「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は前回に引き続き、総合コンサルティングファームのアビームコンサルティング株式会社でシニアマネージャー/web3コンサルタントを務める森田直樹氏にインタビューを行いました。

  • 森田直樹氏 アビームコンサルティング株式会社 シニアマネージャー/web3コンサルタント

Web2.0とweb3は対抗しない

――前回に続き、シンガポールのフィンテックイベントについて伺いたいと思います。日本ですと、「Web2.0 対 web3」と二項対立で語られがちですが、シンガポールではどうでしたか?

森田直樹氏(以下、森田氏):海外では、「Web2.0対web3」という対立軸があまりないように感じました。web3に関する講演を聞くなかで、「Web2.0」というワードを耳にすることが少なかったです。対立軸よりも、「グラデーション」と表現した方が適切なのかもしれません。

Mastercardのブースでは、暗号資産データ分析企業のCiphertraceと開発した「ウォレットアドレス信頼性分析」のデモが展示されていました。Web2.0とweb3の強みを掛け合わせたサービス開発が進んでいる印象です。Mastercardの「クリプトカードプログラム」は、安全で拡張性のある信頼できる決済ネットワークを活用しており、9,000万以上の加盟店で日常的な取引にデジタル通貨を簡単、かつリアルタイムに使用できるようにしています。ユーザーの暗号資産ウォレットアドレスをもとに、ダークアドレスかどうか等を判定するサービスも出てきていて、徐々に進む法整備とともに技術的な面も進んでいると感じます。

SFFに参加してみて、Web2.0とweb3どちらの企業も、より良い金融を目指して協力し合うといった、Web2.0 × web3=「web6」的な視点が必要ではないかとも感じました。

――web3は、「web3起業家と投資家がいるだけでユーザー不在」と言われることもあります。確かにそういう面もあり、「web6の登場人物はPeople(人々)であるべき」という主張もあります。Web2にはすでに多くのユーザーいるわけですから、良いところを融合させて新しい価値や体験を創り出せたら良いですよね。ほかに印象に残った講演やスピーチはありましたか?

森田氏:「CBDC(中央銀行デジタル通貨)とステーブルコイン、ネイティブ暗号資産は共存する」という、お金の未来に関するバイナンスCEOのチャンポン・ジャオ氏の講演も印象的でした。今後はステーブルコインが決済の主流になること、CBDC(中央銀行デジタル通貨)やネイティブ暗号資産は、それぞれ役割が根本的に異なり重複することはないと主張しています。

CBDC(中央銀行デジタル通貨)は現状、多くの国は用途を限定した供給を目指しています。各国ともロードマップを作成し、長期間の投資や実験が必要な段階で、国境を越える取引には中央当局の許可が必要になる見込みです。

ステーブルコインは、法定通貨とネイティブ暗号通貨の仲介者として機能し、ブロックチェーン上で価値を移転できるため支払に最適であると語っていました。

ビットコインやイーサリアム等のネイティブ暗号資産は、NFTやメタバースを含む多様なユースケースを提供していて、CBDC(中央銀行デジタル通貨)やステーブルコインといったデジタルマネーとは役割がまったく異なる。多くの人は「暗号資産」で一括りにしていて、CBDC(中央銀行デジタル通貨)が登場すればすべてを置き換えると考えているが、それは大きな間違いだ、というのがジャオ氏の主張で、これについては私もまったく同意見です。

――クレジットカードや現金、QRコード決済、プリペイドカード…と決済手段が多様化しているように、通貨も多様化していくのでしょうね。法定通貨に利便性を感じる人もいれば、暗号資産に利便性を感じる人もいる。CBDC(中央銀行デジタル通貨)やステーブルコインに利便性を感じる人もいる、ということだと思います。

森田氏:今回イベントに行って感じたのは、「国際間の割り勘って難しい」ということです。現地の同僚と飲みに行く機会があり、食後にお会計をしようとしたのですが、日本ではPayPayやLinePayなどでの割り勘が日常化しています。しかしシンガポールはPay NOWが主流なので、それができず。国を跨ぐ割り勘を滑らかにするためにも、暗号資産の浸透が重要だと痛感しました。

――たしかに、以前は「ドルで代わりに払うから、ビットコインで割り勘分を集金する」みたいなことが行われていました。ビットコインの価格が上昇すると、みんな集金側に回りたがるわけですが…。ビットコインを世界共通通貨と捉えると、割り勘にも便利なのですよね。

web3で生まれる仕事・職業となくなる仕事・職業

――では、今回一番お聞きしたかった話題に入りたいと思います。森田さんからみて「web3で生まれる仕事・職業となくなる仕事・職業」には、どんな仕事・職業があると思いますか?

