すべての健康保険証の有効期限が12月1日で切れて、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行しました。多くの医療機関では健康保険証からマイナ保険証への移行を進めていますが、課題の1つがマイナ保険証1枚で受付が完結しないという点です。
大きな病院だと、再来受付機は診察券を使い、その後保険資格確認のためにマイナ保険証を使う、というパターンが多いようです。小さなクリニックなどでも、受付で診察券を提出したうえでマイナ保険証で確認をするというケースが多いでしょう。
これは、健康保険証でも同様でした。再来受付機で受診票を出力できても、保険資格の確認が必要であれば窓口に健康保険証を提出しに行かなければなりません。こうした点を課題に感じている病院は多いのですが、対策としてはいくつかの方法があります。
今回、USEN&U-NEXT GROUPのUSEN-ALMEXによる新型受付機を導入して対応したNTT東日本関東病院に、その経緯やメリットに関する話を聞きました。
マイナ保険証一体型の再来受付機で効率化
こちらのNTT東日本関東病院ではもともと、健康保険証のOCR読み取り機能を備えたUSEN-ALMEXの再来受付機を導入していました。これによって、再来受付機で診察券と健康保険証の双方を確認できるようになっていたのですが、マイナ保険証には対応していなかったため、再来受付機だけでは保険資格確認が完結しませんでした。
そのため、マイナ保険証の読み取りが可能な再来受付機へとステップアップすることを想定していたそうです。しかも、既存の健康保険証向けの再来受付機と同様に、再来受付機とマイナ保険証リーダーが一体化している製品が必要だと考えていました。一体型ではない場合、再来受付機に並んでから窓口などにあるマイナ保険証リーダーに移動することになって動線が不便になってしまうからです。
この問題の解決策としては、例えばマイナンバーカードの磁気ストライプ部分に診察券の情報を書き込むという方法があります。もう1つ、再来受付機とマイナ保険証リーダーを一体化して、両方のカードを読み取る方法もあるでしょう。そして、マイナ保険証と患者データを紐付けて、オンライン資格確認の照会番号を使って診察券と一体化する方法もあります。
NTT東日本関東病院は、このマイナ保険証と診察券の一体化を選択しました。USEN-ALMEXのマイナ保険証リーダーを埋め込んだ再来受付機「Sma-pa マイナターミナル」は、マイナンバーカード1枚でマイナ保険証確認、再来受付、会計までも対応できる一体型端末です。NTT東日本関東病院では、まず保険確認と受付での対応からスタートし、患者は再来受付機だけで受付が完了するようになりました。今後は会計まで完結できるようにすることを計画しているそうです。
NTT東日本関東病院では、健康保険証を利用していた際、医療事務の職員が目視で確認して登録情報との相違をチェックしていたそうですが、マイナ保険証を利用するようになって人の手を介さない確認ができるようになったそうです。「病院側の仕組みとして非常に効果が大きい」と鶴田氏。その上で同氏は、「『再来受付機とは別の場所にあるマイナ保険証リーダー』というように動線が分かれてしまうと、マイナ保険証を導入する効果が十分に現れない」と強調します。もちろん、マイナンバーカード1枚で完結することは、患者にとってもメリットが大きいでしょう。
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マイナンバーカードをリーダーに置いて顔認証をします。このあたりの操作は通常のマイナ保険証受付と同じ
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そのまま待っていると再来受付機側の画面に予約内容が表示されます
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最終的に受診票がプリントアウトされ、各診療科でまた受付を行います
とはいえ、診察の過程では診察券が必要なシーンがまだ残っているそうで、病院側としても課題として認識していると言います。それでも、受付時に診察券と健康保険証を提出するという工程がマイナンバーカード1枚に集約され、病院側の事務負担も削減できた点は大きなメリットでしょう。
