「人生100年時代」と言われる今、20代からの資産形成は待ったなし。とはいえ「投資の目利き力、どうやって磨く?」と悩む人も多いはず。本連載では、20代から仮想通貨や海外不動産に挑戦し、いまはバリ島でデベロッパー事業、日本では経営戦略アドバイザーも務める中島宏明氏が、投資・資産運用の知識や体験談、そして業界の注目トピックを紹介します。
今回は「余剰電力活用」をテーマに、ゼロフィールドの平嶋さんと柏崎さんにお話を伺いました。
株式会社ゼロフィールド 平嶋 遥介氏:代表取締役 CEO/上智大学理工学部情報理工学科、上智大学大学院理工学研究科卒業後、NTTデータに入社し銀行向け勘定系共同センターへの機能追加・開発などを担当。2017年に株式会社ゼロフィールドを創業し、暗号資産関係のビジネスを展開。金融系システムやブロックチェーン関連の深い知識と豊富な経験を有しており、CTOとして開発チームを牽引しながらも、経営者として成長の道を歩む。2023年8月より代表取締役CEOに就任。
柏崎 和久氏:経営顧問/1968年宇都宮市生まれ。中央大学理工学部電気電子工学科卒業後、関電工に入社。送配電業務に18年従事したのち、バイオマス発電や大型蓄電池ベンチャーを経てNECにてエネルギー関連事業に携わる。2017年4月より新電力エフビットコミュニケーションズ社長を務め、その後も複数の電力関連プロジェクトや企業経営に携わる。近年はマイクログリッドプロジェクトのプロデュースや脱炭素先行地域の経営支援に従事。2025年10月より当社の経営顧問に就任。
ただの投機対象から「国民の資産形成に資するアセットクラス」へ
世界的なビットコイン現物ETFの承認や金融商品化が進み、ビットコイン・暗号資産を取り巻く環境は激変しています。日本でも2028年に予定されている分離課税化や金商法への根拠法の移行を見据え、暗号資産を単なる投機対象ではなく、国家や企業が取り組むべき「新たな金融インフラ」と捉えるフェーズに入りました。
一方で、暗号資産には常に「膨大な電力消費」というイメージがつきまといます。しかし、実はこの特性こそが、日本のエネルギー問題、特に出力制御や送電制約による「電力の廃棄」を解決する切り札になるのではないか。そんな仮説を検証すべく、マイニング事業の専門家である株式会社ゼロフィールドの平嶋遥介氏と、電力業界で多くの経験を持ち、2025年10月に同社経営顧問に就任した柏崎和久氏に独占取材を行いました。
「電力をデジタル価値に変換する装置」としてのマイニング
――ゼロフィールドさんはマイニング企業の先駆者として、高性能計算(HPC)インフラを軸に、コンテナ型データセンターの構築から運用までを手がけています。マイニングはビットコイン・暗号資産の取引を支えるインフラそのものですが、まずはマイニングの社会的役割について改めて教えてください。
平嶋遥介氏(以下、平嶋氏):私たちは「計算力のインフラ企業」として、AIやブロックチェーンが必要とする膨大な計算能力を社会に提供しています。最近は電力会社が余剰電力をマイニングに活用する取り組みを始めるなど、潮目が変わりつつあります。スタートアップ企業の発想力で、既存のエネルギー業界をアップデートしていきたいと考えています。
柏崎和久氏(以下、柏崎氏):私はゼロフィールドの事業を、単なるITビジネスではなく、「電力をデジタル価値に変換する装置」であると捉えています。電力業界はいわゆる「JTC(伝統的な日本企業)」の世界で、暗号資産と聞くと今でも「怪しい投機」という反応が少なくありません。しかし、マイニングはブロックチェーンという分散型社会の信頼性を担保するための不可欠な計算基盤です。
――柏崎さんは長年、電力・エネルギー業界の最前線にいらっしゃいましたが、マイニングの最初の印象はどのようなものだったのでしょうか?
柏崎氏:正直に言えば、最初は私も「怪しい」と感じていました。ところが、娘に話をしたら「パパ、遅れてるよ」と言われまして(笑)。そこで実際に自分でゼロフィールドからマイニングマシンを購入し、運用してみたんです。すると、マシンが稼働して収益が生まれる流れや暗号資産市場のダイナミズムがリアルに実感できた。今では、エネルギー業界と暗号資産の接点に、新産業としての確かな可能性を感じています。
日本のエネルギー安全保障と「出力制御」の壁
――日本のエネルギー構造において、現在どのような課題があるのでしょうか?
