悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、仕事のモチベーションを上げたい人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「私は仕事人間というタイプでもなく、なかなかモチベーションが上がりません」(27歳女性/営業関連)
インターネットやSNSに目を向けてみれば、さまざまなメディアが「モチベーションを高める"べき"」「モチベーションを向上させ"なくてはいけない"」という感じで煽り立てていたりすることに気づきます。
あたかも高いモチベーションを持つことが当然のことであるような空気が、いつの間にか醸成されているとも考えられそう。
たしかに、社会人として組織で働く以上は相応の成果を上げる必要があるでしょう。そして成果を上げるためには、好むと好まざるとにかかわらず"やる気"を持たなければなりません。だからこそ、モチベーションを上げることが求められるわけです。
しかし、そうはいっても人にはさまざまなタイプがあります。常にやる気まんまんで高いモチベーションを維持できる人がいる一方、(やれば仕事はできるのに)なかなかモチベーションが上がらないというようなタイプもいるということ。
だとすれば"なかなかモチベーションの上がらない人"も、なんとかそこを乗り越えなければなりません。「モチベーションが上がらないならフリーランスで好き勝手にやればいいじゃん」という考え方もあるでしょうけれど、現実的にはそう簡単にいきませんしね。
さて、どうすればモチベーションは高まるのでしょうか?
やる気を持続するための「習慣」とは?
「なんで、私のやる気は、長続きしないんだろう?」
そういう人はたいてい、やる気を維持させるための「習慣」を持っていない。
私に言わせれば、やる気が長続きしなくて当然である。(「はじめに 習慣を変えれば、人生は変わる!」より)
人材育成コンサルタントである『強力なモチベーションを作る15の習慣』(松本幸夫 著、フォレスト2545新書)の著者は、このように述べています。そこで本書では、長い指導体験をもとに、「モチベーションを維持する習慣」と「習慣を身につけるノウハウ」を明かしているのです。
たとえばクローズアップされている点のひとつが、「結果からイメージする」ことの重要性。
人間である以上、つらいことがあったりするとやる気が低下してしまうのは当然です。しかも「仕事でミスをしてしまった」「人間関係でトラブルを起こしてしまった」「顧客からクレームがきた」など、生きていくうえでは"つらく思えること"がたくさん起こるものでもあるでしょう。
しかし、だからといって、つらいことがあるたびにモチベーションを低下させるわけにもいきません。そこで、つらいことがあったときには心を瞬時に切り替えるべきだと、そのためのテクニックを紹介しているのです。
ネガティブな心を瞬間的に打破するためにはイマジネーション、つまり想像力をフルに活用するのが効果的だ。(中略)
それは、成功をイメージすることである。
仕事が成功した結果、願いがかなった結果、契約がうまくいった結果を想像してみてほしい。
つらい時こそ、逆にうまくいった時のことを想像するのだ。
あるいは、10年先、15年先に成功した理想の自分の姿を想像してみてもいいだろう。
想像力を十分に働かせて、その結果をイメージしてみるのである。(89〜91ページより)
たとえば仕事でつらいことがあった際には、想像力を働かせ、成功している自分をイメージするわけです。その程度のことなら、その場で、誰にでもできることであるはず。
1分でいい。実は、この1分の積み重ねができるか、できないかが、のちのち大きな差となるのだ。(中略)
つらい時こそ、うまくいった時の自分、理想の自分、理想の将来を、想像力を駆使してイメージしてみよう。
その1分の繰り返しが、将来のあなたを作るのである。(91〜92ページより)
たしかに想像力を働かせるだけなら、誰にも迷惑をかけません。なにより簡単なことですし、時間的にも1分間であれば苦にはならないでしょう。試してみる価値は充分にありそうです。
「めんどくさい」気持ちを消す方法