NTT東日本関東病院では、健康保険証のみの時代、受付を各診療科で行って各科で受付番号を伝える簡易的なシステムをとっていたそうです。これを解消するために再来受付機を設置し、そこですべての受付を済ませるという方式に変更しました。その時点では、「健康保険証を読み取れる再来受付機がUSEN-ALMEXだけだった」のだそうです。
この再来受付機を導入したことで健康保険証の読み取りが可能になり、受付の利便性や効率化が可能になったのですが、それでも後期高齢者医療制度や公費負担医療制度の対象となっている患者の場合、負担割合は目視確認が必要だったといいます。
健康保険証では一部でこうした目視確認が必要だったのに対して、マイナ保険証ではそれが不要になるため、事務作業が削減できるのがメリットになります。
導入時の混乱もそれほど大きくはなかった
同院でも、健康保険証向けに再来受付機を導入した頃には、「今までとやり方が違って大変になった」というネガティブな意見もあったそうです。しかし、しばらくするとそれにも患者は慣れていったとのこと。今回、マイナ保険証対応の再来受付機を導入した際には、操作感が従来と大きく変わらないため、「使い方が分からない」といった声はほとんどないといいます。マイナ保険証のリーダー部は、すでに同病院でも使われていたものだったので、こちらも患者が戸惑うこともなかったようです。
もちろん、健康保険証の有効期限が切れてもまだ2026年3月までは既存の健康保険証が利用でき、マイナ保険証に移行しなくてもよい資格確認書の発行が行われているという点もあり、これらによって混乱が避けられているという面はあるでしょう。それを差し引いても、マイナ保険証への移行においても慣れることで混乱は抑えられるということを意味します。特に高齢者は継続的に受診する機会がある人が多いため、使いこなせるようになる人は増えていくでしょう。
新井氏も「従来の再来受付機があったから、マイナ保険証対応再来受付機もスムーズに受け入れられた」と話しており、「医療事務職員の過度な負担を避け、効率的で現場に無駄のない方法を選んだ結果、個別に利用を促すような対応するのではなく、マイナ保険証対応の掲示に気付いた人から使ってもらえるようにした」そうです。
マイナ保険証対応の再来受付機によりマイナ保険証の利用率も向上
このマイナ保険証対応の再来受付機を導入したことで、マイナ保険証導入当初は4~5%、その後は10%弱だったマイナ保険証の利用率が、導入後の6月には30%を超え、9月には46%になったといいます。使い勝手が良くなれば利用率は拡大するようです。当初は利用者が戸惑って受付行列が長くなる懸念もあったそうですが、その後はスムーズに運用でき、保険証の登録誤りが減るなどの効果も出てきているといいます。
マイナ保険証対応の再来受付機導入によってマイナ保険証の利用率が向上した効果について鶴田氏は「現場で対応するスタッフが確実に楽になっている」と話します。患者の負担割合の認識は、紙の保険証ではどうしても登録間違いが起きて、診療報酬の請求が差し戻される返戻が発生していたそうです。マイナ保険証だとデジタルで確実に情報が照会できて、利用率が上がるほど返戻のリスクが小さくなると強調します。
返戻が起きるとそこでまた作業負担が発生します。マイナ保険証の利用拡大で業務負担の削減を期待しており、「効果はすでに十分に出ていると思います」と鶴田氏は言います。
大きなトラブルとしては、オンライン資格確認等システムに通信障害が発生し、処理の遅延が発生したことがあって、その時は新型の再来受付機が受付機能を停止してしまったことがあったといいます。その時は従来機種で対応したそうですが、オンライン資格確認のトラブルでも受付機能だけは切り離して継続できるようUSEN-ALMEXに要望したところ、すぐに対応してもらえたとのこと。こうした迅速なメーカー側の対応も、病院にとっては信頼感の向上に繋がっているそうです。
ちなみに同病院では、マイナ保険証の利用を促すため、「あえて旧機種の台数を減らしている」と言います。マイナ保険証ならば台数の多い再来受付機を使えて、よりスムーズに受付できるようにしているそうです。新井氏によれば、バスで来院する患者は同じタイミングに集中してしまうそうですが、新型再来受付機に気付いてそちらで受付する人もいるので、受付機の台数について特段の苦情はないそうです。
