「人生100年時代」と言われる今、20代からの資産形成は待ったなし。とはいえ「投資の目利き力、どうやって磨く?」と悩む人も多いはず。本連載では、20代から仮想通貨や海外不動産に挑戦し、いまはバリ島でデベロッパー事業、日本では経営戦略アドバイザーも務める中島宏明氏が、投資・資産運用の知識や体験談、そして業界の注目トピックを紹介します。今回のテーマは、自己投資(コト投資)。

金融や不動産だけが投資ではない

  • ※画像はイメージ

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NISA、iDeCo、ビットコイン、暗号資産、不動産……。周りには、将来の不安を解消するための投資の情報があふれています。もちろん、若いうちから複利の力を活用して積立投資などを行うことは非常に大切です。

しかし現代において、金融や不動産以上のリターンをもたらし、かつ「自分を裏切らない資産」があることをご存じでしょうか。それが、自己投資によって得られる「影響力」という無形資産です。

今回取り上げるのは、水野俊哉さんの新著『武器としての影響力』。本書では、令和のビジネス界で存在感を放つビジネスインフルエンサーたちの実態を解剖し、彼ら彼女らがどのようにして影響力を構築し、それを実業のレバレッジに変えているのかを明らかにしています。

本書に登場する経営者たちは、単に有名なインフルエンサーということではありません。事業を営み、自分自身が広告となって認知拡大や採用、信頼構築を実現している、いわば「影響力と実業が完全に一体化した存在」です。そんな生き方から今、どんな経験に投資していくのが良いかを探っていきましょう。

  • 『武器としての影響力』(水野俊哉 著、サンライズパブリッシング)

    『武器としての影響力』(水野俊哉 著、サンライズパブリッシング)

「なにを買うか」ではなく「だれから買うか」

かつての影響力は、テレビに出る芸能人や新聞に名を連ねる文化人の特権でした。しかし、SNSやYouTubeの普及によって、その重心は企業から「個人」へと移動しています。

本書でくり返される真理は、「人は『正しさ』ではなく『知っている人』から買う」ということ。どれだけ安くて性能が良い商品であっても、見知らぬ企業の商品より、毎日動画で顔を見て、その苦労や成功のストーリーを知っている人物から買いたいと思うのが人間の心理なのです。

これは心理学者のロバート・B・チャルディーニが提唱した「社会的証明」「好意」「権威」といった心理原則が、YouTube空間で再現されているからです。将来どんなビジネスに携わるにせよ、「あなただから信頼できる」という無形の資産をどれだけ積み上げているかが、持っている有形資産以上に重要になります。

「銀行残高」より「影響力残高」に投資

投資において重要なのは、どこに資本を投下してリターンを得るかという判断です。本書に登場するビジネスインフルエンサーたちは、共通して「経験(コト投資)」に莫大な投資を行っています。

例えば、令和の虎の二代目主宰である林尚弘さんは、「インフルエンス力をつけることが事業拡大にとって最も重要」と断言しています。彼は「顧問だけで年間10億円」を稼ぎ出すほどの知名度があるわけですが、その背景には、武田塾の全国展開やYouTubeへの継続的な露出、さらには巨額の「宣伝広告費」としての破天荒な振る舞い(コト投資)があります。

また、元ホストから年商数十億円の経営者となった桑田龍征さんは、「広告費をかけるのは、SNSをサボった経営者への罰金である」とまで述べています 。彼はホスト時代、あえて「カッコつけない三枚目」というキャラを選び、周囲と違う行動を取ることで自身の価値を確立したそうです。

投資先として、月々数万円をインデックスファンドに回すのは賢明な判断です。しかし、もし手元に自由に使える100万円があるのなら、それをすべて株に変えるのではなく、半分は「人に語れる唯一無二の経験」に変えてみてはどうでしょうか。影響力の正体は、過去の「投資してきた経験」そのものです。

「失敗」も資産になる究極のポートフォリオ

資産運用において「損失」は避けたいものですが、影響力投資の世界では、失敗も強力な資産に変わります。

本書に登場する車谷セナさんは、会社設立初期に資金がショートし、銀行残高が800円まで落ち込んだ苦境を、あえてYouTubeで公開しています。また、ヒカル氏のビジネスパートナーである入江巨之さんも、21歳のときに事業買収で約8億円の損失を負った挫折経験を語っています。

彼らは、失敗を「隠すべき恥」ではなく、信頼を勝ち取るための「社会的証明」や「ストーリー」として活用しています。視聴者は、完璧な成功者よりも、失敗を乗り越えて再起する人物に「好意」を抱き、強く支持するからです。

人生で経験する失敗やリスクテイクは、後になって「影響力」という配当を生み出す最高の資産になります。これを本書では「ネタ化」という戦略として紹介しています。

24時間、自分自身が「広告」になる生き方

実業と発信を融合させるビジネスインフルエンサーの先駆者として、愛沢えみりさんの事例は非常にユニークです。彼女はキャバクラ嬢を引退後、アパレルや美容クリニックなど多角経営を行い、年商35億円を達成しています。

愛沢さんの強みは、自身のライフステージ(結婚・出産・育児)をそのまま発信し、視聴者の共感を得ながら、自社商品の「広告」として機能させている点。彼女にとってYouTubeやSNSは単なる自己表現ではなく、採用活動やブランドの信頼構築を24時間自動で行う「全部入り」の武器なのです。

このように、時間と経験をレバレッジに変えていく発想は、限られたリソースで大きな成果を出さなければならないビジネスパーソンにとって、究極の資産運用術と言えるでしょう。

影響力は「才能」ではなく「設計」

「自分にはカリスマ性がないから影響力なんて持てない」と諦める必要はありません。本書が強調しているのは、影響力は「構造であり、技術であり、再現可能な武器である」という点です。チャルディーニの6つの法則(返報性、一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性)を、自分の活動の中にどう配置するかという「設計」の問題なのです。

「返報性」…自分の持っている有益な情報や経験を、まず先に他者へギブする。 「社会的証明」…信頼されているコミュニティや人の輪に入り、実績を可視化する。 「希少性」…自分にしかできないことや、あえて情報を出さない部分を作り、独自化する。

これらは、意識的に「経験」を積み重ねていくことで、後天的に身につけることができます。

多くの人は、将来の経済的自由を求めて投資をしています。そのポートフォリオの中に、「影響力」という項目を追加してみるのも一考です。金融資産は市場の変動で減少することもありますが、投資して手に入れた経験や、それによって育まれた人からの信頼(影響力)は、だれにも奪うことができません。

『武器としての影響力』から、ビジネスインフルエンサーたちの覚悟や戦略に触れてみてください。貯金や収入の一部でも、人に語れる新しい体験やスキルアップのための投資に振り向けてみること。有形資産の残高も大切ですが、経験を積み「影響力残高」も増やすこと。それこそが、これからの不確実な時代において、最も高いリターンをもたらす投資になるはずです。