「人生100年時代」と言われる今、20代からの資産形成は待ったなし。とはいえ「投資の目利き力、どうやって磨く?」と悩む人も多いはず。本連載では、20代から仮想通貨や海外不動産に挑戦し、いまはバリ島でデベロッパー事業、日本では経営戦略アドバイザーも務める中島宏明氏が、投資・資産運用の知識や体験談、そして業界の注目トピックを紹介します。

今回は、損害保険×生命保険×リスクマネジメントのプロである川上太平氏に、これからの時代のリスクマネジメントと、リスクマネジメントをサポートする保険パーソン像についてお話を伺いました。

  • 損保×生保×リスクマネジメントのプロ 川上太平氏

    損保×生保×リスクマネジメントのプロ 川上太平氏

大切にしているのは「経営者の覚悟とリスク」を一緒に考えること

――川上さんは、個人・法人ともにお客様が多くいらっしゃると思いますが、保険を扱ううえで大切にしていることは何でしょうか?

川上氏:いちばん意識しているのは、「保険=商品」ではなく、「保険=お客様に安心をご提供し、人生や経営の意思決定を支えるインフラ」として扱うことです。たとえば経営者の方であれば、事業を続けるリスクも、やめるリスクも、承継するリスクもあります。そのすべてをひっくるめて、「もしもこの先、こうなったら?」という問いを一緒に考えるのが、保険の本質だと思っています。個人のお客様であっても、同様です。

死亡保障や退職金の原資づくりなどの“想定できるリスク”だけではなく、「病気で一時的に現場を離れる」「後継者が決まらないまま時間だけが過ぎていく」といった“想定しにくいリスク”も多くあります。それらを可視化し、「どこまでリスクを許容するのか」「なにを保険でヘッジするのか」を話し合うことが、お客様の覚悟を整理するプロセスだと考えています。

損保×生保の掛け算で「社長」と「会社」の両方を守る

――川上さんは、損害保険と生命保険の両方に精通されている稀な人ですが、どちらも扱う強みはどんなところにあるのでしょうか?

川上氏:損保は「モノ・ビジネス」を、生保は「人」を守るイメージを持たれがちですが、本当は両輪で見ないといけません。たとえば経営者の方が亡くなったとき、遺族の生活資金と事業継続資金の両方をどう確保するのか。最近は、火災・地震・賠償・サイバー攻撃など、会社の存続を脅かすようなリスクも増えています。そこに福利厚生や退職金制度を組み合わせると、「経営者の死亡保障+会社の復旧資金+社員の生活防衛」などが一本の線でつながってきます。

損保と生保をバラバラにご提案するのではなく、経営全体のキャッシュフローやバランスシートを見ながら、さらには社長個人やご家族、社員の方々のことも見ながら“リスクマネジメントのポートフォリオ”として設計するイメージでご提案しています。

信頼関係は“人間臭さ”から生まれる

――経営者の方も含めて、お客様との信頼関係は、どのように築いているのでしょうか?

川上氏:最初の数秒で「この人は何者で、なにをしてくれる人なのか」が伝わらないと、そもそも深い話や本音を話していただけません。だからこそ、自分自身のミッションや提供価値を「数秒の短い言葉で伝えられる」ように心がけています。たとえば、「損保と生保の両面から、経営や人生のリスクと会社の出口戦略を一緒に考える人です」といった具合ですね。

一方で、信頼関係はなんだかすごそうな肩書きや実績をPRするだけでは生まれないと感じています。お客様との些細な、他愛もない雑談の中で、「本当は今の事業にちょっと飽きているし、伸びしろに限界を感じてきている」「会社の業績優先で生きてきたから、個人資産は全然なくて不安」「実は配偶者と不仲で…」といった本音がポロっと出てくる瞬間があります。まずはそんな本音を話していただける信頼関係があってこそですが、せっかくお話していただいた本音を聞き逃さず、ジャッジを急がずに受け止める“人間臭さ”こそが、保険パーソンの価値だと思うんです。

