投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。マーケットの主要な商品である株価・金利・為替の間にはどんな関係があるでしょうか。米国を例にとって考えてみましょう。
なお、金利の代わりに債券価格を考える場合は、方向を逆にして考える必要があります(金利低下=債券価格上昇、金利上昇=債券価格下落のため)。
株価・金利・為替は相互に影響しあう
株価・金利・為替(以下、通貨)はいずれも、経済情勢や要人発言、政治、その他のイベントなど、いわゆる広い意味でのファンダメンタルズを反映して変動します。そして、株価・金利・通貨が相互に影響しあうという点も見逃せません。
ただ、株価・金利・通貨が常に一定の関係を維持するわけではありません。例えば、景気が良いと、株価は上昇し、金利も上昇するでしょう。ところが、他の条件が一定の場合、金利の上昇は株価の下落要因です。あるいは、金利が上昇すると、高い金利につられて国外から資金が流入するので、その国の通貨は上昇するでしょう。しかし、通貨が下落することで、輸入インフレが懸念されて金利が上昇するというケースもあります。
目まぐるしく変化する株価・金利・通貨の関係
ここでデータを用いて簡単な分析してみましょう。株価(S&P500株価指数)、金利(米10年物国債利回り)、通貨(米ドル実効レート)の各週の終値を用います。そして、株価と金利、株価と通貨、金利と通貨の過去26週間(=半年間)の相関係数(※)を、2017年以降について求めました(下図)。
(※)相関係数は、ー1から1の値をとり、1が完全な正の相関(片方が上がっている時に、もう片方も常に上がっている。あるいは片方が下がっている時に、もう片方も常に下がっている)。ー1が完全な負の相関(逆相関。片方が上がっている時に、もう片方は常に下がっている。あるいは片方が下げっている時に、もう片方は常に上がっている)。0は無相関(片方が上がっている時に、もう片方は上がっている時と下がっている時が同じだけある)。
図から見る限り、いずれの組み合わせでも、正の相関の局面も負の相関の局面もあることがわかります。つまり、「金利上昇と通貨高」や「金利低下と株高」というようなステレオタイプの関係ばかりではなく、「金利上昇と通貨安」や「金利低下と株安」などの組み合わせも散見されるということです。
それだけだと、「その分析は何の役にも立たないね」となってしまうので、もう一段掘り下げてみましょう。
組み合わせの4パターン
株価・金利・通貨のそれぞれが、上がるか、下がるかと考えれば(横ばいは想定しない)、3つの組み合わせは8通り(=2×2×2)あります。ただ、いずれもが上昇するケースは、いずれもが下落するケースと、同じテーマに基づいていると考えることが可能なので、考察すべきパターンは半分の4通り。すなわち、(1)3つとも同じ方向に動く、(2)株価だけが違う方向に動く、(3)金利だけが違う方向に動く、(4)通貨だけが違う方向に動く、です。
(1)株価・金利・通貨が上昇(下落)
この局面でのテーマはズバリ「景気」です。景気が力強く拡大している局面では、株高・金利上昇・通貨高がみられるでしょう。逆に、景気が悪化する局面では、株安・金利低下・通貨安がみられるでしょう。
(2)株価だけが下がる(上がる)
テーマは「金融政策」です。思い切った利上げが想定される局面では、金利が上昇して、通貨は上昇するでしょうが、金利の上昇により企業の業績見通しが悪化して株価は下落するでしょう。逆に、思い切った利下げが想定される局面では、金利が低下して通貨は下落するでしょうが、業績見通しの好転を期待して株価は上昇するでしょう。
もちろん、利上げが実施されるのは、(1)の景気が良好であることの結果でもあります。ただ、「金融政策」がテーマとなるのは、往々にして金融政策の妥当性や有効性に関してマーケット参加者の判断が分かれるようなケース。たとえば、景気に陰りがみられるのに金融当局が利上げに積極的である、景気が悪いのにインフレ退治のために利上げを余儀なくされるなどのケースです。
(3)金利だけが下げる(上がる)
テーマは「資金フロー」です。金利が下がると、債券価格は上がります。つまり、このパターンでは、株価・債券価格・通貨のいずれもが上昇し、いわゆる「トリプル高」となります。その国の通貨および通貨建て資産が世界の投資家から選好され、積極的に資金が流入するようなケースです。逆に、金利だけが上がる時は「トリプル安」であり、投資資金が国外に流出するようなケースです。
(4)通貨だけが上がる(下がる)
テーマは「通貨政策」です。当該国が通貨高政策をとるようなケースです。実力以上の通貨高になるため、企業業績の悪化懸念から株価は下落し、景気悪化により金利も低下します。逆に、通貨安政策をとれば、株価は上昇し、インフレ懸念から金利も上昇するでしょう。
今回はあえて簡素化して考察したため、かなり乱暴な分析との印象を持たれるかもしれません。ここで挙げた以外のテーマでマーケットが動くことも多々あるでしょう。それでも、ある程度のアイデアはつかめたのではないでしょうか。
次回は、実際のマーケットの状況を、今回挙げたテーマに基づいて分類し、解説します。