幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第62回はタレントの菊池風磨さん(Sexy Zone)について。1月16日(土)にスタートした新ドラマ『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』(以下、書けないッ!?)(テレビ朝日系)に出演する菊池さん。最近、何かと露出の多い彼ですが、とある番組を見てから印象が変わりました。
『時かけ』で心を掴まれた2016年のあの夏
『書けないッ!?』は脚本家としてはさっぱり……なので、主夫の顔を持つ吉丸圭佑(生田斗真)と、売れっ子作家の奈美(吉瀬美智子)は夫婦。ある日、圭佑の元にゴールデンタイムの脚本執筆依頼が舞い込んでくる……というのが、大まかな物語。
ドラマオタクの勘が「このドラマはいいかもしれない」と勘が働く。その理由は最近出てくるだけで面白そうな予感をさせる、生田斗真さんが登場すること。彼がテレ朝で主演を務めるのは初めてのことらしい。『俺の話は長い』(日本テレビ系 2019年)で、一線級のニートを演じたのがまだ印象深いだけに、今度はどんなキャラで来るのだろうか。そして脚本は木村拓哉さん(HERO)、江口洋介さん(救命病棟24時)など、イケメンたちからこよなく愛されている福田靖さん。見なくてはいけない面白そうな要素が並んでいる。
『Sexy Zone』として鮮烈デビューを飾った菊池さん。彼の印象といえば"今時の男の子”だった。お父様は嵐のデビュー曲を提供されたシンガーソングライター。時々、テレビで見かける様子がちょっと生意気そうな感じで「ああ、慶応シティボーイだなあ」。
この印象が少し変わったのが『時をかける少女』(日本テレビ系 2016年)の深町翔平役。高校生でありながら、実は宇宙人のケン・ゴンソルという一風変わった役。でも同級生の芳山未羽(黒島結菜)に恋をしている様子が切なくてとっても良かった。当時、共演の竹内涼真さんが騒がれだしていたけれど、ダントツで菊池さんが記憶に残る。オリンピック中継で、放送回数が少なかったことが、個人的にはいまだに悔やまれる作品。私の中で、菊池さん=深町のまま時間が流れる。
セミヌードの向こう側にあった、若者の覚悟
最近、テレビで菊池さんの衝撃的な映像を見た。ネットでもすぐ出てくるほど、話題になっている『芸能人が本気で考えたドッキリGP』(フジテレビ系)で、ほぼ股間しか隠れていないようなセミヌードを公開したのである。シャワー、プールなど、ファンだけではなく全女性が悶絶するほどのシーン。体がギリシャ彫刻のようにきれいだった。女性だけではなく、周囲の男友達も「いい身体だよな!」とざわついていたことも思い出す。
スペシャルボディを公開したことが効いたのかどうかは知らないが雑誌『Tarzan』(マガジンハウス刊)の表紙を飾っていた菊池さん。仕事で私もお世話になっている出版社だけれど、この編集部に配属になると部員はガチで体を鍛えたり、マラソンを走っている話は聞いたことがある。そんなセミプロ集団に認められるとは、努力の賜物としか言いようがない。
ただ昨今の、空前の筋トレブームから考えると大層な稀有な出来事ではないことも事実。 “爪痕を残す”という表現のごとく、アイドルらしからぬ意外性を世間に見せてきているのだと思っていた。
そしてここまでの印象をガラッと変えたのが、最近、金曜の深夜に放送されていた『RIDE ON TIME』(フジテレビ系)だった。金曜はコロナ禍で飲みに行きにくい状況だったとしても、好きな時間まで自宅飲みをして一週間の自分を労っている。そんな解放区の深夜に放送されていた『RIDE ON TIME』に、菊池さんがグループとして出演していたのを、たまたまほろ酔いで見ていた。そこで彼が放った
「このグループに関して、焦らなかったことは1回もないです」
この一言で少しだけ酔いが冷める。公共の場で「焦っている」とは、自分を遜(へりくだ)せた表現にもほどがある。
第三者から見ればただ腹を抱えて笑うだけの(勝手に)ギリシャボディ披露も、その裏には色々と若者なりの葛藤があったのだと悟り、ジュンとしてしまった。10代から第一線にいるというのは、こんな情報化社会であれば、それなりの苦痛も伴う。キャーキャーと、ファンから騒がれているだけではないのだ。前述の“ちょっと生意気だった印象”も、深町くんも全てが点と点で繋がった。
彼のたった一言で、第一線から逃げない人たちの見解が少しだけ変わった。自分の記憶だけであれば、デビューからずいぶん時間をかけてしまったかしれない。でもこんなふうに、少しずつ庶民の心を攻略していけるはず。なんせ、まだまだ若いのだから。さて私はせめてセクゾのデビュー曲以外の曲を覚えてみようか……。