今回はちょっと目が点になったお客様のエピソードを紹介するわ。その日の担当はビジネスクラス。粛々とミールサービスを行っていたときのことよ。ビジネスクラスでは前菜、メインと食事が続いたあと、カービングボードにのせたチーズとフルーツサービスを提供するのね。リンゴやバナナ、オレンジなどの定番の果物に加え、パッションフルーツやブドウ、桃、イチゴ、柿などの季節の果物がバスケットに盛られ、お客様に好みのフルーツを選んでもらって提供していくの。

前方の席から順番にチーズ&フルーツサービスしていると、視線を感じる。ふと周囲を見渡すと、40代半ばと思われるスーツを着たビジネスマン風のお客さまがチラチラこちらを見ている。視線の先はフルーツバスケット。「何にしようか決めてるのかしら」と思いながらサービスを続けていったわ。

お客様は旬の果物を所望される方が多く、当然季節もの果物はすぐになくなっていく。その日は桃が人気で、前述のサラリーマン風のお客様の前に座られていた方も「桃」をリクエスト。そこでバスケットの桃はなくなってしまったの。

何が何でも桃……のお客さま

追加分をギャレーに確認に行ったけれど、「桃は終了」とのこと。別に搭載されている果物で引き続きお客さまにサービスを続けたわ。そして前述のお客さまの番になり、「何にいたしましょう」と伺うと、もうなくなってしまった「桃」をリクエスト。ないものはサービスできないので、「申し訳ございません、桃は終了いたしました」と謝罪しながら、「他のフルーツはいかがですか」とお伝えすると、また「桃」と一言だけ。なるほど、先ほどの視線は桃への熱視線だったのね……。

お客様が桃を熱望されるので、念のためファーストクラスにも残っているか確認に行ったわ。でも、そこでもなかったわけ。席に戻って「桃以外でのフルーツでは……」と言い始めた途端、そのお客さまが突然「俺は桃が食べたいんだー! 」と急に叫んで、前の座席をすごい勢いで蹴ったじゃない!!

スーツを着たビジネスマン、ましてやビジネスクラスで起きた予想もしない行動にびっくりよ。当然前の席の方や周囲にいたお客さまも彼のブチ切れぶりにビックリ。食べ物1つで人ってここまで変わるのねと驚いた出来事でした。

イラスト: 伊東ぢゅん子

著者プロフィール

pこ
   今から、ん年前、外資系某エアラインに客室乗務員として入社し、5年間国際線勤務。月のうち2/3はフライトのために海外へ。ロングステイのフライトでは、観光やグルメ、ショッピングにいそしむ日々。ファーストフライトとラストフライトで、コックピットのジャンプシート(補助席)からみた着陸の光景は忘れられませぬ。