騙されない投資家になるために……。投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。その第9回です。

日本国債は大丈夫か、オオカミ少年の教訓

第3・4回「債券は株式より安全かで、債券にもリスクがあることをお伝えしました。債券の中では、米国や日本、ドイツなど主要国の国債はかなり安全性が高いとされています。日本国債は本当に大丈夫でしょうか。

日本の財政は危機的状況だと書くと、必ず「いたずらに危機感を煽っている」とか「増税したい財務省の手先だな」と怒られます。そして、日本国債の利回りは世界最低水準であり、投資家が低い利回りでも喜んで(我慢して)購入するのはそれだけ安全性が高いからだと指摘されます。全くその通りです。でも、それはいつまでも続くのでしょうか。

日本国債が安全な理由とは

日本国債が安全な理由として主に

1.日本は世界最大の純債権を保有している
2.国債のほとんどが国内で消化されている
3.政府の債務残高を超える個人金融資産がある

などが挙げられます。

日本の経常収支は基本的に黒字です。毎年の経常黒字(フロー)の積み重ねが対外純債権(ストック)になっています。日本は国としてみれば、外国からの資金を必要としていません。事実、外国人が保有する日本国債は発行残高の1割程度に過ぎません(米国債の場合、外国人保有比率は4割弱です)。そのため、新興国などで時折見かけるような外国資金の引き揚げによって金融危機が発生する可能性はゼロに近いでしょう。

これからも安全であり続ける保証はない

もっとも、日本国債が安全なのは、投資家が安全だと信じている限りにおいてです。何かのキッカケで投資家が「国債は危ない」と感じて売り始めれば、売りが売りを呼ぶ展開となるかもしれません。

国債を保有する金融機関の財務状況は大きく悪化し、また国債利回りの上昇によって財政赤字は拡大するでしょう。キッカケは、政府が財政健全化の努力を放棄する、国の経常収支が赤字に転じる、日本銀行が量的緩和(≒国債購入)を終了する、など色々と考えられます。

徴税権の行使?

政府には徴税権があるので、これを行使すれば国債を買い戻したり、財政赤字(≒国債発行額)を減らしたりできるとの指摘があります。事実、政府は財政健全化のために消費税を引き上げてきました。

ただし、2019年10月に予定される「たった2%」の消費税増税にも強い反対があるのはご案内の通りです。政府が預金封鎖や苛烈な増税を断行すれば、国債のデフォルト(債務不履行)は避けられるでしょう。しかし、国債の「安全」のために、国民生活や金融市場が大混乱に陥るとすれば、「何をか言わんや」です。

財政ファイナンス?

また、自国通貨建て債務であれば、おカネを刷れば(=日本銀行が引き受ければ)返済できるとの指摘もあります。日本銀行が引き受ければ、理論上、国債発行に限界はありません。いわゆる「財政ファイナンス(マネタイゼ―ション)」です。しかし、際限のない「財政ファイナンス」はインフレ高騰を招く可能性があります。

そうなる前でも、「財政ファイナンス」の匂いをかぎ取った世界の投資家によって日本円は売り込まれるかもしれません(急激な円安それ自体もインフレ要因です)。やはり、国民生活は混乱するでしょう。日本銀行が2%の物価目標さえ達成できていない現状では、そうしたシナリオに現実味はないかもしれませんが、決して絵空事とは言い切れません。

そうした混乱を避けるために、自国通貨建てであっても政府が敢えてデフォルトを選択する可能性はゼロではありません。1998年にはロシア政府がルーブル建ての債務をデフォルトしました。過去に例もあるのです。

ハイパーインフレの例

ハイパーインフレの例は、何も第一次大戦後のドイツまで遡る必要はありません。2000年代にはジンバブエでハイパーインフレが起こり、ほぼ無価値となったジンバブエドルは2015年9月に正式に廃止されました(米ドルや南アフリカランドなどが流通)。

また、2018年にはインフレ率が100万%に達すると予想されたベネズエラで95%の通貨切り下げと5桁のデノミが実施されました。さすがに、日本が同じような道を歩むとは思いませんが、経済政策の失敗が大変な結果につながる例は身近にあるのです。

オオカミ少年の教訓

何年も前から折に触れて、財政危機の警鐘が鳴らされてきました。しかし、「国債暴落(悪い金利の上昇)」や「キャピタル・フライト=国外への資金逃避(悪い円安)」は現実のものとなっていません。そうした警鐘は、イソップ童話における羊飼いの少年の「オオカミが来た!」に過ぎないのでしょうか。

イソップ童話の教訓は、嘘をつき続けると誰にも信用されなくなるということのようです。そして、オオカミは最後にやってきました。村人の立場から言えば、自分たちの羊が食べられたということです。

日本で暮らす私たちは、日本経済のステークホルダー(利害関係者)です。別の言い方をすれば、我々も「羊を飼って」います。「少しでも可能性のあることに備えていなければ、大きな被害にあう場合がある」。これが、私たちが学ぶべきもう一つの教訓でしょう。

様々なシナリオに備えるため、国債に限らず円建て資産に100%投資するのではなく、外貨(外貨建て資産)も持つべき。これが第6回「外貨を持つことの意義」の結論でした。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして活躍。

2012年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。現在、マネースクエアのWEBサイトで「市場調査部レポート」「スポットコメント」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、動画サイト「M2TV」でマーケットを解説。