悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、学歴にコンプレックスがある人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「学歴にコンプレックスがあります。結局学歴なのかなって卑屈になってしまいます」(35歳男性/営業関連)


僕は大学を中退したので、誇れるような学歴を持っていません。

その大学に籍を置き続ける意味を実感できなかったため去ることを決意したのですが、かといって、そこから進むべき道が明確に決まっていたわけでもありませんでした。ですから、普通に大学に通い、卒業し、社会に出ていく人たちにくらべれば格段に遠回りをしたと思います。

でも、呑気で鈍感な性格が功を奏しているのか、学歴に関して特段のコンプレックスを感じたことってないんですよねー。

もちろん、「きちんと通っていたら、その先にどんな人生がまっていたんだろう?」と考えてみたり、楽しそうな大学生を目にしたりすると、純粋にうらやましく思うことはあります。でも、後悔があるかといえば、そうでもない。

たしかに周囲を見渡してみれば、目に映るのは一流企業に勤める高学歴の方々ばかりです。でも、そういう人たちと一緒に仕事をできているのですから、それはとてもありがたいこと。ですから感謝こそしますが、「自分だけ学歴がない……」みたいに落ち込んだり、精神的な負担を感じたりしたようなことはないのです。

ただしそれは、僕が特別だという意味ではありません。そうではなく、誰にでもありうると考えているのです。いいかえれば、学歴ではなく、「いま、自分がどのように生きているか」が大切だということ。

むしろ問題なのは、必要以上のコンプレックスを持ち、ネガティブ思考に陥ってしまうことなのではないでしょうか? つまり学歴があろうがなかろうが、いまある自分を認められるかどうかが重要なポイントだということです。

「遅れた場所からできること」を考え、実行する

学校の成績や偏差値、そして職場での人事評価。
評価は、何かしらの基準にもとづいて他人から下されるものです。しかし、仕事や人生において成功しているか否かは、自分自身で決めるもの。まわりからの評価があなたの価値を決めるのではありません。(「はじめに」より)

『「学歴なんて関係ない」はやっぱり正しい』(安井元康 著、草思社)の著者も、このように述べています。頭では「もうそんな時代ではない」とわかっていながらも、所属する会社名や役職、過去の実績である学歴に人はすがってしまう。あるいは、その優劣を気にしたり、妬ましい他人を批判することで、弱い自分を守ろうとしてしまう。

  • 『「学歴なんて関係ない」はやっぱり正しい』(安井元康 著、草思社)

しかし、「もう金輪際、そんな価値観や考え方とはすっぱり縁を切るべき」だと主張しているのです(まったくもって同感です)。そして、著者はこうも記しています。「学歴よりも学習歴」なのだと。

著者も自分の学歴に自信が持てていなかったそうですが、だからこそ20代半ばから、「どんな人生を送りたいか」と、社会に出てからのビジョンを真剣に考えていたのだといいます。目標としたのは、「なにごとにおいても複数の選択肢を持てる人生」だったのだとか。

仕事のみならず、時間やお金の使い方、住む場所、つきあう人間など、自分を取り巻くすべてにおいて、できる限り選択肢を多く持てる人生を送りたいと考え、20代から35歳までの戦い方を次のように具体的に考えていったというのです。

・長期視点での時間の使い方
・人生における仕事の位置づけ
・長期的なゴール
・継続のためのモチベーション
・短期的なゴールへの分解
(63ページより)

まずは徹底的に働いて経験を積み、仕事に生かせる知識を吸収し、それ以降はプライベートを含む生活や人生を充実させる。そのため、「人生における仕事の位置づけ」を考えておくことも不可欠。

そこで「仕事は成長できる鍛錬の場であり、将来の選択肢を増やしてくれるもの」と位置づけて長期的なゴールを設定。次いでモチベーションを維持するために経営者の書いた本を片っ端から読むなど勉強を続け、具体的なイメージと課題が見えてきたら「短期的なゴールへの分解」。やるべきことを大きく2つに絞ったのだそうです。

ちなみに、「35歳まで」と区切って戦略を立てたことにも理由があるようです。

20代は間違いなく修行期間ですが、30代からは徐々にアウトプットを開始する。そうして真ん中である30代半ば(35歳)にはアウトプットの結果として、プロとして活躍できるようになっていたいという思いがあったからです。(63〜64ページより)

今回のご相談者さんは35歳とのことなので、この考え方からすれば立ち遅れていることになるかもしれません。しかし、もちろん早いに越したことはないけれども、それはたいした問題ではありません。むしろ大切なのは「いまから動く」こと。

