テレワークの普及により、メールが増えたと感じている方も多いのではないでしょうか。この春の新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が発令されて以降、筆者もメールが増えていることを実感しています。

実際に、一般社団法人日本ビジネスメール協会が、2020年6月に発表した「ビジネスメール実態調査2020」の結果を見ると、1日のメールの送受信数は増加していることが分かります。中でも受信数の平均は、2019年の調査時に38.07だったものが、2020年では50.12と、3割以上も増加しています。

これまで対面で行われていた打ち合わせ、あるいは連絡、報告などがメールに変わっていることもあります。営業活動においてもメールを活用する機会が増えている印象です。

また、メールの受信数については、一般社員よりも管理職の方が多い傾向が見られるのも特徴です。特に部長クラスでは1日の平均受信数が96.48と高い数字を記録しています。経営層、あるいは部下からのCCによる共有がメールを増やしている一因とも考えられます。

このような状況下において、このところ不適切なCCの使用を見かける機会が多くなりました。

CCで部下の行動を監視!?

先日、取引先の担当者より1通のメールをいただきました。その方とは2年ほど前に一度、仕事をお願いした経緯があり、それ以来、久しぶりのメールでした。近況伺いのメールでしたが、そのメールにはCCで私とは面識のない方も含まれていました。

「同じ会社の方のようだが、一体どなただろう?」と気にはなったものの、特に込み入った内容でもなかったため、私も近況をつづり全員に返信しました。翌日、さらにその担当者から電話で連絡があったので、私はメールで気になっていたCCの方について尋ねてみました。そこで返ってきた答えに衝撃を受けたのです。

メールのCCに含まれていたのは上司の方でした。対面による営業活動が制限されているので、会社の方針でメール営業に取り組んでいるとのことでした。そこで、各営業担当がメール営業をきちんと行っているかを確認するために、共有の目的がなくても一律に上司の方をCCに入れるよう指示されていたというのです。予想もしていなかったその回答に驚くとともに、CCを利用して部下を監視しているようにも受け取れて、正直なところ、私はその会社との取引に消極的になりました。

受信者に対する配慮が必要

CCの本来の役割は情報の共有です。決して監視をするための機能ではありません。

送信先にCCが設定されているということは、送信者がCCの方へ情報共有が必要だと考えているということです。ここで忘れないでいただきたいのは、受信者に対する配慮です。

受信者は、CCに知らない方が入っていると不安を覚えます。受信者とCCの方との間に面識がないのであれば、最低限、CCの方との関係性、そしてなぜCCの方に情報共有が必要なのかを伝えるようにしましょう。

時折、やり取りの途中で突然CCに追加されていることもありますが、それは受信者が驚きます。CCに関係者の方を追加されるのであれば、受信者に了承を得る、説明するのがマナーです。CCについては、受信者、送信者ともに、その存在を受け入れていることが前提です。

上司の方も、クライアントに送る部下のメールを全てCCで共有させるのは考えものです。先ほど紹介したメールは近況伺いでした。監視が目的ではなかったとしても、クライアントの立場から見ると、全てを上司にCCで共有しなければならない担当者は、頼りない存在に映ってしまうかもしれません。

「CC=報告」という勘違い

もう一つ別のケースも紹介しましょう。それは、初めてもらった営業メールでした。とあるサービスの案内だったのですが、そのサービス自体に興味があったので、その旨を返信しました。すぐにその方から返信があり、そこには同じ会社の方がCCに入っていました。登録名が「〇〇リーダー」となっていたので、その方の上司であろうことは容易に想像がつきます。

そのメールにはサービスのPRと合わせて、ご自身のPRがふんだんに盛り込まれていました。それは私へのメッセージではなく、あたかも上司の方へのアピールが目的だったのではないかと感じられるほどでした。ちなみにその後、その方からの連絡はありません。今となってはどのような目的で送られたメールだったのかも分かりません。

CCは報告や自身をアピールするための機能でももちろんありません。上司の方は数多くのメールを受信されている可能性があります。当然ですが、それらのメールを確認するために時間を使っています。無駄に上司の方の時間を奪うことがないよう、CCで送る際には本当に情報共有をする必要があるのか考えましょう。

報告をしたいのであれば、単にそのメールをCCで共有するのではなく、上司の方をTOにした報告のためのメールを書きましょう。CCはあくまでも「参考までに」の意味合いが強く、しっかりとは読まれていない可能性も考慮してください。

CCに上司の方を入れることで、なんでも情報共有ができていると安易に考えるべきではありません。メールを2通書くことになったとしても、情報を正しく伝えたいならば、伝えたい相手をTOにしてメールを送ったほうが、結果的にコミュニケーションは円滑に進むのです。

メールは双方向のコミュニケーションツールです。送信者の一方的な都合によってCCによる発信をすべきではありません。なんとなく入れたCCが相手の方を不快にさせてしまったり、大切な方の時間を奪ってしまったりする可能性もあります。

CCは手軽で便利な機能です。情報共有の手段として効果的に活用できるよう、適切な使用を心がけてください。

井上賢治

一般社団法人日本ビジネスメール協会認定講師
1974年生まれ。宮城県出身。大学卒業後、大手製紙メーカーグループの印刷会社に勤務。入社3年目で営業成績1位を獲得。翌年にはその経験を活かし、新たな印刷会社の立ち上げに参画。新規開拓において数多くの実績を残し、出版物の制作や大手企業のセールスプロモーションを手がける。その後、ヘッドハンティングにより移籍した会社では東京支社長に就任、20名の部下を統括する。テレアポや飛び込み訪問による営業スタイルを確立していたが、さらなる受注拡大の実現、そして組織全体の営業力強化、人材育成など、幅広い業務を担うなかでビジネスメールの有用性を実感。1通のメールがコミュニケーションを円滑にし、業績向上にも結びつくとの想いから、認定講師としての活動を開始。営業経験、管理職経験を活かした実践的なビジネスメールの指導を得意とする。

日本ビジネスメール協会

日本で唯一のビジネスメール教育専門の団体。ビジネスメールに特化した講演・研修などの事業を10年以上前から行っており、メールに関する書籍を中心に30冊出版(内3冊は翻訳され台湾で出版)。メディアには1,000回以上登場し、ビジネスメールについて情報発信してきた。仕事におけるメールの利用状況と実態を調査した「ビジネスメール実態調査」を2007年から毎年行い、日本で唯一のビジネスメールに関する継続した調査として各メディアで紹介されている。ビジネスメールやビジネス文章、ビジネスマナーなど集合研修(講師派遣)や講演(公開講座)を会場とオンラインの両方で実施中。