漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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昨年末から、不倫、嫁姑問題、モラハラ、パワハラ、近所の盗人ママなど、人間同士の諍いをテーマにした動画ばかり見ている。

別に仕事でもなければ、何かの更生プログラムのため、機械仕掛けのオレンジ状態で動画を見せられているわけでもなく、ただの趣味だ。

この手の動画は、悪い方が離婚慰謝料請求、左遷クビ、お縄になるなど、最後にスカッとするオチをつけているのだが「今こいつはこれだけ酷いことをしてますがこれから痛い目をみますよ」という、前フリ極悪パートがあまりにも胸クソすぎて、北斗生まれのKさんが出てきてモラハラ旦那や不倫女を爆散しない限りはスカっとできないことが多く、見れば見るほどストレスが溜まっていく。

ならばなぜ見続けているのかというと、酒、タバコ、シャブなど体に有害なものほど依存性が高く、自分の意思では止められないからだ。

そんなわけで今年も最悪の気分で新年を迎えることができたのだが、こういう人間同士の愚かな争いの鉄板として「嫁の飯がまずい」略して「メシマズ」というのがある。

ただメシマズと一言で言っても、飯がまずい嫁をただ糾弾するものもあれば、作ってもらっている分際でガタガタ抜かす旦那に天罰が下る話、伏兵として姑が嫁の飯にケチをつけ、マザコン旦那がママの肩を持つ話など、千差万別であり、たかが最終的にウンコになる飯の味でここまで無限に揉められる人間に世界平和など実現できるわけがない。

メシマズに関しては、文句があれば自分で作れば良い、そう思っていた時期が私にもあった。だがわざわざ動画にされるレベルのメシマズというのは、むしろ料理好きかつ、自分がメシマズだと気づいておらず「俺が作る」や「クックドゥ先生召喚」すらままならない状況らしい。

メシマズに対する永遠の謎として「自分が作ったまずい飯を自分で食って気づけないのか」というのがある。

確かに、カメムシだって自分の匂いで死ぬぐらいの自覚はある。しかし何せ人間はカメムシよりもデリカシーがない。

ワキガが自分のワキガに気づけないように、自分のまずい飯を煉獄さんのように食っているメシマズも一定数存在するようだ。

むしろそのおおらかすぎる舌こそがメシマズの原因になっていたりする。

動画によると、意図的に嫌がらせや殺害目的でまずい飯を作っている文字通り鬼女の皆様もいるようだが、一番の難敵はやはり「良かれと思ってICU」型のメシマズのようだ。

やる気と善意に満ちたメシマズは「普通に食えるもの」ではなく普通より美味いものを作ろうとするのである。

つまり「普通のレシピ通りにしてはダメ」と思っているため、料理センスを奪われた平野レミのように斬新なオリジナルアレンジをしてしまうのだ。

そしてそのアレンジは「普通は使われない調味料」でなされることが多い。

そんなわけで今回のテーマは「調味料」である。

私はメシマズとしてはおそらく四天王最弱であり、そもそも料理が好きではなく「材料が2つぐらい足りなくても作る」「工程を2つぐらい端折る」というマイナス型なので、口に入れてはいけないものをプラスするということもあまりない。

ゆえに調味料もそんなに変わったものはないし、むしろクックドゥ先生さえいれば調味料はいらないぐらいなのである。

しかし先日「ホットクック」を購入したため、突然調味料の必要が出てきた。

もちろんホットクックで材料とクックドゥを加熱するというダブルクック戦法をとれば勝利はより確実なものになるが、流石にそれは石油王の晩餐すぎる。

今更だがホットクックというのは自動調理器のことで、これに食えるものを入れてスイッチを入れると自動で口に入れて良いものを作ってくれるという優れものである。

「レシピ通りに材料を入れる」という最大の難関は残ったままだし「腐った材料を入れると腐った料理ができる」という欠点はあるものの、火が通ってない、もしくはかつて食物と呼ばれた炭になるという事故は無くなった。

そしてホットクックを使い出してわかったことは、世の中の大体のものは、砂糖と醤油と酒とみりんで構成されており、それが悪魔合体したものが「めんつゆ」なのではということだ。

正確には違うのだろうが、めんつゆは全員と付き合っていそうなビッチ感はある。

ただビッチゆえにめんつゆはヤリ手なのだが、その手の女がサブカルクソ女に嫌われているのと同じように、料理に個性を出そうとするメシマズほどめんつゆを嫌っていたりする。

めんつゆを使えば65点は約束されるが、常に1万点を目指すメシマズにとってめんつゆはマイナス9935点でしかないからだ。

しかし現実としてモテるのは個性の強いサブカルクソ料理よりも、そこそこイケるから食っとくかレベルのビッチ料理だったりする。

変わった調味料があればつい買ってみたくはなるが、結局1回しか使わず冷蔵庫のスペースを取り続けるメンヘラ地雷化するだけだ。