「都心では物価が高いので、生活していくのが大変だ」または「地方は物価が安いので、生活費が都心に比べてあまりかからない」と世間で言われていることは、本当なのでしょうか。

お金の扱い方について、都心部と地方部では、違いがないのでしょうか。

連載コラム「地方の生活コストは本当に安いのか?」では、ファイナンシャル・プランナーの高鷲佐織が、実際に東京と地方、両方の生活を経験して感じたことを交えながら、お金に関する情報などをお伝えいたします。

東京の喧騒を離れ、自然豊かな地方で自分らしく暮らしていく。そんな「地方移住」は多くの人にとって魅力的な選択肢ではないでしょうか。しかし、理想の暮らしを持続可能なものにするためには、現実的な「お金の管理」が必要です。

「地方にいけば生活費が安くなる」というイメージを持たれがちですが、実際には「支出のポートフォリオ(構成比率)が変わる」というのが適切です。今回は、移住に伴うランニングコスト(継続的に発生する費用)の変化と、金額では測れない「心地よさ」の天秤について考えてみましょう。

1.「移動する」ための自動車維持費

東京での生活において、移動の主役は、鉄道やバスといった公共交通機関です。車を保有することなく、必要な時だけカーシェアやタクシーを利用するというスタイルなら、交通費は月額数千円から数万円程度に収まるでしょう。

しかし、多くの地方都市や農村部では、車はぜいたく品ではなく、日常的に使う「生活必需品」です。ここで見落としがちなのが、車両本体代金以外のランニングコストです。

燃料代(ガソリン代):走行距離が伸びやすいため、月々のガソリン代は軽視できません。

車検・メンテナンス代:1~3年に1度の車検に加え、オイル交換やタイヤ交換(寒冷地であればスタッドレスタイヤは必須)などがかかります。

税金や保険:自動車税、自動車重量税、自賠責保険に加え、任意で自動車保険への加入も必要です。

これらを月割りに換算すると、1台あたり数万円以上の維持費が発生します。夫婦で2台所有となれば、東京での「電車・バス移動+たまに乗るタクシー」よりも、交通費の総額が跳ね上がるケースは珍しくありません。

2.「家賃の低下」と「光熱費」の反比例

移住の最大のメリットとして挙げられるのが、東京に比べて住居費が安いことです。東京の人気エリア(港区、渋谷区、新宿区など)でワンルームを借りる家賃で、地方であれば、庭つきの一軒家が借りられることもあります。しかし、ここにも計算の落とし穴があります。

専有面積と冷暖房効率

東京のマンションは気密性が高く、上下左右を他の部屋に囲まれているため、意外と冷暖房効率がよいものです。一方、地方の広々とした一軒家は、開放感がある反面、冬の寒さが厳しく感じれることが多いのも現実です。

「部屋数が増えた分、エアコンやストーブの稼働時間が増え、電気代や灯油代が大幅に増えた」という声も聞かれます。

プロパンガスと水道料金

都市ガスが普及している東京に比べて、地方では「プロパンガス」を使用している住宅が多いです。プロパンガスは、各ガス事業者が自由に料金を設定できる自由料金制であるため、都市ガスに比べて料金が割高になる傾向があります。また、水道料金も、自治体によって数倍の開きがあるため、移住先の自治体の水道料金体系は事前に確認しておくべきポイントです。

通信環境の再構築

テレワークを前提に移住する場合、インターネット回線は生命線です。光回線の引き込み工事が必要であったり、エリアによってはモバイル回線の入りが悪かったりすることもあります。住居を決める前に、通信環境の整備状況は仲介不動産会社などに確認しましょう。

3.金額では測れない「心地よさ」という投資

ここまで支出の増加リスクについて触れてきましたが、家計簿の数字だけを見て「移住は損だ」と結論づけるのは早計です。私たちが移住に求めるものは、単なる「節約」ではなく「生活の質の向上」や「自分らしい暮らし」ではないでしょうか。

混雑から解放:満員電車や行列に並ぶストレスが消えることは、気分が穏やかになり、心が安定して計り知れない価値があります。

食の豊かさ:近所の直売所や道の駅などで手に入る採りたての野菜や果物は、東京の高級スーパーやデパ地下惣菜では味わえない鮮度の食材が、日常の食卓に並びます。

景観の癒し:窓を開ければ山並みが見え、夜には星空が広がる。海の近くであれば、心地よい海風を感じられ、おだやかな波の音が聞こえる。自ら選んだその土地の景色を毎日眺められることは、心に余裕をもたらせてくれます。

これらは、家計簿上では「0円」かもしれませんが、人生の満足度を左右する重要なリターンです。

東京からの地方移住は、人生の大きな転換点です。支出の項目が変わることを正しく理解し、計画的に備えることで「お金の不安」に振り回されず、新しい暮らしを楽しむことができるでしょう。数字上のコストと、精神的な利益(幸福感)のバランスを整えて、理想の地方移住を実現してみてはいかがでしょうか。