悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、職場の会議に悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「職場での会議に時間がかかりがちで決めたいことも決まりません。スムーズに進める方法はありますか?」(40歳男性/公共サービス関連)


職場での会議は基本的に、参加者全員の高いモチベーションを前提としたものではないように思えます。などといってしまってはミもフタもありませんけれど、現実問題として「さあ、みんなで話し合って問題を解決するぞ!」などという熱を全員が持って臨むことのほうが少ないはず。

そう考えれば、「決めたいことが決まらない」にも納得できるのではないでしょうか? 別な表現を用いるのなら、「高い意志を共有しよう」というような理想論を参加者に要求するのはナンセンスでもあるわけです。

思うに重要なのは、ひとりでも多くの人が前向きな気持ちで会議に参加できるような“仕組み”を用意すべきだということ。もちろん口でいうほど簡単なことではないでしょうけれど、そんな気持ちを持つことこそが、まずは大切だと考えるわけです。

そこで今回はさまざまな角度から、会議を円滑に進行させるためのアイデアや考え方を考察してみたいと思います。

「トヨタの会議は30分」の理由

『トヨタの会議は30分 〜GAFAMやBATHにも負けない最速・骨太のビジネスコミュニケーション術』(山本大平 著、すばる舎)の著者は、現代の会議においては「速度」が重要視されると主張しています。

  • 『トヨタの会議は30分 〜GAFAMやBATHにも負けない最速・骨太のビジネスコミュニケーション術』(山本大平 著、すばる舎)

業務でなにかをしようとする際、「社内での事前の根回しがいちばん重要だ」というような全時代的な感覚ではもはや遅すぎるのだと著者。

会議や打ち合わせをするのであれば、冒頭の5分以内に議題をおさらいし、出席者の問題意識を揃えたうえですぐに課題解決に向けた議論を行い、その会議や打ち合わせで解決案を策定しきるところまで話を進める。
あるいは日々の業務連絡であれば、それぞれのコミュニケーションツールの利点と欠点を理解して上手に使い分け、一度の短い連絡で必要事項を漏れなく伝える(日常的な連絡で、メールに『平素、大変お世話になっております』といちいち書いたりしない!)。一度の短い連絡で(「トヨタの会議は30分〜はじめに〜」より)

変化が激しく、将来の予測が困難な時代に企業が生きていくためには、業務上のコミュニケーションにおいても最低限これくらいの速度が求められるということ。そして、そういう意味で、"大企業なのに大企業らしくない泥臭い会社"であるトヨタのあり方が参考になるというのです。

現在は戦略コンサルタント/事業プロデューサーとして活動する著者は、新卒でトヨタに入社し、長らく新型車の開発業務に携わってきた実績の持ち主。トヨタ在籍当時から、会議や打ち合わせは原則として30分で設定するよう指導されていたのだと振り返っています。

議論が白熱し、30分では足りなくなった場合は、必要な分数だけ延長することもあったそう。ただしそれも30分までで、それ以上に時間がかかりそうなときには別の会議を設定するという形で運用されていたのだとか。

会議を30分で終えるには事前の準備も欠かせません。
当然ながら関係者には、前もってその会議で何を話し合うのか「議題(アジェンダ)」を周知しないといけません。それも漠然とした大きすぎる議題ではなく、ある程度は具体的な「解像度の高い議題」を事前共有することが求められました。
この議題の事前共有ができていないと、担当者のところに会議の参加者から「今日の会議、議題はどうなってるんだ?」と会議前に矢の最速がくることになります。上司にも問い詰められますから、会議主催の必須条件となっていました。(37ページより)

こうして関係者が一丸となるからこそ、トヨタではアクティブで創造性の高い会議を実現できるのでしょう。とはいえ、もちろんこれだけではありません。本書に目を通せば、他にもトヨタならではの会議のノウハウがあることがわかります。

しかもそれらは決して難しいことではないので、トヨタのスタイルから少しずつでも学んでいけば、やがて自社の会議のパフォーマンスも向上することになるのではないかと思います。

「15分ミーティング」を積み重ねる

一方、『みんなが自分で考えはじめる 「15分ミーティング」のすごい効果』(矢本 治 著、日本実業出版社)の著者は、「30分の会議」どころか「15分ミーティング」の重要性を説いています。

  • 『みんなが自分で考えはじめる 「15分ミーティング」のすごい効果』(矢本 治 著、日本実業出版社)

組織の風土を変えるには、最小限、「まずはミーティングの時間だけ」部分的に変えていくことが大切。それなら比較的簡単ですし、できれば30分以内、15分をメドにするべきだというのです。

