悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、自己肯定感を上げたい人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「仕事が忙しく、より新しい節約術をよく探求できない」(48歳男性/事務・企画・経営関連(マーケティング・経理・企画・経営他))


いままでとは違う、斬新な節約術を見つけて活用したい。けれど忙しいので、"より新しい節約術"を見つける時間的な余裕がないーー。

今回のご相談内容を要約すると、こうなるのでしょう。たしかに毎日時間に追われていると、いろいろな意味で精神的な余裕を失ってしまいがちですよね。だからその結果として、節約に関する新たなメソッドも探求できないということなのではないかと思います。

しかし節約術は、そもそも"古い"か"新しい"かで推し計るものではないような気がします。むしろ大切なのは、その手法が自分の価値観やライフスタイルにフィットするかどうか。仮にその節約術が新しいものだったとしても、自分に合わずストレスを感じてしまうのであれば意味がないわけです。

逆にいえば、たとえ世間的には古くさい手段だったとしても、その節約術が心地よいのであればそれを選択すべきだということ。だからこそ、節約術に関するいろいろな考え方を知ってみることが重要なのではないかと思います。

収入を把握し、ムダ遣いを防ぐ

『この1冊でお金に困らない! 節約ハック大百科』(松本博樹 著、KADOKAWA)の著者は、会社員として5年間のプログラマー生活を経験したのちに独立したという人物。独立するにあたっては「稼ぎ方」よりも先に、まず「節約する方法」を身につけたのだそうです。

  • 『この1冊でお金に困らない! 節約ハック大百科』(松本博樹 著、KADOKAWA)

実際、節約の知識が身についたことで、会社勤めをしていた頃よりも生活費が少なくなっています。
つまり、「収入が増えて支出が減っている」ので、より自由に使えるお金が増えていますし、もし、今後、稼ぐことがうまくいかなくなっても、これまでに身についている「節約テクニック」で何とかなると思っています。(「はじめに」より)

そこで本書では、自身が運営している「ノマド的節約術」というサイトで反響が大きかったという、生きていくうえで知っていると役立つであろうお金の知識をあらためて見なおし、効率よくお金を貯められるテクニックとして紹介しているのです。

ところで人は、買うつもりがなかったはずなのに、つい買い物をしすぎてしまったりするもの。なぜ、そういうことになってしまうのでしょうか?

まずはその理由をしっかり考えてみることが、ムダ使い防止の第一歩になるのだと著者は主張しています。

つい買ってしまうのは、端的にいえば計画性がないから。したがって、自分の考えをしっかりと持ち、「きょう使えるお金は◯◯円まで」と決めておけば、衝動的な買い物は防ぎやすくなるわけです。

私が最もおすすめする方法は、「これ、欲しいな」、と思ったタイミングで、
「この商品(サービス)は、本当に自分にとって必要かな?」
と考えて立ち止まることです。
もっと言えば、「それは生きていくために必要なの?」「将来への投資になる? 支出額以上の価値がある?」「ストレス解消のためだけじゃないの?」と考えるのです。いろいろと自分の中で判断基準を作っておくことで、衝動買いを防げます。(32ページより)

また当然のことながら、自分の収入がいくらあるのかを把握しておくことも重要。いくらお金を使う基準を身につけたとしても、その点を把握できていなければ意味はないからです。

当たり前ですが、収入よりも支出が多くなってしまうと1カ月の収支はマイナスになってしまいますが、意外とこのことを忘れがちです。この大原則は必ず守りましょう。
本当に欲しいものが何の迷いもなく買えるようにするためにも、必要かどうか迷うモノは買わないようにして、その分をつもり貯金にして貯めておくのもいいと思います。
結局のところ、ムダ使いを防ぐには、自分の買い物したい気持ちをどうコントロールするかに尽きます。(33ページより)

気持ちをコントロールできるようになるためのポイントは、「後悔しているからこそ、次は失敗しない」「そのためにはどうすればいいのか」を考えるようにすること。それなら無理なく実践できそうです。

ブロガー&インスタグラマーが実践する家計管理

『みんなのお金の使い方、貯め方』(主婦の友社 編集、主婦の友社)は、「やりくり上手のブロガー&インスタグラマー」が実践している家計管理内容をまとめた実例集。

  • 『みんなのお金の使い方、貯め方』(主婦の友社 編集、主婦の友社)