「もう遅すぎるから無理だ」などと諦めたところで、なにも期待することはできません。遅れたのであれば、「遅れた場所からできること」を考え、それを実行してみる。なにより大切なのは、そうした姿勢なのです。

自分の気持ちと行動力次第でどうにでもなる

なお著者は、もうひとつの著作『非学歴エリート』(安井元康 著、飛鳥新社)において興味深い発言をしてもいます。

  • 『非学歴エリート』(安井元康 著、飛鳥新社))

学歴にコンプレックスがある場合、とくに組織に属しているならなおさら、心が折れそうになってしまうことは少なくないはず。だからこそ、「折れない心のつくり方」にも言及しているのです。

まず基本として押さえておくべきは、「ものごとを成し遂げるためには、自分で自分を応援するような心構えが求められる」ということだそう。

たとえば、サッカーや野球などの生中継を見て応援したりするのが好きな方もいらっしゃることでしょう。もちろんそれがストレス解消になっているのであれば、必ずしも悪いことではありません。しかし、そういったエネルギーを自分の人生のために使うことが重要だと著者はいうのです。

それだけのエネルギーを自分の成長のために投資すれば、かなりの問題が解決できるはずだという考え方。

自分を人生の脇役にしてはいけません。
まずは自分を応援する。あなたが今、これといった実績もない社会人ならばなおさらでしょう。あなたの人生の主役はあなた自身です。(76〜77ページより)

そのための手段のひとつとして、著者は「妄想しよう」とも訴えています。妄想はモチベーションに燃料を注ぐ源泉なので、「成功している自分」「なりたい自分」をつねに妄想するようにしようと提案しているのです。

現時点での自分がどうかは関係ありません。むしろ今がサエなければサエないほどストーリーは劇的になるのです。(79ページより)

著者自身、仕事がもっともハードだった時期には、疲れがたまりすぎて夜早めに横になってみたりしたこともあったようです。しかし、「こうしているあいだに仕事をしたり勉強をしたりしている人間がいるに違いない。ここで差が開くかもしれない」と恐怖心にかられ、夜中に起き出して勉強をはじめたりもしたのだそうです。

「今まで負けてばっかりだったから、仕事では負けたくない」。その一心でした。(79ページより)

妄想することも含め、こういった意識を持ち、それを原動力にして「できることをやってみる」。そうすれば、学歴コンプレックスなどいつの間にか消え去っているかもしれません。

つまり、自分の気持ちと行動力次第でどうにでもなるのです。したがって、まずはできることをするべきです。

「無自覚型高学歴モンスター」への対処法

ただし、自分が努力を続けているとき、それを邪魔しようとする人がいることも事実。そこで、そういう人への対処法も頭に入れておくべきかもしれません。

参考にしたいのは、『高学歴モンスター: 一流大学卒の迷惑な人たち』(片田珠美 著、小学館新書)。タイトルからもわかるとおり、まわりに迷惑をかけているという自覚を持たないまま、暴言を吐いたり、周囲を振り回したりする「無自覚型高学歴モンスター」の精神構造を分析し、対処法を明らかにしたものです。

  • 『高学歴モンスター: 一流大学卒の迷惑な人たち』(片田珠美 著、小学館新書)

高学歴で迷惑な人が増えている。元々優れた頭脳の持ち主のうえ、それなりの努力をしたからこそ、輝かしい学歴を手に入れたのだろうが、とんでもない暴言を吐いたり、犯罪まがいの悪事に手を染めたりする。(「はじめに」より)

「あー、いるいる、そういう人」と感じる方もいらっしゃるでしょうが、目の前にいる人が「無自覚型」のナルシストだと気づいたら、わが身を守るために次の5つを実行すべきだと著者は主張しています。

観察・分析する
意地悪な見方をする
なるべく第三者を交え、証拠を残す
スルーする
自分の欲望を見きわめる
(188ページより)

感情的になってしまうのを防ぐために相手を観察・分析し、相手の言動を疑ってかかり、さらには責任を押しつけられないように第三者を交えて証拠を残すべき。また「無自覚ナルシスト」の指示や要求を真に受けずにスルーし、「どうしたいのか」と自分の欲望を見きわめ、相手から距離を置くーー。

このように、少しでも自分に被害が及ばないようにするべきだということです。なにしろ、高学歴モンスターの顔色を伺いながら生きるべきではないのです。ほんとうに大切なのは、自分自身のなかに居座る学歴コンプレックスと向き合い、それをなんとかしてなくしていくことなのですから。

でも高学歴モンスターには、「華々しい学歴があったとしても、こうなっちゃったらおしまいだよなぁ」と感じ、「自分はこうならないようにしよう」と思わせる反面教師としての利用価値はあるかもしれませんね。