――AIには、その日の社長の表情や機嫌、「あ、今朝夫婦げんかしたのかな」という険悪な空気までは読み取れませんからね(笑)。

不祥事と業法改正で「メーカー依存モデル」が限界に

――昨今、損保も生保も含めて保険を取り巻く環境に大きな変化が起こっていますが、どう感じていらっしゃいますか?まだ記憶に新しい損保の不祥事や、生保ではいわゆる「節税保険」とされる保険商品の見直しなどがありましたが。

川上氏:仰るとおりで、業界には大きなテコ入れが入っています。保険会社(メーカー)が手厚く保険代理店を支援してきた構図は、すでに変わってきていますし、来年2026年の業法改正を機にさらに変化が起こると思います。これまでは、お客様との関係構築が保険代理店のメインの仕事で、事務的な業務の一部については、すべてとは言いませんが、保険会社様に担っていただいているケースも事実として存在しました。ですが、こういったところからすでにメスが入り始めています。

――「お客様を連れてくる保険代理店は、保険会社にとってはビジネスパートナーでありながらもお客様でもある」という関係性でしたが、本来のあるべき姿である対等な関係に移行しつつあるということですよね。

川上氏:システムやコンプライアンスは保険会社に頼りきりで、保険代理店は「売れれば正義」という時代は過去のことです。これからは、保険代理店自身、そしてそこに所属する保険パーソン(保険募集人)が経営的にも専門家的にも自立しなければ、生き残れないと感じています。

同時に、保険パーソン同士が横につながってノウハウを共有し、人材育成や研修を業界全体で支えていく動きも必要なのではないでしょうか。私も業界ではまだまだ若手の部類にいるので生意気を言っていると思いますが、人的資本経営やサステナビリティが問われる中で、保険の世界も「人づくり」や「自立」が避けて通れないテーマになっていると感じます。保険を志す人であればだれでも簡単に学べるプラットフォームづくりといったように、保険業界の人材育成にも貢献していけたらと、個人的には考えています。

AIエージェント時代でも「非データ領域」を扱える人は必要になる

――生成AIやAIエージェントの普及については、どう感じていらっしゃいますか?

川上氏:設計書の作成や情報の整理、面談記録などの作業はどんどんAIが担っていくと思います。お客様も「とりあえずAIに聞く」が当たり前になるでしょう。ただ、AIが扱えるのは、あくまで“データ化された情報”だけなのではないでしょうか。「言っていないけれど本当は気にしていること」や、「その日の社長室に漂う空気感」は、データにはなりません。

特に法人のお客様の現場では、雑談から事業承継や採用、人材育成、資金繰りなどのさまざまな課題の兆しを感じ取り、必要があれば各専門家をご紹介する一歩を踏み出す勇気が求められます。その一歩は、勉強と事前想定の積み重ねからしか生まれません。

だからこそ、「損害保険×生命保険×リスクマネジメント」、あるいは「保険×財務×事業承継」といった具合に、複数の専門性を掛け算していくことが大事だと思っています。AIが“広く浅く”を担うなら、人は“狭く深く×複数”で勝負する時代になるはずです。

これからの保険パーソンに求められるのは“血と汗と涙”の専門性

――これからの保険パーソン(保険募集人)に求められる役割や理想像を教えてください。

川上氏:これからは、「保険屋さん」というだけでなく、「経営や人生の伴走者」というスタンスが求められると思います。経営環境・社会環境が数年単位で目まぐるしく変わり、今の事業や仕事を続けること自体がリスクになり得る不確実性の高い時代です。だからこそ、経営者の方であれば事業や個人資産、ご家族、社員の方々のこと、会社員の方であれば本業・副業、ご家族の将来まで含めて、「人生設計」を一緒に考えられる人が必要です。

保険パーソンがそんな存在になるためには、派手なブランディングやウルトラCのような付け焼刃な営業テクニックを追い求めるのではなく、地道な学びと実務経験を積み重ねるしかありません。そんな日々の努力はいつか「血と汗と涙の結晶」となって、お客様の心に響いてくださるのではないかと。

私自身もまだ31歳で、勉強中の身です。ただ、損保と生保の両輪を武器に、さまざまな分野の専門家の方々とも連携し、会社経営や人生のリスクと成長に長く伴走できる存在でありたい。AI活用が当たり前になる時代だからこそ、“人にしかできないこと”で選ばれるプロフェッショナルが、保険業界をもっと良い方向に変えていけると信じています。