幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第93回は女優の松本若菜さんについて。連続ドラマ初主演作となる『復讐の未亡人』(テレビ東京系)に出演中の松本さん。38歳という年齢の力も相まって今何かと話題の人です。ただ美しいというだけではなく、ものすごい吸引力を持っているのではと、私も最近目が離せなくなっております。

松本若菜の美しさを使い切ったドラマだ

松本若菜

まずは現在松本さんが主演されている『復讐の未亡人』のあらすじを。

愛する夫を自殺に追い込んだのは会社――。その恨みを晴らすために、鈴木密(松本)は、亡くなった夫の勤務していた会社に派遣社員として入社。死因に関わったであろう人物へ、義弟の松本陽史(淵上泰史)とともに恐ろしい復讐を繰り返していく。ただ同僚だった斎藤真言(桐山漣)の様子と夫の関係性が怪しいことに気づいてしまう密……。

一言で表すのなら、松本さんの美しさを余すところなく使い切ったドラマだ。密の復讐劇はその辺に転がっているようなものではない。夫を追い詰めた男には美貌を生かして、次々に体を重ねていく密。その様子はまるで自分の体に血が流れていないのではないのか? と疑念を持たせてしまうほど。もう肉体ではなく、あれは"物"である。

肉体関係で油断させているうちに、相手が苦しむようにとどめを刺していく密と、陽史。中には情事の最中に薬で命を縮められた者もいた。彼らの怨念は止まることを見せない。中には情事の最中の絶頂時に、薬で命を縮められた男もいた。対象者が苦しむ様子を見て、まったく表情を変えない密。ここで笑みのひとつでも見せたら、ただのミステリードラマ。感情を表にしないからこそ、恐怖が増す。加えるのなら彼女に品があるからこそ、ベッドシーンも卑猥にはならない。

この現象もまた"松本劇場"だと思っている。

"松本劇場"は続くよ、どこまでも

松本さんの名前が広く知られたのは『やんごとなき一族』(フジテレビ系・2022年)の深山美保子役。完全に玉の輿だけを狙った美保子が、突然現れた後継者の嫁・佐都(土屋太鳳)に執拗ないじめを繰り返すシーンが話題になった。歌いながら、高笑いをしながら、良家に馴染めない義妹を追い詰めていく演技。これが"松本劇場"のスタート。

ネット検索をすると2007年のデビュー以来、カウント不可能なほど多くの作品に出演している松本さん。下積み期間がいかに長かったのかが、よく分かる。約15年間、自分を奮い立たせて目標へ向かっていくというのはどれほどのストレスか。想像しただけでもこちらが不安になる。

そんな彼女の姿を私が知ったのは『金魚妻』(Netflix配信)の田口慈子役。人妻たちが昼間の情事と、恋に溺れていく様子を描いた作品だ。インパクトのあるシーンも多かったけれど、松本さんの演技は引っかかるものがあった。普段は控えめな由緒正しい主婦なのに、好きな男の前ではつい大胆不敵になってしまう慈子。濃淡ある演技が素晴らしかったのだ。

そして満を持しての連続ドラマ主演へと繋がっていく。ひたすら自分の才能を温め続けた松本さんのことをこうして考えていると、(僭越ながら)同じ女としてやる気が湧いてくる。世間ではどうしても若さによる強さを求められることが多いけれど、年齢を重ねたからこそできることの方が実は多い。だって20代に40代の気持ちは分からないけれど、40代には20代の経験があるのだから。

おそらく彼女の背後には、たくさんの新しい舞台が待ち構えているはずだ。私たちが新しい姿にお目にかかれるのも、きっともうすぐ。