2020年上半期の販売台数でトップだった「ライズ」(ダイハツOEMのトヨタ車)を逆転し、通年でトップになったのが本家トヨタ自動車の「ヤリス」チームだった。“チーム”と呼んだ理由は、小型ハッチバックの「ヤリス」に続いて、それをベースに開発した小型SUVの「ヤリスクロス」やスポーツモデル「GRヤリス」が下半期から加わったからだ。ヤリスチームの台数を一挙に伸ばして逆転につなげた立役者が、2020年9月にデビューしたヤリスクロスである。

人気の理由はたくさんある。さまざまな要素で完成度が高くて欠点がなく、しかも価格が安いのだ。ただ、小型SUV市場は混戦模様で、ホンダの力作である新型「ヴェゼル」も近く登場する予定。これからもヤリスクロスが安泰なのかどうかを考えるためにも、あらためてこのクルマの魅力を探ってみよう。

  • トヨタの「ヤリスクロス」

    トヨタが2020年9月に発売した小型SUV「ヤリスクロス」。写真は4WDの「E-Four」だ(本稿の写真は撮影:原アキラ)

地味な内装は量販のセオリー?

TNGAのBセグメント用プラットフォーム「GA-B」を採用するヤリスクロス。ボディサイズは全長4,180mm、全幅1,765mm、全高1,590mmで、ホイールベースは2,560mmだ。同じシャシーを共有する「ヤリス」よりも240mm長く、70mm広く、90mm高い。

パワートレーンは91ps/120Nmの1.5L直列3気筒エンジンに80ps/141Nmのフロントモーターを組み合わせたFFのハイブリッド(HV)「THS-Ⅱ」、そのリアに5.3ps/5.2Nmのモーターを追加した電気式4WD「E-Four」、120ps/145Nmの1.5L直列3気筒ガソリンエンジン+発進用ギア付きCVT(こちらもFFと4WDがある)の3種類。グレードは「X」「G」「Z」の3つで価格はガソリンが179.8万円~244.1万円、HVが228.4万円~281.5万円だ。ライバルに比べ、価格面でのアドバンテージは圧倒的といえる。

  • トヨタの「ヤリスクロス」

    流行のベージュカラーも選択可能

エクステリアは、四角いブラックのホイールアーチや張り出したフェンダー、短い前後オーバーハングなどのSUVっぽさと、ウルトラマン風の顔つきやクーペのようなリアハッチの傾斜が程よくマッチしていて、いかにもクロスオーバーSUVといった感じだ。

外観はポップだが、インテリアは一転してシックというか、ちょっと地味でもある。オプティトロンメーターと7インチディスプレイを装備する上級モデルの「Z」でも、内装デザインやシートの色使い(2トーンで色は茶とグレイ)がヤリスと変わらず、SUVらしい特別感に少し欠けている。トヨタ広報によると、「内装に派手なカラーを使うと見栄えはいいのですが、実際に売れるのはこちらの方なんですよ」とのこと。確かに、結果はその通りになっている。

  • トヨタの「ヤリスクロス」
  • トヨタの「ヤリスクロス」
  • トヨタの「ヤリスクロス」
  • SUV的な演出に乏しい内装だが、実際に売れるのはこういったクルマなのかもしれない

前席に座ると当然ながら視界は良好で、Zグレードには電動シートが備わるのでポジションも取りやすい。後席のスペースも問題なし。全長やホイールベースで100mmほど差をつけられている日産自動車「キックス」フランス産の小型SUVに比べれば足元の広さは敵わないけれども、窮屈で仕方がないというわけではない。

ラゲッジ容量はFF車で390L。こちらも数字では400L越えのライバルたちに譲る部分だが、6:4で分割して床面の高さを左右で変えられるデッキボードや、4:2:4と3分割で細かく倒せる後席の背もたれなど、工夫が多くて困ることはない。キックモーションでリアハッチが開くハンズフリーバックドアはあると便利な装備だ。

  • トヨタの「ヤリスクロス」

    荷室は幅広いアレンジが可能。2WD車でリアシートを倒せば、荷室容量は1,083Lまで拡大する

どのモデルを選ぶ?

走りの面で最も印象に残ったのが、HVのFFモデル。1,190キロの軽い車重と出だしのモーターパワーによる加速が気持ちいい。サスペンションは少し硬めだが、乗り心地としてはこのクラスの標準といった感じ。フル加速でもしない限り3気筒エンジンの音が気になることはないし、普通に走っていれば遮音もしっかりなされている。

  • トヨタの「ヤリスクロス」
  • トヨタの「ヤリスクロス」
  • 軽快に走るHVのFFモデル。乗り心地も文句なしだ

ヤリスクロスの特筆すべき美点は燃費だ。HVのFFモデルはWLTCモードで27.8km/Lとの表記だが、横浜市内の市街地をあちこち走り回っても20km/Lを割らない数値を表示し続けていたのには感心した。e-FOURモデルになると、車重が60キロほど重くなるのでもう少し燃費は落ちるけれども、降雪地にお住まいで燃費まで求めるユーザーには堅実な選択肢だ。

一方のガソリンモデルは、メーターの形状が双眼鏡のようなデザインになったり、内装が黒一色になったりとシンプルになるけれど、200万円を大きく割るスタンダードモデルの価格はライバルにない提案だ。上級の4WDモデルは前後アクスルがプロペラシャフトで直結する「ダイナミックコントロール4WD」システムを搭載していて、走破力が高い。こちらもFFだけの設定が多い他社モデルにはない能力であり、捨てがたい魅力がある。

  • トヨタの「ヤリスクロス」
  • トヨタの「ヤリスクロス」
  • 左がHVの「Z」グレードが採用するオプティトロンメーター、右がガソリン「G」グレードのメーターパネル

安全面では先進機能満載の「TOYOTA Safety Sense」をほとんどのグレードで標準装備。ヤリスでは一定速度以上でしか使えないACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)も、全車速追従が可能となっている。駐車が不安な人には「アドバンストパーク」(オプション)と呼ぶオートパーキングシステムまで用意する。

HVのラゲッジルームには、V2H(Vehicle to Home)用としてAC100V/1,500Wのコンセントと12V/120Wのシガーソケットを取り付けることができる。「クルマde給電」と名付けられたこのコンセントを利用すれば、 照明をはじめ冷蔵庫やヒーター、ドライヤーなどが家で使えるようになるので、災害時の停電などで頼りになるはずだ。今の時代、取り付けておいて損はない装備だろう。

こうして見てくると、ヤリスクロスにはたくさんの魅力が詰まっている。しかも、どこに住んでいてもディーラーが近くにあるトヨタの製品だから、何かあったらすぐに店に持っていける。たくさん売れるクルマには、それだけの理由があるのだ。

  • トヨタの「ヤリスクロス」
  • トヨタの「ヤリスクロス」
  • トヨタの「ヤリスクロス」
  • トヨタの「ヤリスクロス」
  • トヨタの「ヤリスクロス」
  • トヨタの「ヤリスクロス」
  • トヨタの「ヤリスクロス」
  • トヨタの「ヤリスクロス」
  • トヨタの「ヤリスクロス」