悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「会社が楽しくない」人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「会社が全然楽しくありません。転職すべきでしょうか?」(27歳女性/事務・企画・経営関連)
僕は昔、会社員をしながら音楽ライターとしても活動していました。ですから常に時間に追われていましたが、充実感もあり、だから会社の仕事も続けられたのだろうなとも思っています。
とにかくやることが多かったので、週末の夕方になると「土日はあれをやって、これもやらなきゃ」などとワクワクしていたものです。土日のがんばりが、月曜日からの会社の仕事のモチベーションを高めてくれたりもしましたしね。
ある金曜、いつものように土日にすべきことを考えていたら、隣の課の年下の社員の話す声が聞こえてきました。
「あ〜あ、これで土日休んだら、また月曜に(会社に)来なくちゃ……」
自分の考え方とあまりにも違うので、「なるほど、そういう考え方もあるのか」と妙に驚かされたものです。そして正直なところ、「20代後半でそんな愚痴をこぼしているようじゃ、今後も先はないな」とも感じました。
非常に申し訳ないのですが、今回のご相談者さんも、その彼に近い考え方の持ち主なのではないでしょうか?
もちろん事情はいろいろですから、本当に「転職したらなんとかなる」ケースだってあるでしょう。けれど会社が楽しくないのだとすれば、原因が自分のなかにある可能性も否定はできません。だとすれば、そんな気持ちでいる以上、何回転職したところで同じことの繰り返しになるのではないかと思うのです。
だからというわけではありませんが、「楽しくないから転職すべきか」などという非生産的なことを考えるのではなく、「どう楽しくするか」を考えてみてはいかがでしょう? いいかえれば、「自分の軸」を持つのです。
キーワードは「エンゲージメント」
『楽しくない仕事は、なぜ楽しくないのか?』(土屋裕介、小屋一雄 著、プレジデント社)の著者は、仕事の楽しみや味わいをもたらすキーワードは「エンゲージメント」であると定義づけています。
今「仕事がつまらない」と感じている人もいると思います。そのような方たちに、その原因はどこにあるのかを提示し、どうしたら楽しく仕事ができるのかを提案していくのが本書の重要な役割です。つまらない仕事を楽しい仕事に変える、その転換点に大きくかかわるのがエンゲージメントです。(「はじめに」より)
このキーワードを通じて仕事や人生を捉えなおすことによって、いままでとは違った意味が生まれるというのです。たとえば同じ仕事であっても、自分から望んで取り組んでいる状態と、上司からやらされていると感じている状態とでは、情熱の度合いがまったく違うはず。
いいかえれば、エンゲージメントを軸とすれば、仕事や人生を楽しく充実したものに変えられるということ。
エンゲージメントが高い状態であれば、つまり自分の仕事に対して熱意を持って没頭することができれば、活力も湧き、少々の障壁も乗り越えて業務を進め、その結果、仕事がうまくいきます。さらに自分の仕事に自信が出てきて、もっと頑張ろうという気持ちが芽生え、そのポジティブな気持ちが人を成長させます。このようにエンゲージメントは仕事に対してポジティブなエネルギーと言えます。(28〜29ページより)
なお著者は、エンゲージメントと密接な関係にあるものとして、個人の持つ「強み」を挙げています。自分が「強み」だと感じているものは、得意なことや好きなことであるはず。したがって、その得意なこと、好きなことを任されたりすれば、必然的に「やる気」も生まれるわけです。
強みが自分に見えていないと、いま目の前にある仕事の「意味」を見出すのは難しいこともあります。しかし実際には、自分に見えている強みだけが本当の強みではありません。意味がないと思える仕事に一生懸命取り組むことによって、それまでの自分は知らなかった未知の強みに気づき、素晴らしいキャリアが開ける可能性もあるのです。(90ページより)
したがって、いまの仕事に意味を感じなかったり、楽しさを見出せなかったりするときは、自分の道の可能性を探り当てる気持ちを持ちつつ、"その仕事の先で新たに生まれる強み"の可能性を信じてみることも大切。
