかになっていたに違いない。
不通区間の復旧見込みについては、竜田~富岡間は2018年、富岡~浪江間は未定(除染と安全確認後)、浪江~小高間は2017年内、小高~原ノ町間は2016年春、相馬~浜吉田間は線路を内陸に移設して2017年春と見込まれている。復旧が完了し、この地域の人々に笑顔が戻り、筆者も含む鉄道ファンが嬉々として、この区間の列車ダイヤに赤いスジを書き入れる。そんな日が1日も早く訪れてほしい。