大きな変化が連続して起きるような時代になると、それを想定していないときに立てた計画は役に立ちません。変化が激しくなったことによって計画が意味を持たなくなる。
だから、必ずしも計画通りいかないのはむしろ当たり前になっている。
そのままではいけない。だからこそ、状況に合わせて方向性や進め方を随時小まめに修正していく現場の対応力が必要になります。
何度も短い時間で行なえる15分ミーティングが、必ず有効になるはずです。(43ページより)

一時的に売上を上げることは可能だったとしても、毎年売上を伸ばし続けることは決して簡単ではなく、そこにはスタッフの力が求められます。とはいえ、「いまのスタッフに力がないから」とスタッフの入れ替えをするわけにはいかない。だからこそ人を変えるのではなく、コミュニケーションのパターンを変えればいいのだという考え方。

ただ、どんなパターンが効果的なのか、頭では理解できたとしても、それを定着させるのは難しくもあります。

じゃあ、「定着」させるためには?
ある程度の回数・積み重ねが必要。だからこそ、月に1回何時間ではなく、仮に15分月に4回、負担の少ない時間で回数を積み重ねることで定着率が上がるのです。(44ページより)

部下は「仕事の進捗報告」「残念な報告」などを相手(上司)にする際、"報告をするタイミング"によって相手の反応が変わることをわかっているもの。だからこそ、残念な報告は上司の機嫌がいいときを見計らってしようとしたりすることになるかもしれません。

また、「いまは忙しそうだから」「帰ろうとしているから明日にしよう」などと考えていると、どんどん時間が経過してタイミングを失ってしまうこともあるでしょう。その結果として評価が下がってしまうとしたら、それは残念な話です。

しかし15分ミーティングをうまく活用すれば、いろいろなことが解決できるわけです。たとえばリーダーは、部下と個別に会って話したりする時間を削減することが可能。25分ミーティングで、一度に対応すればいいからです。

また、やりとりを他のメンバーと共有することもできますし、部下のほうもタイミングを見計らう必要なし。

このように、15分ミーティングを活用すれば、無駄にタイミングを気にする必要がなくなるわけです。会議がうまくいかないなら、15分ミーティングで補填するーー。そんな考え方も、決して無駄ではないはずです。

テレビマンが教えるWeb会議のコツ

ところでリモートワークが浸透した昨今では、画面を通じてのWeb会議をする機会も増えているのではないでしょうか? しかしそんななか、「相手との距離感をつかみくい」「伝えたいことが伝わらない」などの悩みを抱えている方も多いのではないかと思います。

そこで最後にご紹介したいのが、『簡単なのに結果が驚くほど変わる! 開始3秒で差がつくWeb会議のコツ』(三枝孝臣 著、東洋経済新報社)。日本テレビ在籍時代から数々の番組をヒットさせてきたコンテンツプロデューサーが、"映り方""話し方""動き方"などさまざまな角度から、「誰からも好かれるWeb会議の演出のコツ」を明かした一冊です。

  • 『簡単なのに結果が驚くほど変わる! 開始3秒で差がつくWeb会議のコツ』(三枝孝臣 著、東洋経済新報社)

著者が長年携わってきたテレビ品質を高めるために、テレビカメラマンや、ヘアメイクさん、アナウンサーなど、現役でテレビやネット動画の世界で活躍するプロフェッショナルからもアドバイスをもらって書いたのだといいます。

しかもすべてを実践する必要はなく、「これならできる」と思うコツを1つでも試してみればOKだそう。たしかにそれだけでも、Web会議では大きな効果が期待できそうではあります。

そんな本書のなかから、「会話のコツ」に関するトピックをご紹介しましょう。

リアル会議だろうとWeb会議だろうと、僕は上司の立場で会議に出るときは、8割を「聞き手」に徹することにしています。2割は合いの手や、さらなる深い議論を引き出すためのきっかけづくりに注力することが多いです。
相手に8割ほど話してもらえば、相手に「ちゃんと話を聞いてもらえた」という満足感を持ってもらえるからです。1対1のガチンコ会議のときは、それが7:3くらいになるイメージでしょうか。もちろん相手が7割です。(134ページより)

冒頭にあるように、これはWeb会議だけに限った話ではなく、顔を突き合わせてのリアル会議でも応用できる重要なポイント。もちろん「Webだから気をつけなければならないこと」もあるでしょう。しかし手段がどうであれ、「聞き手」に徹することは会議を円滑に進行させるにあたって欠かすことのできない部分であるわけです。