大手私鉄で最長路線の東武伊勢崎線には、大手私鉄最長の複々線区間があり、列車の種別によって使用する線路を使い分けている。この区間では、優等列車が走行中に普通列車を追い越す場面を1日中楽しめる。さて、最も追い越しを楽しめる列車はどれだろう?
前回は東武伊勢崎線の全駅・全列車を「Oudia」に入力した。最長距離路線が区間によって異なる役割を持っている様子がよくわかった。今回は最も列車本数が多い区間に注目しよう。列車ダイヤは前回のデータを使う。ただし、駅の設定画面で東武動物公園駅の次、和戸駅から伊勢崎駅までを削除する。これで浅草~東武動物公園間のダイヤのみ表示できる。現在は「東武スカイツリーライン」と呼ばれる区間だ。
駅間を拡大しても、1日分を圧縮すると密度が高い。時間軸を拡大し、上り列車のみ・下り列車のみに限定して表示したほうが良さそうだ。
その前に、この複々線区間の構造を知っておきたい。複々線区間だから線路は4本あるとして、内側の2本が普通列車用の緩行線、外側は通過タイプ用の急行線だ。上り線・下り線が並びそろっている。この状態を「緩急分離型、方向別複々線」という。
普通のみ停車する駅は中央に島式ホームひとつだけ。ホームの両側に上り・下り普通が停車する。急行線の列車は停まらないからホームはない。準急以上の列車が停車する西新井駅・草加駅・新越谷駅・越谷駅・北越谷駅は上り・下りそれぞれに島式ホームがあって、同一方向で普通列車と準急以上の列車を乗り継げる。
草加駅・越谷駅は、急行線側で待避線と通過線の両方があり、通過タイプの列車同士の追い越しも可能。したがって最もワクワクする場面は、「普通列車を準急や急行が追い越しつつ、さらに特急列車が追い越していく」となりそうだ。早速、ダイヤ上で探してみよう。
まずは朝の上り時間帯から。赤が特急、青が急行、黒の太線が準急で、細線が普通を示す。駅間で黒い細線とその他の色の線が交わっている。これらが走行中の追い越しを示している。草加駅や西新井駅を見ると、普通列車の停車時間が長く、まるで準急や急行を待避しているように見える。実際は独立した線路を走っているけれど、相互の列車の乗り換えに配慮した設定になっているようだ。
予想に反して、複々線区間内の通過タイプ同士の追い越しは少ない。通過タイプ同士の追い越しは、複々線区間の前後、せんげん台駅・北越谷駅や鐘ヶ淵駅で行われている。複々線区間内では、通過タイプの列車の所要時間はほぼ同じで、並行ダイヤになっている。このほうが運行本数を増やせるからだ。普通列車も追い越しを気にしなくていいから並行ダイヤ。複々線区間は、異なる角度の並行ダイヤが重なっているように見える。
そんな中、特急列車は気持ちよく追い越してくれている。せんげん台駅や北越谷駅で急行や準急を追い越した後、複々線区間内を走行中に普通列車3本を追い越す。普通列車も3回くらい追い越される。それに比べると、急行や準急の追い越し回数は少ない。追い越しを楽しむなら、最も速い列車か、最も遅い列車が良さそうだ。
複々線区間内の急行線の待避設備は、列車の本数が減ってから使うようだ。上りの9時台の草加駅に注目。準急や急行が特急を退避し、その後、走行中に普通を追い越している。列車種別の秩序がきちんと維持されている。
一方、下り列車は朝から草加駅で通過タイプが追い越している。上り方向は通勤ラッシュだけど、下り方向は比較的空いているからだろう。実際には上り列車と同じ数だけ下り列車も走らないとつじつまが合わないけれど、おそらく回送列車として走っているはず。時刻表には掲載されないから、ダイヤにも反映されない。
下り列車は日光方面へ向かう観光客が多い。だから特急列車に力を入れている。特急列車が最高速を出せるように、草加駅と越谷駅の待避設備がフル稼働している。それは日中のダイヤにも表れている。運行本数にゆとりがあるようで、特急・急行・普通がきれいなパターンを作っていた。特急・普通の走行中の追い越しは五反野駅付近、急行・普通の走行中の追い越しは松原団地付近だ。
走行中の追い越しを体験したいなら、日中の追い越し定番スポットに出かけてみよう。