幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第59回は俳優の仲野太賀さんについて。現在『この恋あたためますか』((以下、恋あた)(TBS系)に出演中です。子役から活動、二世代俳優……と、俯瞰で見れば芸能人に成るべくしてなったような存在。でも背景には頼っていない、骨太精神が演技から見えてきたので、その件についてつらつらと。
恋の四角関係に見えた"東ラブ"の既視感
まずは『恋あた』のあらすじを。
コンビニでアルバイトをしていた、スイーツ作りの得意な井上樹木(森七菜)は、コンビニチェーン『ココエブリィ』の社長・浅羽拓実(中村倫也)と偶然に会って、スイーツ開発に関わる。いつの間にか樹木は浅羽に心を惹かれていたものの、社長を解任されてしまう。距離が遠くなっていく二人の関係の行方はいかに……
初回から放送をチェックしていたけれど、どうも『恋あた』に萌えるものがなかった。キュンキュンもしない。作品を見ていても主人公が敬語をきちんと使えない設定というのも、令和にしっくりこない。加えてなんとなく予想ができてしまうシンデレラストーリー。つい余計なことを考えてしまう。
でもSNSで様子を見張っていると、毎度トレンド入りしている。そろそろ自分の恋愛センサーも錆びてきたと思っていたら、第6話の放送を終えてから、前のめりになるようになった。
樹木は社長(浅羽)を好きで、社長は元カノの北川里保(石橋静河)とよりを戻しそう。社長の幼なじみで樹木の同僚、新谷誠(仲野太賀)は樹木が好き。
ホワイトボードを出して説明したいような、恋の4角関係が面白くなってきたし、どことなく『東京ラブストーリー』(以下、東ラブ略)(フジテレビ系 1991年)のもどかしい関係性を彷彿させた。数年前に復刻した『東ラブ』で石橋静河さんが赤名リカを演じていたことも影響しているだろうけど。
本当にこの恋が温まってきたのかもしれない。そう思ってついセブンイレブンで番組オリジナルのチョコシュークリームを購入してしまった。
『恋あた』で仲野さんは先述の通り、主人公に恋するパティシエ・新谷を演じている。
仲野の投入で俳優布陣がかっちり整う
新谷の不器用さが、寅さん以上、あんちゃん(ドラマ『ひとつ屋根の下(フジテレビ系・1993年)』で江口洋介が演じた、6人兄弟の長男)未満という雰囲気がしていい。デートに誘えなかったり、気持ちが焦ってキスをしてしまったり。樹木はひょっとしたら自分のほうを向いてくれないかもしれない。小さな不安を払拭するように、新谷は今日も泡立て器を回し続けている。
仲野さんの出演作を回想すると、とても私の海馬だけは追いつかないほど出演作が多い。さすが子役から売れっ子なだけある。ではブレイクした作品といえば『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系・2016年)の、新入社員役。ゆとり世代のうえに、モンスター呼ばわりをされるほどパワハラに敏感な若手だった。
現在では『あのコの夢を見たんです。』(テレビ東京系)で主演を務めるほど、立ち止まることなく、演じ続けている。彼が作品に入っていくことで、俳優の布陣がまとまって見えるような存在感がある。ふわふわしていた生クリームに、チョコレートソースをかけて締めくくるようなイメージだ。
その様子を見ていると、どうしても父親で俳優の中野英雄さんを思い出す。あまり二世について記述することは好きではない。親は親、子は子。もしこの文章を当のご本人が読んだら気分は良くないだろうし、言われることに飽きているだろうし。
でも中野英雄さんに関しては違う。名作『愛という名のもとに』(フジテレビ系 1992年)で、主役超えをしてしまった、名バイプレイヤーであり、あのチョロ(役名)だ。当時は世間も知らずにドラマを見ていた10代にとって、強烈な印象を残した。その息子さんだと思うと、感慨深いものがある。今の『恋あた』で踏ん張っている新谷を見ると、DNAのすごさを感じずにはいられない。
で、そんな仲野さんを勝手にトータルすると
"振られ男子なんだけど、最終的に幸せを根こそぎ持っていくのはこの男"
そんなイメージがある。生活にこだわりがある女子が好きな雰囲気イケメンだけでは、決して終わらせたくない。最後はウハウハしていて欲しいんだよね。
さて『恋あた』。第6話は樹木に対する、社長の気持ちが聞けるあと一歩で終了。来週はその続きからスタートということで、テレビ前に待機。