ところでモチベーションが上がらないときには、「めんどくさい」と感じることも多いかもしれません。そこで参考にしたいのが、『「めんどくさい」が消える脳の使い方』(菅原洋平 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。
著者は作業療法士ですが、その仕事は「人間が行うあらゆる作業をうまくやるための戦略を立てる」ことなのだとか。その人の脳や体に合わせて立てた戦略を、その人の脳が自ら実行できるようにしていくというのです。
キッチンの魚焼きグリルを開けたときに、洗っていなかったことに気がついた瞬間「めんどくさい」と感じたならば、その「めんどくさい」を消し、魚焼きグリルが洗えるようにします。
私たちが日常的に行うあらゆる「作業」は、私たちの脳と体が行うことであり、その使い方に明確な戦略が立てられれば、改善することができる。
そう、「めんどくさい」は消せるのです。(「はじめに」より)
仕事に関していえば、めんどくさい気持ちを消すために著者が勧めているのは、「できるだけめんどくさくない時間帯に作業する」こと。具体的にいうと私たちの脳は、目覚めてすぐがいちばん行動力が高く、夜眠る前がいちばん「めんどくさい」と感じるリズムを持っているのだそう。
つまり、朝の時間を有効に使うべきだということ。そして、そのことを踏まえたうえで、著者は「朝イチのメールチェックをやめる」べきだと主張しています。
朝イチは、仕事時間の中で最も反応速度が速く、判断力にも優れている時間帯です。その時間帯を、他人の状況をチェックするメールチェックに費やしてしまうのはもったいないです。
脳は、行動をパターン化することで省エネを図るので、「出勤して自分のデスクに行き、荷物を置いてパソコンの電源をつけ、メールソフトを開く」、ここまでがほぼ自動化されている人が多いです。この自動的な行動は、じつは生産性向上のためには非効率です。そこで、自動化を一旦解除し、別の行動を脳に組み込みましょう。(83ページより)
事実、著者は多くの企業で行ってきた働き方改革のなかで、朝イチのメールチェックをやめ、まず自分がその日にもっともやりたいことに取り組むことを推奨してきたそうです。
これもまた、気軽に取り入れることができそうな習慣だといえるのではないでしょうか。
アスリートに学ぶ、ネガティブな状態からの抜け出し方
最後は、モチベーションが上がらないという事実をメンタル面から考察してみましょう。参考書籍は、『弱いメンタルに劇的に効く アスリートの言葉――スポーツメンタルコーチが教える"逆境"の乗り越え方』(鈴木颯人 著、フォレスト出版)。
著者は、さまざまな競技の選手をメンタル面からサポートする「スポーツメンタルコーチ」です。つまりアスリートから100%の能力を引き出して結果につなげる役割。
注目すべきポイントは、常にポジティブでいられるように見えるアスリートたちにも、メンタルが弱ったり、ネガティブになったりすることはあるということ。
そしてそんなとき重要なのは、ポジティブなことばを聞くよりも、ネガティブな状態から抜け出す術を学ぶことだというのです。
多くの方々が世の中にあふれる「ポジティブに生きよう」というメッセージに同意しながらも、なかなかそれを実践できずにいるのではないでしょうか。 そんなとき必要になるのが、弱い自分に向き合う覚悟です。(「はじめに」より)
弱気な自分や見たくない自分、嫌いな自分、そして今回のご相談のように「モチベーションが上がらない自分」に向き合うのは難しいこと。しかし、だからこそ楽しみながら自分を知るべきだと著者は訴えています。
たとえば、野球部のチーム内に守備が上手な選手がいたとします。ポジションがおなじだったりすると、ライバルの存在が気になるのが当然です。しかしそのライバルが後輩だったりしたら心中穏やかではないですよね。
そんなときに、その選手の守備のうまさを羨むのではなく、その選手と自分との差を自分の伸びしろであると考えたらいかがでしょうか?
こうすることで、過剰なまでのライバル視から、自己の成長に目を向けられます。(93ページより)
この考え方は、そのまま仕事に置き換えることができるでしょう。仕事のできるライバルよりも自分が遅れをとっているとしたら、ネガティブな気分になっても無理はありません。
でも、このように考えてみれば気持ちは楽になり、モチベーションも高まっていくはず。そして、それを自己の成長へとつなげていくこともできるわけです。