言葉によって相手に話を伝えるプロ、コピーライター。今回お話を伺った小西利行さんはサントリー「伊右衛門」「ザ・プレミアム・モルツ」、日産「セレナ」などこれまでに手がけた広告は500本を超え、国内外の賞も数々受賞しているベテランコピーライターだ。そんな小西さんが仕事で大切にしている2点とは…!?


小西利行さん
コピーライター/クリエイティブ・ディレクター/劇作家/絵本作家
大阪大学卒業後、93年に博報堂に入社。2006年に独立し、現在のPOOL INC.を設立。「伝わる言葉」を中心にCM 制作から商品開発やブランド開発、企業コンサルティング、都市開発までを手がける。サントリー「伊右衛門」などこれまでに手がけた広告は、500本を超える。海外の権威である広告賞である、CLIO、ニューヨークADC、ONE SHOWほか数々の広告賞を受賞。国内でもTCC賞、ACC賞など受賞歴多数。ENJIN 01文化戦略会議メンバー

みんながリツイートしたくなるつぶやきって?

--仕事で心がけていることはありますか?

小西さん「いつも心がけているのは『それは相手にとってうれしいか』『それは相手が誰かに話すか』というのの、2つだけなんです。もちろん悲しいことや嫌なことを伝えなければいけないときもありますが、少なくとも興味を持つか気にします。相手が『へーっ』と思うのかと、『知ってる?』と言いたくなるか、2点を想像するだけで、意外に言葉が変わってくるんですよ」

--2点ですか!

小西さん「短い言葉では『突破力』『連鎖力』と呼んでいます。突破力はぼんやりしている相手の心の中につっこんで『おっ』という反応を生み出す力です。これは時代の背景もあって、例えば昔は、こうやって耳に手をあてても誰も反応しないですが、今は『あの議員のことか…』となりますよね(笑)。この時代だから刺さった、昔はだめだったけど今だからこそ、という要素も大きいので、情報がアップデートされるのを知って、今何が突破されるのかなっていうのを見極めることが大切です。

そして『連鎖力』は。それを相手がどう話すか、話してくれるかというのを、すごく考えるんです。履歴書を書くとか、手紙を送るとか、Twitterにあげるのも、すべての領域でそうです」

--Twitterは「突破」「連鎖」のイメージがわきやすいです

小西さん「みんながリツイートをばんばんかましてるのは、突破力があって連鎖力があるってことなんですね。リツイートしたくなるつぶやきと、したくならないつぶやきがあるじゃないですか。自分に刺さって、さらに誰かに言いたくなるもの。そのポイントがあるとないとで簡単に情報は精査されます」

--ポイントを見つけるのが大変な…

小西さん「それ、いつも言うんですけど、ポイントを見つけるのは確かに大変なんですよ。でも、『ポイントを見つける』より『ポイントの見つけ方を見つける』方が大変なんですよ。ポイントの見つけ方がわかれば、ポイントが見つかるんですよ。禅問答みたいなんですけど(笑)。『相手のことを想像して、その人が他人に言うかだけ思って書いてください』というのが、ポイントの見つけ方なんです。方法論が自分の中でひとつできあがれば、けっこう見つかるんです」

--たしかに…

小西さん「例えば、記事のタイトルを書こうと思ったときに、自分の好きなフォロワーの人がリツイートする時にどう書くかを考えてみたり、その人がメールを書くときの感覚で考えてみたりすると、その人の顔が浮かぶでしょう。『●●さんにむけて書くんだったらこれは言う必要ないな』とか、どんどんはしょられていって、言葉が先鋭化されるんですよ。SNSの言葉がなぜ難しいかと言うと、誰かに向けて話していないからなんです。空間にむかって大きな声でタイトルを言ってる状態なんですね」

--胸が痛いです

コミュニケーションの基本はどこにでも通じる

小西さん「おじいちゃんにしゃべるのと、上司にしゃべるのと、親しい人にしゃべるのと、違ってくるわけで、誰に伝えるのかを明確に想像して書かれた文章は強いんですよ。これはコミュニケーションだから、当たり前のことで。広く発信するものだから違う…と思う人もいるかもしれませんが、同じなんです。だって伝わらなかったら終わるでしょ? 相手に届けばいいわけですから、その相手が想像できるかというのが勝負なんですよね。

『そうはいっても一般的なおじさんにも知ってほしいし、お姉さんだけじゃないんですよね』という場合もあるんですけど、お姉さんに届かないものはおじさんにも届かないですから。相手のことを想像して一番ほしい言葉で届けてあげるのが、結局広告的なキャッチコピーだし、すべてのコミュニケーションの基本だと思います」

--営業の仕事などでも同じかもしれないですね

小西さん「そうですね。相手のことを想像するのが1番最初にあって、当たり前じゃないですか。居酒屋や会社で相手のことを想像せずにしゃべっていたら、周りも楽しくないですよね。意外にそれを、エントリーシートやインターネットの記事など、外に出す文章ではやってしまうんですよ」

--別物と思ってしまう

小西さん「そうそう。でも、コミュニケーションは基本すべてが同じだから、相手が喜ぶ方がいいんです。だから、相手のことを考える。例えば、企画書にしても、企画を通す相手が、その上司に出したくなるものを書けと言いますね。また報告書などで営業の収益を書くにしても、例えば部長が売り上げにシビアな人なら、楽観的に書かない。『僕はここまでいい成績なのに、シビアに見ています』と書くと、『お前はえらい』となるわけですよ。相手のことを考えれば、書き方も変わるでしょう」

--相手を想像するか…

小西さん「もちろん簡単じゃないんです。でもいくつも方法論があったら『今回はこれをとろうかな』と選ぶことができますね。結局のところやっぱり、覚えるべきは答えではなく解法なんですよ。それなのになぜかコミュニケーションの場合は、答えを求めてしまうことが多いですね」

--この一言で絶対受注! とか

小西さん「むりでしょう、そんなの! この一言でプレゼンは勝てる! と書いてある本とか見ると『いやむりむり!』って思います(笑)」

誰が読んでも面白いものを

小西さん初の著書『伝わっているか?』(宣伝会議/1400 円+税)好評発売中。コミュニケーションの極意を短編ストーリー形式で解説、スラスラ読めて深く納得できる内容で「まったく新しい学べるエンターテインメント」だそう。

--今回出された本(『伝わっているか?』宣伝会議/1,400円+税)も読みやすいですね

小西さん「ビジネス書って千差万別ですよね。自分でもまず、いわゆるビジネス書を書いてみたんですけど、ちっとも面白くなくて。すらすら読めて面白いんだけど、内容が深い、というのをできないかなと思ったんです。小説の方がビジネス書より読みやすいでしょう。海外でエデュケーション・エンタテイメント…エデュテイメントとよばれるジャンルがあって、そこを目指そうと

おばちゃんとか高校生とか大学生とかの人が読んでも何か学びがあるようにするためには、読んで面白いものじゃないとだめだなと思いました。小説にしようと思ったのですが、小説にメソッドを入れ込むのが難しいんですよ。だから、演劇の台本みたいにしました。わかりやすさと面白さを追求したら、このくらいが合っているのかなと。最初に書き始めたやつとはまるで形が違っていたので、1年半ほどかかりましたね」

※次回は『こくまろカレー』『セレナ』『ザ・プレミアム・モルツ』『イオンレイクタウン』など実際の事例から紐解いていきます!(9月27日更新予定)