「東京は物価が高いので、生活費が高い」または、「地方は物価が安いので、生活費が東京に比べてあまりかからない」と世間でよく言われていることは、本当なのでしょうか。

連載コラム「地方の生活コストは本当に安いのか?」では、ファイナンシャル・プランナーの高鷲佐織が、実際に東京から地方へ移り住んで感じたことを交えながらお伝えいたします。

可処分所得と年収の違い

世間では、「年収はいくらか?」ということはよく話題になりますが、「可処分所得はいくらか?」とはあまり他人に聞かれる機会はないと思います。どちらも収入を指しているのですが、収入の中身に違いがあります。

「年収」とは、1年間の収入の合計のことで、税金や社会保険料を含めた収入のことを言います。それに対して、「可処分所得」とは、年収から社会保険料と税金(所得税・住民税)を差し引いた金額で、いわゆる「手取り収入」(自由に使えるお金)のことです。可処分所得も通常は1年単位で表します。会社員の場合、この社会保険料とは、厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料、雇用保険料の合計額を指します。ちなみに、介護保険料は満40歳に達したときから徴収が始まります。

可処分所得を計算する際の注意点として、2つお伝えします。1つ目は、民間保険会社で契約している生命保険や火災保険、損害保険などの保険料、また家賃、住宅ローンの返済額や光熱費です。一般家庭の家計としては固定費として強制的に支払わなければならない費用として管理しているかもしれませんが、これは手取り収入の中から自らの意思で支払っているものなので、可処分所得を計算する際に、年収から差し引くものではありません。

2つ目は、企業によっては、給与明細の控除項目(支給される給与から差し引く項目)に、労働組合費、社員会会費、親睦会費、社員旅行積立金、財形貯蓄などがあり給与から差し引かれている場合です。こちらも社員が規約などで同意して自ら選択して会費などの支払いをしているということで、可処分所得を計算する際に、年収から差し引くものではありません。可処分所得の計算式は下記の図1のようになります。

図1 可処分所得の計算式

都道府県別・可処分所得ランキング

では、可処分所得が多い都道府県はどこだと思いますか? 人口が多い東京都、神奈川県、大阪府などを思い浮かべる方もいらっしゃると思います。都道府県別に平成28年(2016年)の可処分所得を、ランキングにしてみました。

下記の表1は、都道府県所在市における二人以上の世帯のうち勤労者世帯を対象としています。勤労者世帯とは、世帯主が会社、官公庁、学校、工場、商店などに勤めている世帯を言います。ただし、世帯主が社長、取締役、理事など会社団体の役員である世帯は含まれません。1世帯あたりの1カ月の可処分所得を指します。

表1 都道府県別・可処分所得ランキング
※出典:「平成28年(2016年)家計調査結果」(総務局統計局)を加工して作成
※2人以上の世帯のうち勤労者世帯
※都道府県庁所在市別(東京都は区部)の1世帯・1カ月あたり

東京都、神奈川県、大阪府などの大都市が必ずしも上位になるとは限りません。これは、平成28年(2016年)の調査結果に限ったことではなく、平成27年(2015年)では、1位:富山県、2位:福島県、3位:埼玉県、更に1年前の平成26年(2014年)では、1位:富山県、2位:栃木県、3位:福島県という結果になっています。

つまり、都市部と地方を比較した場合、必ずしも都市部で生活する世帯の方が、可処分所得が多いとは限らないということです。これは、単に収入だけではなく、地域社会及び仕事や家族の在り方など、社会的環境の違いも影響していると思われます。

終わりに

今回は、可処分所得を取り上げました。可処分所得は、経済的な豊かさを測るものさしと言えます。あくまでも今回の可処分所得は1つの視点であり、ランキング上位の地域がすべてにおいて豊かであるとは限りません。

もちろん、大都市で働けば可処分所得が多いというわけではありませんので、働く場所を考える際には、単に、大都市で働くのではなく、自分に合った働き方ができる地域を選択するのも良いのではないでしょうか。

執筆者プロフィール : 高鷲佐織(たかわしさおり)

ファイナンシャル・プランナー(CFP 認定者)/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/DCプランナー1級。

資格の学校TACにて、FP講師として、教材の作成・校閲、講義に従事している。過去問分析を通じて学習者が苦手とする分野での、理解しやすい教材作りを心がけて、FP技能検定3級から1級までの教材などの作成・校閲を行っている。また、並行して資産形成や年金などの個人のお金に関する相談を行っている。