幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第105回は女優の猫背椿(ねこぜ・つばき)さんについて。エッジの効いた芸名にピンと来た人は、かなりのエンタメ通だと思います。「誰だろう?」と思っても、当人の姿を見たら絶対に「あ、よく見る人だ」となるはず。いや、日本人であれば一度は彼女のことを見かけていることでしょう。安堵感のある演技に、ドラマオタクの私も惚れ込んでおります。
ギャグにもシリアスにも振ることができる
少し前に猫背さんが『どうする家康』(NHK総合)に出演しているのを見かけた。家康の叔父にあたる、酒井忠次(大森南朋)の妻・登与の役だ。流暢に三河弁を操り、楽しそうに踊っていた。公式ホームページを見ると、家康の周囲の人間と他愛もない世間話に花を咲かせるとか、なんとか。登与の姿、よく似合っていた。
令和という元号にも慣れてきて、ChatGPTが幅を利かせる時代になった。でも大河ドラマは日本で演じる演者にとって、キャスティングに最大の関心が寄せられる。主役=主柱が決まれば、支える適正な演技を探す。ギャグにもシリアスにも演技を振ることができるような力量が必要だ。そこに適任とされたのが、猫背さん。彼女はキワモノたちが集うと言われる「大人計画」に所属。テレビ、映画、舞台と止まることなく、バイプレイヤーとして活躍している。
私が「この人はなんという名前なのか」と、彼女の存在が気になったのは『タイガー&ドラゴン』(TBS系・2005年)で演じた、どん太(阿部サダヲ)の妻役。そして脚本は宮藤官九郎氏……とくれば、もう芳ばしい香りしかしなかった。当時、私が知らないだけで猫背さんはすでにキャリアを重ねていたはず。元・演歌歌手で、亭主をきっちりと支えるという設定も難なく演じていた。さてここから目が離せない状態に突入する。
過去のある女性を演じさせると旨みが増す
私が個人的に好きなのは"過去に何かあった女"の役だ。例えば『監獄のお姫様』(TBS系・2017年)の小島悠里役。こちらの作品、そもそも"監獄"が舞台で女性グループの友情が、物語の中心にある。グループメンバーが様々な犯罪歴を持つ中、悠里は唯一、二度も服役歴があるシャブ中だった。そんなことはさらりと隠して、美容院の店長として働く悠里。見ながら「私が通っている美容院の店長もひょっとして……何か過去を……?」と、おかしな想像を働かせた。それほど役が調和していた。
最近放送された『星降る夜に』(テレビ朝日系・2023年)で演じた看護師・犬山鶴子は、レディースの元総長役。あまり真面目に演じると、視聴者の心が離れてしまう、ギャグと表裏一体の役どころ。猫背さんは絶妙なラインで鶴子を演じていた。やはり何か過去を背負い、今を生きている役は彼女の得意技だと勝手に思う。こうして回想していくと、『知ってるワイフ』(フジテレビ系・2021年)で演じた、銀行の課長役も思い出す。確か社内不倫の過去があったような……。
いずれにせよ如才ない演技があってこそ、成立する役柄だ。
と、猫背椿さんの印象に残った作品を並べてみた。単純に出番数だけで換算すると、主役クラスの演者よりも格段に露出が多いはず。ものすごいエネルギーと、演技に対する愛あってこそだとしみじみ。いつかその真意をご本人に聞いてみたい。そう、登与の再登場を待ち侘びながら。