写真と図版を豊富に盛り込みながら、各人のやりくり法が紹介されているので、ページをめくっているだけで意外なアイデアに出会える可能性が大きいはず。そのため本編は実際に見ていただくとして、ここでは「"貯まる人"になるためのお金問題Q&A」のなかから、「キャッシュレス時代にどう対処すべき?」という項目をピックアップしてみたいと思います。

Point
1 キャッシュレス決済の上限金額を決めておく
2 現金だったら買うかを考え、キャンペーンなどに惑わされない
3 キャッシュレス決済は最大3つまでにしぼる
4 どの講座から引き落とされるかを把握しておく
5 利用履歴をネットで確認できる環境を整えておく
6 IDやパスワード管理をしっかりと!
(137ページより)

クレジットカードやスマホ決済は、たしかに便利でお得。とはいっても、使えるお金が増えるわけではありません。それどころか、「ポイントが貯まるから」と使いすぎたり、数を増やして管理ができなくなったりしては本末転倒。

そんなこともあり、「使えばなくなる」という感覚を保てるプリペイド型の電子マネーや、その場で講座から引き落としになるデビットカードからトライするのがおすすめだそう。

クレジットカードなど"後払い"のものも、現金と同じように「今月使ったお金」として管理することも重要。キャッシュレスは便利ですが、あくまで"予算内のキャッシュレス化"に徹するべきだということです。

大切なのは「心の持ち方」を変えること

さて、最後に節約についての本質的な考え方を再確認してみましょう。

参考にしたいのは、『賢い人のシンプル節約術』(リチャード・テンプラー 著、花塚 恵 訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。45言語に翻訳され、世界的ベストセラーになっている"Ruleシリーズ"のなかの一冊です。

  • 『賢い人のシンプル節約術』(リチャード・テンプラー 著、花塚 恵 訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

節約で大切なことは「出費を抑えるために何をするか」ということではない。何より大切なのは「心の持ち方」を変えることだ。
私は"賢い節約の名人"をたくさん知っているが、彼らのお金に対する意識は、普通の人とは少し違う。彼らは「お金を使わないこと=我慢」だとは考えていない。そして、お金のかからない暮らしを心から楽しんでいる。だから、シンプルで充実した節約生活を送ることができるのだ。(「はじめに」より)

この文章は、節約に関しての重要なことを見事に表現しているのではないでしょうか? 節約には多少なりとも我慢が必要だと考えてしまいがちですし、それは間違いではないかも知れません。ただし、それ以前の大前提として、生活を楽しむことが重要だということです。

そこで本書においても、重要視されているのは「ものの見方を変える方法」。すぐに役立てられそうな考え方が数多く紹介されているのですが、“新しい節約術”という観点からすると「エコを意識する」という項目が参考になるかもしれません。

環境保護に関連する言葉には、「エコ・フレンドリー」「グリーン」「環境意識」「環境活動家」など様々な言葉があるが、その根底にあるのはーー
・リデュース(reduce)=減らす
・リユース(reuse)=繰り返し使う
・リサイクル(recycle)=資源を再利用する
の三つの精神である。(42ページより)

もちろん、エコに対する意識は人それぞれでしょう。しかしそれでも、エコを意識すると節約につながることが多いというのです。たとえば上記の「リデュース」は「使うものを減らす」という意味ですが、それは使うお金を減らすことにもつながります。

それだけではありません。たとえばエコへの意識を高めていくと、なにかが欲しくなったときにも、不用品売買のサイトをまずチェックするようになるかもしれません。だとすれば、そこには「リサイクル」の精神が働いているわけです。

赤ちゃんのいる人なら、繰り返し使える布オムツを使いたくなる可能性もあるでしょう。いうまでもなく、それは「リユース」の精神です。

こうして考えてみても、3つの精神が節約と密接な関係にあることが理解できるのではないかと思います。しかもそれを楽しんでしまえば、節約はより効果的なものになるわけです。

私が人生で学んだことを一つ挙げるなら「最低限の生活さえ維持できれば、持っているお金の額と幸せは必ずしも比例しない」ということだ。
みじめな人生を送っている資産家もいれば、貧しくても心豊かな人生を歩んでいる人もいる。幸せを決めるのは財布の中身ではない。あなた自身なのだ。(「はじめに」より)

これは、意識にとどめておくべき考え方かもしれません。