意味がないと感じながらも取り組んでみた結果、その仕事のなかから新たな強みを見出すことができれば、それが次につながっていくことも充分に考えられるのですから。
人としてどうあるべきか
『楽しくない仕事はするな』(髙木 健 著、辰巳出版)の著者は、国内外で100店舗以上の飲食店を経営する会社の代表。本書では、大阪の一零細企業に過ぎなかった会社がどう成長し、なぜ海外を目指したのかということを通じ、若い人にどう成長してほしいかを伝えているのだそうです。
根底にあるのは、「これからの日本を担う若者たちは、海外に出ていくべきだ」という考え方。自分には無理だと決めつけず、無限に広がる世界のマーケットで活躍してほしいという思いがあるわけです。
ただし、世界に出るか否か以前に「人としてどうあるべきか」に言及しているところも特徴のひとつ。今回は、そちらに注目してみたいと思います。
いままで多くの人を雇ってきた著者は、「転職を繰り返し、何回目かの転職先で『これは、自分の天職だ!』という仕事に出会える人は、ほんの一握り」だと指摘しています。
それだけではありません。わずかな期間で「この仕事は向いていない」と辞めてしまう人は、どこへ行っても「思っていたのとは違う」「上司に恵まれない」などと人のせいにして、文句ばかりいうものだというのです。
先程の僕の意見と通じる考え方ですが、どうあれ自分の考え方を変えない限り、いつまでたっても成功をつかむことはできないはず。
自分が「向いていない」と思っていたこと、「やりたくない」と思っていたことでも、実際にやってみると、その仕事の中に面白さを見つけ、仕事がどんどん面白くなっていくこともあります。
また、たった一人のお客様との出会いによって、自分の仕事に責任とやりがいを感じるようになることもあります。(11ページより)
事実、著者がこれまでに出会ってきた"仕事ができる人"は、最初のうちこそ「この仕事は、自分には合わないのかもしれない」と悩みながらも、目の前に与えられた仕事を一生懸命にこなしていくうち、仕事のおもしろさに気づいたという人が多いのだとか。
仕事を続けるうちにエキスパートになり、自分の中で、その仕事が自分の転職だと思えるようになるわけです。つまり、自分の役割は、数ヶ月ではなく、1年、2年と実際に仕事をしていく中でしか感じることができないのです。
これは、今回のご相談にも当てはまる考え方ではないでしょうか? どのくらいの期間働いてきた結果として「会社が全然楽しくない」と感じているのかはわかりませんが、いずれにしても「もう少しがんばってみる」という選択肢があることは間違いなさそう。
日々の仕事と真剣に向き合っていれば、「まだ続けたほうがいい」とか、あるいは「やはり転職するべきだ」とか、なんらかの答えが見えてくるものなのではないかと思うのです。
一生懸命やってみる
『人生を言いなりで生きるな』(永松茂久 著、きずな出版)の著者も、仕事やプライベートを充実させるための荒技として、「あれこれ考えることをいったんやめて、いまやるべきことを全力でやってみる」ことをすすめています。
まず意識しておくべきは、「どうすれば仕事が楽しくなるのか?」という問題が、いま生きている自分自身のみならず、親や祖父母、さらにもっと前の先祖をも悩ませてきた問題であるはずだということ。そしてそのことを踏まえたうえで、次のように述べているのです。
いきなりロマンチックな言い方になるかもしれないが、私は、仕事には神様がいると信じている。
そして、その神様の仕事における設定としては、最初は意味など考えず、没頭することで、だんだん楽しさが見えてくるという意地悪なルールが定められているように思う。(中略)
仕事の神様は、がむしゃらに、とりあえずやってみる人に褒美をくれる性質を持っているように思えてならないのだ。
一生懸命やれば、たいがいの仕事は面白くなる。(162〜163ページより)
そして、このようにも主張しています。
いまどんな仕事についていようが、大切なのは自分の考え方。考え方次第で、花形と呼ばれるような人たちをごぼう抜きにすることは絶対に可能なのだと。
仕事の人生は長い。
試しに、そのうちの3カ月だけでもいい。
「もうこれ以上できない」というくらいまで、仕事に没頭してみてほしい。(164ページより)
そうすれば3カ月後、全然楽しくなかったはずの仕事のなにかが、がらっと変わるはずだというのです。3カ月であれば、ダメもとでやってみても損はないはずです。