森田氏:生まれる仕事・職業としては、「オンチェーンワーカー」「コミュニティデザイナー(モデレーター)」「NFT投資家」などがあると思います。

まず「オンチェーンワーカー」というのは、DAO(自律分散型組織)やNFTプロジェクトからの依頼で報酬(NFT含む)を得る仕事です。Web2.0でいうと、Web2.0企業から報酬を得ているYouTuberなどのweb3版です。その人の得意な領域に応じて、プロジェクトに貢献し、貢献に応じた報酬をNFTを含むトークンで得る。マーケティングが得意であればマーケティング、開発が得意であれば開発、戦略立案が得意であれば戦略立案で貢献していきます。

「コミュニティデザイナー(モデレーター)」は、DAOやコミュニティを魅力的に設計・運営する仕事です。Web2.0でいうとWebデザイナー(Webページを魅力的に作る仕事)に当たると思います。web3になると、サイト運営やイベント運営、AMA、トラブル対応などより広範囲にわかります。

「NFT投資家」は、トレーダーと美術品収集家(ファウンダーの人間性)の中間イメージです。Web2.0でいうとオンライントレーダーですが、NFT投資家の場合はNFT制作者・アーティストの理念や哲学、志向、目指す姿、世界観、生い立ち、表現スタイル、表現手法、希少性、PRなどを総合的に分析・評価することも仕事に含まれてきます。

一方、web3でなくなる仕事・職業(なくしたい仕事・職業)としては、「現金での募金(特に国を跨ぐもの)」や「ガバナンス関連の仕事」が考えられます。

「現金での募金」は、非常に非効率的で、人件費などのコストもかかっています。そのため、募金という善意が100%届けられているわけではなく、何割かは運営費が差し引かれています。web3になると、募金先へより効率良く、直接的な支援が実現できるはずです。

「ガバナンス関連の仕事」は、スマートコントラクトで置き換えられると考えられます。予め、「この条件になったらこの契約が履行される」「契約と同時に決済も行われる」など、ルールを決めてそのとおり実行されるまで自動化することができます。省人化、あるいはまったく人を介さずに行うことも可能になっていくでしょう。

――とても興味深い考察ですね。よく「AIで失われる仕事・職業」ということが話題になりますが、web3でむしろ仕事・職業は増えるのではないかと思います。より多様化して、キャリアの選択肢も広がり、そうなればパラレルワークで複数の仕事・職種をしても良いわけで。一方で、今も昔も余計な仕事は多くありますから、自動化できることは自動化され、それとともに消滅する仕事・職業もありそうです。

例えば、エストニアは決算・確定申告のデジタル化・自動化が進んでおり、いわゆる申告業務はないと言われています。では、士業はどんな仕事をしているのかというと「顧客の課題解決」なんだそうです。企業であれば、売上アップやマーケティング、財務力強化、資金調達、余剰資金の有効活用、商品開発、システム開発、仕組み化、人材採用、社員教育、人材定着、後継者育成、M&A、労務問題、法務問題など多岐にわたる経営相談を受け、課題解決策を提示・実行していくのが仕事になります。

森田氏:そういった多岐にわたる課題解決も、Web2.0との掛け合わせでできると思います。「コミュニティデザイナー(モデレーター)」を、“アーティスト”ではなく“デザイナー”と表現したのは、デザインとアートの違いからです。デザインには必ず達成すべき目的とそのための戦略があります。結果論やケースバイケースであっても“正解”があるのがデザインですから、そういった意味合いでコミュニティデザイナー(モデレーター)」を定義しています。

