コラムニストの小林久乃がドラマや映画などで活躍する俳優たちについて考えていく連載企画『バイプレイヤーの泉』。
第165回はタレントの北村匠海さんについて。両手からこぼれてしまいそうな才能のエピソードの数々を聞くたびに、とても気になっていた存在だ。私はよく格好のいい人を学校のクラスになぞらえて考えるが、北村さんは格好良すぎてクラス単位には想像が収まらない。例えるとするなら陸上部のインターハイで見かけた、知らない学校の新記録を保持する男子生徒。声をかけるのも憚られるほどの佇まいに、うっとりしている自分とユニフォームの姿の北村さん……という構図だろうか。余分な思考を巡らせていると時間が過ぎるので、とっとと書きます。
演技も歌唱もすべてがクリア
これまで私が触れてきた北村さんの才能エピソードを掘り返す。
まずは俳優としての一面。映画『東京リベンジャーズ』などを筆頭に、数々の主演作を世に放出している。改めて出演作を眺めて気づいたけれど、北村さんは私が"オタク"と称するテレビドラマへの出演がさほど多くはない。たどっていくと「ああ、あれあれ、思い出す」と、出演シーンに海馬が動き出すけれど、やはり映画の人なのかと思う。そんな彼のドラマ出演作で昨今、印象に残っている作品といえば『星降る夜に』(テレビ朝日系 2023年)で演じた、ろう者の柊一星役。きれいな指から奏でられる滑らかな手話に、毎週感動していた。
それから自らが所属するバンド『DISH//』ではボーカルを務めている。年末の大型歌番組で歌声を傾聴しながら、何度猫になりたいと願ったことか。聞けば2011年からバンドとしての活動はスタートしているので、いわゆるヒットまでは長い道のりだったと予想がつく。
演じて、歌って。まるで昭和の銀幕スターの風情を漂わせている。最近は演じる、歌う、が芸としてゾーニングされるパターンが多い。すべての才能の存在が中途半端に世間に映ってしまうのなら、一つ秀でた才能を全面に押し出していくほうが、芸能人として大成するのかもしれない。でも北村さんが表現する演技も歌唱も、受け手側にはとてもクリアに見える。だからすごい。冒頭の肩書きをどうしようか一瞬迷ったけれど、彼は間違いないなく"タレント"に溢れている。
やなせたかしと北村匠海のつながるもの
きっと北村さんの才能はここで終わらないはず。そう睨んだ私の読みは当たっていく。
情報が曖昧で申し訳ないが、以前、ふと見たバラエティ番組に北村さんが同世代の俳優と、プロモーションで出演していた。番組中、何かの問いに対して他の俳優が(ニュアンスで)「無理だよ、俺、ビビってできない」と発言。これに対して北村さんは「ふーん、俺、全然怖くない」と回答する一幕があった。物怖じしない姿勢とは、立派な才能だ。板の上に立つ人とは、彼のような存在を示唆するのかもしれないと、しみじみとした。
続けてしっかり記憶のある出演番組。9月12日放送の『あさイチ』(NHK総合)のプレミアムトークに北村さんが出演していた。彼がカメラで写真を撮影するのが趣味……とは、どこぞで聞きかじったが、番組内で彼は「絵をずっと描いている」と、絵心を披露していたのだ。あんなに格好が良くて、演技もできて、歌も上手くて、絵も描ける。天は人に何物与えるのか。加えて、司会者たちとのトークや受け答えがとても流暢であると気づく。曲がりなりにも出版に関わる身分としての直感で「ひょっとしてこの人、読書家?」と考えがよぎった。この直感は当たっていて、子どもの頃から読書好きだとエンディングで話していた。平伏。
そんな北村さんが出演する朝ドラ『あんぱん』(NHK総合)が、そろそろ最終話を迎えようとしている。彼が今回演じたモデルはやなせたかしで、役名は柳井嵩。『アンパンマン』なる稀代のヒーローを生む漫画家であり、詩人、絵本作家などいくつも顔を持ったやなせと、北村匠海にどこか重なるものを感じたのは、私だけだろうか?
