世の中の大半の仕事は、人がいることによって成り立つ。そもそも取引先がいなければ仕事の受注がないわけだし、上司や先輩のサポートもなくいきなりバリバリと業務はこなせない。

多くの他人が関係してくる以上、相手に対する敬意やマナーが必要となってくる。だが、職場で使用するツールの使い方や業務上必要なタスクを先輩社員からレクチャーされることはあっても、ビジネスマナーをイチから教えてもらった機会がある社会人は少ないはずだ。そのような人は、無自覚のうちに礼節を欠いた態度をとってしまい、ビジネスチャンスを逸してしまう恐れがある。

そこで本連載では、筑波大学および札幌国際大学の客員教授を務めながら、大学や官公庁などで「職場に活かすおもてなしの心」をテーマとした講演や研修を手掛ける江上いずみ氏に、社会人として知っておくべきビジネスマナーを解説してもらう。

  • 「上座」・「下座」がわかりますか?

    「上座」・「下座」がわかりますか?

序列の重要性

これまで新社会人となって入社後すぐに直面することになる仕事「電話応対メール送受信時のマナーについて記してきましたが、同様に、社会人として心得ておかなければならないビジネスマナーが『席次』です。

国際儀礼であるプロトコルには『序列の重要性』という原則があり、国家レベルの式典などでは、序列により並び順や席次が決まるので、きちんとしたルールを覚えておくことが重要です。このルールは、ふだんの生活でも目上の人や年長者に対する「敬意」やお客様に対する「おもてなしの心」を表すために、とても大切なものです。

ひと口に『席次』といっても、応接室、会議室、和室、乗り物など、それぞれのビジネスシーンや場所によって留意する点がいろいろと違いますので、2回に分けてさまざまな『席次』について紹介していきたいと思います。

「上座」・「下座」の考え方

その部屋において最も良い席を「上座」(=かみざ)、目下やおもてなしをする側がつく席を「下座(=しもざ)」と言います。

西洋では「右側が左側より上座」という「右上位」の考え方があります。また敵から大切な人を守るという考え方から、部屋や乗り物などの中で、一番安全で快適な位置が上座となります。部屋であれば入口から最も遠い席が上座、入口に最も近い席が下座です

それぞれの空間における上座・下座を理解して、目上の人やお客様にはできるだけ良い席=上座に着席していただきましょう。

応接室における席次

長椅子のソファと1人掛けの椅子があった場合

まず、他社を訪問した際やお客様をお迎えした際に利用することになる「応接室」における席次を考えてみましょう。部屋の入口から遠い席が上座、入口に近い席が下座という原則は変わりません。

では、応接室に長椅子のソファと肘掛けが付いた1人掛けの椅子があった場合、どちらが上座になるのでしょうか。肘掛けの付いた1人掛けの椅子がお客様用に思えますが、実は長椅子のソファが上座です。これは古代ローマ時代、貴族は椅子に片肘をついて、寝そべってくつろぐ習慣があり、客人には長椅子に横になってもらい、お酒や食事を振る舞ってもてなしたことがルーツと言われています。

応接セットの椅子を考えた場合、次のような格があるので上司と席を共にするときは注意するようにしましょう。

長椅子のソファと複数のタイプの1人掛けの椅子があった場合

(1)長椅子
(2)ひとり掛けの椅子で肘掛けや背もたれが付いているもの
(3)ひとり掛けの椅子で背もたれのみ付いているもの
(4)ひとり掛けの椅子で肘掛けも背もたれもないもの

美しい庭園などが窓から見える場合

入口との関係だけではなく、その応接室の設置されている場所によって、席次が変わってくる場合があります。例えば大きな窓があり、美しい景観や眺望が臨める場合には、入口側であっても景色が見える方を上座とします。そのような場合は必ず言葉掛けをすることが大切です。

「今、庭園の桜が満開で、こちらのお席からはたいへん美しくご覧いただけますので、どうぞこちらにお座りください」

入口から近い下座に案内されても、このように言葉を掛けられれば、納得して、いえむしろ喜んで案内された本来の下座にお座りになるでしょう。

訪問時のマナー

他社を訪問し、応接室に通された場合は、席次を考えて下座に着席しますが、「お客様には上座に座っていただく」という心得がある会社においては、上座を案内されることでしょう。そのような場合は、指定された上座に座っていただいて構いません。その際に気をつけるべき点が3つあります。

1.自分のバッグを空いている隣席の上に置かないこと

応接セットの椅子の上に、外から持ち込んだ自分のバッグを置くのは失礼です。必ず足元やソファの横、床面に置きましょう。

2.挨拶前に書類などをバックから出さないこと

先方とお会いして、挨拶、名刺交換が終わるまでは、筆記用具や書類をバッグから出さないのがマナーです。すぐに書類の説明ができるようにと、相手への配慮のつもりで、入室してすぐに書類をテーブル上に出す人がいますが、それは失礼な行動です。先方に対面して挨拶する前に手に持って準備しておくのは「名刺入れだけ」と覚えておきましょう。

3.相手が入ってくる気配を感じたら立ち上がること

着席してお待ちしている際も、相手が入ってくる気配を感じたら、立ち上がりましょう。挨拶や名刺交換が終わってから着席、書類をバッグから出す、の順番になります。