――最近はビジネスの世界でも「デザイン思考」や「アート思考」という言葉がよく使われています。仰るとおりデザインには目的や戦略がありますが、アートは自己表現ですから目的や戦略に必ずしも縛られません。世界観や哲学、メッセージに重きが置かれていることが多いです。私は美術史や表象文化論、メディアアートなどが専門だったのですが、森田さんが前回の記事で仰っていたように、顕在化された課題は多くが解決されつつあり、潜在的な課題の発見や新たな価値創造のためには、ロジックだけではないデザイン思考、さらに固定観念に縛られないアート思考が必要とされているのかもしれません。

web3を生きるために必要なスキルやマインド

――では、web3の世界を生きるために必要なスキルやマインドについてお聞きできればと思います。

森田氏:顕在課題の解決策の立案や実行、潜在課題の発見や新たな価値創造はコンサルタントに必須のスキルです。「コミュニティデザイナー(モデレーター)」は、コミュニティ内でメンバー同士の接点をデザインする仕事ですが、さらにコミュニティとコミュニティを越えて、コミュニティ同士の接点をデザインする越境スキルがあれば、web3の世界でもより活躍できるのではないでしょうか。

越境スキルを磨くには、「外を見る力」が欠かせません。コミュニティとコミュニティを結び付けたり、コミュニティからコミュニティを渡り歩くにしても、物事を多重視点で捉え、柔軟性を持って分析、検証してマッチングするスキルが求められると思います。マインドとしては、当然オープンでポジティブでないといけないでしょう。

web3は分散型ですから、おのずとリモートコミュニケーションになります。コミュニケーションスキルも必要で、チャットでのやり取りも多いですからテキストコミュニケーションスキル、編集力も重要になってきます。

――メタバースが普及すると、テキストコミュニケーションから音声コミュニケーションが中心になっていくのでしょうけど、それはまだ先の話になりそうですね。ほかにはどのようなスキルが必要になりそうでしょうか?

森田氏:リモートコミュニケーションが中心になると、リモートでのやり取りで信頼関係を築いていくことになります。「リモートトラスト」という言葉もありますが、直接会わずとも信頼につなげるためには言動を一致させることが重要です。

「トークングラフマーケティング」という言葉も生まれており、だれがなんのトークンを持っているか、いつからいつまでトークンを保有しているかが可視化されるようになっています。シンガポールのMastercardのブースで見た、「ウォレットアドレス信頼性分析」につながるのですが、「このDAOを応援するためにトークンを長期保有する」と発言していても、実は「価値が少し上がったタイミングですぐに売却していた」という行動がわかってしまう。そうなると、その人の発言は信用できないということになります。

――一貫性がないと信頼につながらないですし、ポジショントークをすればいずれバレてしまいますよね。最近は、AI与信などのSaaSも出てきており、日々のSNS投稿やプレスリリースやブログなどのオンライン上の情報、SNSの横のつながり、ウォレットの入出金などからもその人の信頼度や人間性を測れるようになってきました。それが、トークンファイナンスやエクイティファイナンス、デッドファイナンス、クラウドファンディングにもつながっていくのでしょうね。

森田氏:そうなると、「クレジットスコアデザイナー」のような仕事・職業も生まれるかもしれません。web3によって新しい仕事が生まれるので、テクノロジーが発展しても人の可能性は広がる一方です。そのためには、新しいモノ・コトにも積極的に向き合うオープンマインドとポジティブさは欠かせないのではないでしょうか。

○ABeam web3 Consulting Service

――web3コンサルタントとして、森田さんがますますお忙しくなりそうですね。ABeam web3 Consulting Serviceというweb3領域参入をサポートするサービスも開始されたとのことですが、どのような内容なのでしょうか?

森田氏:『ABeam web3 Consulting Service』は、アビームコンサルティングが提供している、大手企業のweb3領域参入をサポートするサービスです。現状、以下の3つのサービスが提供されており、順次拡大中です。

①スポットテーマ調査サービス:
「保険×web3」、「CX×web3」など、各企業の事業や関心トピックに対してweb3が与える機会や脅威について、各業界に専門的知見をもつコンサルタントの視点も踏まえて調査/分析するサービス

②定期調査レポート:
セミナーやイベント含め、情報を追うだけでも困難なweb3領域において、海外も含めた主要なイベントやセミナー参加レポートを定期的にお送りするサービス

③実践web3サービスPoC:
上司から「当社もweb3に取組む!」と言われたものの、何から手を付けたらよいか分からないご担当者向けに、実際のweb3サービスを使用しながら、各社のビジネスへの展開可能性を一緒に考えて行くサービス

詳細は、弊社の公式ホームページからお問い合わせいただければ対応致します。

――web3への参入を検討・模索されている大手企業も多いでしょうから、『ABeam web3 Consulting Service』のようなサービスの存在は心強いですね。ぜひweb3領域で、なにかご一緒できればと思います。本日は、ありがとうございました。