エンタメライターのスナイパー小林が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第19回は俳優の要潤さんについて書いていきます。現在朝ドラ『まんぷく』(NHK)に出演中の要さん。最近テレビで見かけると目が離せなくなっている存在のひとりです。演技以外のシチュエーションでチラホラ見かける彼の全力ボケの姿勢。あの源泉はどこに存在するのか不思議でならないのです。
あえてこう呼ぶ"今井家の婿"は彼史上最大のハマり役だ
今でこそ国民食となったインスタント麺の誕生をドラマ化した『まんぷく』。主人公は楽天家でそして夫のことが大好きな立花福子(安藤サクラ)。そして妻に支えられ、数々の試練を越えてカップヌードルの開発にたどり着いた萬平(長谷川博己)。この夫婦二人が多くの愛情と人情に囲まれて、日本だけではない世界の食文化に革命を起こす。
というのが、ドラマ『まんぷく』のあらすじ。半年間の放送期間を経て、いよいよ最終週に突入にした3月後半。この朝ドラで要さんは福子の姉・香田克子(松下奈緒)の夫・忠彦を演じた。彼の職業は画家。結婚当初は鳴かず飛ばずの日々で、香田家の家計はひっ迫気味……。克子の母・今井鈴(松坂慶子)からも嫌味を言われてばかりの日々……。さらに物静かな性格なものだから、一家の長であるにも関わらず、あまり権限がないという寂しい男。
それが徴兵を経て、目を悪くするものの画家としての才能が開花。絵の美人モデルから影響も相まって、忠彦は一流のクリエイターとなる。そして物語の主軸になっている"まんぷくヌードル"のイラストも彼が手がけている。
要潤、38歳。出演した作品はすでにカウント不能な本数で私は全てを視聴したわけではないけれど、この忠彦さん(敢えてこう呼びたくなる)役が一番ハマっていると思う。それは最近の要さんが各所で残しているボケの爪痕が、役と合致するところが多く見られたから。
普段はおとなしい忠彦さんだけど、芸術家ゆえに時々素っ頓狂なセリフを落とす。
本人も普通の容姿だと認める愛娘のタカ(岸井ゆきの)に 「おまえは浮世離れした美人や」 と、周囲もシーンとしてしまう娘への愛情をさく裂。
散々、嫌味を言われてきた義母である鈴のことを「お義母さんのお顔には人生で色々な経験をしてきた深みもあるし、可憐さもある」と突然褒める。それもその場しのぎの一言ではなく、忠彦さんは常に真剣だった。こう行ったシーンは他にもいくつかあって、笑っていいものかどうか判断に迷う一瞬ではあったけれど、全てに適度な重みがあるセリフたちだ。そこに要さんが発することで独特の面白さがプラスされて忠彦さんの魅力をさらに引き出していた。ご本人も相当撮影が楽しかったのか
「え、終わり!? うそー!! まだやりたいまだやりたいまだやりたいー!!」
こんな風にツイッターでつぶやいていたほどだ。そして要さん褒めはここで終わらない。
色男がボケると無敵になることを要潤が証明した
『僕と彼女と彼女の生きる道』(関西テレビ・フジテレビ系・2004年)や『たったひとつの恋』(日本テレビ系・2006年)に出演中は、端正な顔立ちゆえ、よくある"イケメン俳優"ゾーンに属していた要さん。そこにご本人がもともと持っていた、お笑い要素の片鱗を示し始めたのが『流星の絆』(TBS系・2008年)の戸神行成役だ。作品にも脚本家・宮藤官九郎さんによるお笑い要素が含まれていたけれど、要さんはただの洋食チェーン店の御曹司役では終わらなかった。箇所箇所に『まんぷく』で全開になった間の取り方、セリフの言い回しをしていた。
そして、ご本人の本質が今まさに満開の桜のように開花されたのが『うどん県』のCMキャラクターだ。ご本人が香川県出身であることから始まっているのだけど、地元だから自由になったのだろうか? 素晴らしいボケセンスを披露している。その一端を私は目撃した。
香川県が好きで何度か旅行に出かけている。その最中に私が空港で見たポスターで彼はケンタウルスに扮してうどんをアピールしていた。衝撃的すぎて二度見をした記憶がある。俳優が……やることではない……よね?
今日日、天然男子も含めて"かっこ良くて面白い"というタレントをテレビでよく見かけるようになった。なんとまあ芸人もアイドルも大変な時代に突入しているのだが、その金字塔を打ち立てたのは要潤だと私は信じている。
さて『まんぷく』。忠彦さんの描く"まんぷくヌードル"の絵柄を楽しみにしつつ、最終回には号泣する自分を想像して今週の放送を楽しみたい。
スナイパー小林
ライター。取材モノから脚本まで書くことなら何でも好きで、ついでに編集者。出版社2社(ぶんか社、講談社『TOKYO★1週間』)を経て現在はフリーランス。"ドラマヲタ"が高じてエンタメコラムを各所で更新しながら年間10冊くらい単行本も制作。静岡県浜松市出身。正々堂々の独身。