柏崎氏:日本のエネルギー自給率は約16%と低く、化石燃料の輸入依存が電気代高騰の要因となっています。これは単なる価格問題ではなく「安全保障の問題」です。再生可能エネルギー(再エネ)の拡大は急務ですが、現実には「出力制御(発電停止命令)」や「送電制約」により、せっかく発電した電力が使われずに捨てられている「余剰電力」が膨大に存在します。私たちはこの余剰電力を「潜在電力」とポジティブに捉え、利活用を促進したいと考えています。
――特に九州などのエリアでは、太陽光発電などによって電力が余って捨てていると聞きますね。
柏崎氏:そのとおりです。発電事業者が稼働を止めざるを得ない状況は、経済的にも非常にもったいない。マイニングは、この場所の制約が少なく、電力をその場で暗号資産という流動性の高い資産に変えられる特性があるため、再エネと極めて相性が良いのです。
平嶋氏:エコブームや、特に2011年の震災以降、日本は「省エネ・節電」一辺倒でしたが、近年のAIの登場と普及によって「もっと発電しなければならない」時代へと逆転しました。これまでは「省エネ」が美徳とされ、人口減に合わせて需要を絞る前提で設計されてきましたが、AIの普及でその前提が崩れました。これからは「いかに無駄なく使い切るか」という需要側のマネジメントが重要になります。マイニング事業はこれまで捨てていた潜在電力を活用するだけですから、電力企業のリスクを軽減することも可能です。
「需給調整(DR)」の切り札としての柔軟性
平嶋氏:マイニングマシンの強みはその「柔軟性」です。工場などにある大きな機械は、一度稼働を止めると再起動に数十分から長いと数時間かかります。しかし、マイニングマシンは数分単位での停止・再開が可能です。つまり、再エネの発電ピーク時にはフル稼働し、需給が逼迫して電力が足りなくなれば即座に停止する「ディマンドリスポンス(DR)」の調整力として極めて優秀なんです。また、1MW、2MWと掛け算式に消費電力を拡張でき、収益計算も比例するため非常に明快です。
柏崎氏:この特性は「ディマンドリスポンス(DR)」に最適です。再エネの発電ピーク時にはフル稼働して余剰電力を吸収し、需給が逼迫すれば即座に停止して系統を守る。一般的に電力供給というものはユーザーの利用状況に左右され、勝手に負荷を下げられませんが、マイニングは事業者側でコントロールが可能です。系統を支える「調整弁」としての価値は極めて高いと言えます。
――この柔軟性があるからこそ、電力系統を支えるパートナーになれるわけですね。マイニングは「ただ電気を食う存在」ではなく、電力網の「バランス調整役」に進化していますね。
地域の富を地域に還流させる「地産地消」モデル
柏崎氏:現状、地域に再エネ設備を置いても地元住民の方々の電気代は下がらず、経済的な還元が乏しいという課題があります。設備増強はどうしても電気代に反映されます。しかし、マイニングを組み合わせることで、地域で発電した電力を「デジタル資産」という外貨に変え、間接的に外へ売る構造が作れます。
平嶋氏:マイニングの収益を地域に流入させることで、電力企業が新規設備投資のコストを賄えるようになります。そうなれば、地域の電気単価を上げずにインフラを刷新でき、自治体や住民にとっても大きなメリットになるのではないでしょうか。
柏崎氏:中山間地域は再エネのポテンシャルが豊富ですが需要が低い。そこにコンテナ型マイニングを持っていくことで、環境省が掲げる「地域循環共生」を実体化できるのです。スターリンクのような衛星回線と電力さえあれば、山の中でも数ヶ月で稼働を開始できます。
私は地方の祭りなどの文化、歴史、神社仏閣などの歴史的建造物を後世に残したいと考えています。そのためには「地域循環共生」が必要ですが、収益がなければ持続しません。マイニングは、電力供給という枠組みを超えて、地方が「外貨」を獲得する手段になるのです。
文明の発展とエネルギー
――最後に、AI時代における「文明とエネルギー」の未来像についてお聞かせください。
柏崎氏:人類の歴史は、エネルギー利用拡大の歴史とも言えます。火、石炭、石油、電力。そして今、エネルギーと情報が完全に融合する時代に入りました。これからの電力企業には「発電」だけでなく、「需要の創出」が求められるのではないでしょうか。ゼロフィールドは、電力企業の「デジタルパートナー」として、共に日本の国力を高めるインフラを創っていきたいと考えています。
まずはスモールステップでもいい。「やってみる」ことが重要です。コンテナ型なら1〜2ヶ月で設置可能です。設備投資としてのマイニングマシンを持ち、実際に運用することで、エネルギーとデジタルの掛け算による新しい発想が生まれます。
平嶋氏:「捨てる電力」を「未来の原動力」へ。この転換が、日本の産業競争力を再定義する大きな一歩になるのではないかと考えています。AI社会において「大量の電力消費=悪」という省エネ一辺倒の価値観はもう通用しません。既存のシステムは省エネを前提につくられており、私たちの価値観もそうなっていますが、AIが普及する時代のエネルギーは、情報社会を支える「国力」そのものです。AIの普及は不可逆ですから、この流れはもう止まらないと思います。
経営資源の「ヒト・モノ・カネ」に「情報」が加わりましたが、暗号資産はまさに「情報資産」そのものです。今、アメリカなどでは政府の準備資産にビットコインを加える議論すら真剣に行われています。エネルギー自給率を高め、それをデジタル価値として蓄積することは、そのまま国力に直結します。また、2028年には次のビットコイン半減期が控えています。私たちは、単に計算機というマシンを動かすだけでなく、金商法への移行やESG観点での運用など、より「インフラ事業者」としての長期視点を強化していきます。
――ビットコイン・暗号資産は情報の塊であり、金融も情報の塊です。将来的には、再エネで採掘されたことを証明する「グリーン・ビットコイン」が、電力市場の決済手段として使われる未来も来るかもしれません。かつてマイニングは「環境の敵」のように語られた時期もありましたが、柏崎さんのような電力・エネルギーの専門家が「調整力」としての価値を見出し、平嶋さんのようなマイニングの専門家が「インフラ」としての実績を積み上げることで、そのイメージは180度変わりつつありますね。日本の地方には、水力、風力、太陽光などのポテンシャルが眠っています。余剰電力をただ捨てるのではなく、潜在電力として活かす。このような取り組みが、これからの日本に必要な攻めのエネルギー政策なのかもしれません。