マイナ保険証を使ったオンライン資格確認では、何らかの事情によって資格が確認できなくても、現役世代だったら3割負担といった応分の負担を前提にするよう、厚生労働省は様々な手続きを医療機関側に示しており、最終的には医療機関側に負担が出ないように、患者側に10割負担にならないように措置を講じています。
NTT東日本関東病院では、現状で10割負担を求めるようなことは基本的にないと言います。もともと再来患者が多いため、前回の受診時から保険資格に変わりがないかを聞いて、変わりがないと言うことだったらそのまま処理をする、という手続きになっているからだそうです。暗証番号忘れや顔認証のトラブルも、「頻繁にあるわけではない」と新井氏。受付業務の担当者からは困っているという声はないそうです。
もちろん、トラブルはゼロに近づくのがいいことは間違いありません。オンライン資格確認やマイナ保険証周りのトラブルはゼロではないとしつつ、「メリットの方が圧倒的に大きい」と鶴田氏。入院患者も多いため、自己負担の上限を証明する限度額適用認定証も、マイナ保険証の読み取りだけで適用できるため、患者側にも病院側にも負担がなく利用できる点もメリットとしています。
コスト面では、人の手による登録作業や確認業務がデジタル化されたことによる削減効果に対して、ハードウェアなどの導入・維持コストなどは発生しています。しかし、紙で患者データなどを管理していた時代は、医療事務の一部を外部委託していたこともあり、そうしたコストは削減できたそうです。コスト面での精査はまだしていないそうで、現時点では「コストメリットが出ている可能性がある」程度ですが、マイナ保険証の利用率がさらに向上してコストメリットが確実に出てくることを期待しているそうです。
現在は診察券を使っている本人確認も将来はデジタル化へ
次の課題について鶴田氏は、例えば同意書などを印刷して渡すなど、紙の運用が残っている点を挙げます。こういった際には診察券を使っているとのことで、これをデジタル化できれば診察券を使うシーンがほとんどなくなるとみています。
患者の本人確認についても診察券で確認しているそうですが、医療事故を防ぐためには厳密な確認が必要との考え。この本人確認については、スマートフォンのマイナンバーカードが有効に機能するようになるかもしれません。すでにiPhoneには、プライバシーを守りつつ手軽に厳格な本人確認ができる機能が搭載されています。デジタルIDウォレットと呼ばれる、海外でも昨今注目されている機能です。
これにはスマートフォンとマイナンバーカードの組み合わせが必須ですが、安全性・プライバシー・本人確認の厳格さなど、メリットの多い技術であり、病院内での本人確認でも、今後活躍するかもしれません。
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ちなみに再来受付機がないようなクリニックなどに向けても、国はマイナ保険証と診察券の一体化を提案しています
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マイナ診察券の導入に関する助成もあり、2026年1月15日まで申請を行うことができます。スマートフォンのマイナ保険証の補助金も1月31日までなので、検討している医療機関は早めに決断するといいでしょう
これは将来の話としても、iPhoneのマイナンバーカードとAndroidのスマホ用電子証明書によって、マイナ保険証はスマートフォンでも利用できるようになりました。NTT東日本関東病院でもスマートフォンでのマイナ保険証には期待している面もあると言います。
マイナンバーカードの持ち歩きに不安を感じる人でも、スマートフォンであれば持ち歩きやすいということもありますし、常に持ち歩いているスマートフォンが保険証として使えることのメリットは大きいでしょう。
マイナ保険証の利用率が3割程度であっても、病院事務としては効果を実感しているというNTT東日本関東病院。健康保険証の有効期限によってマイナ保険証の利用率が向上し、実際に病院事務の負担軽減、患者の利便性向上に繋がることが期待されます。
ユーザー側にとっても、医療機関の受付、保険資格の確認が効率化されることは利便性向上に繋がります。「トラブルの発生」ばかりが取り沙汰されますが、多くはトラブルなくスムーズに利用できており、残るトラブルをいかに改善していけるか、国や事業者、病院などの取り組みを今後も注視したいところです。






