悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、話し下手で悩んでいる人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「話し下手で悩んでいます」(25歳男性/営業関連)


人と話すのは、なにかと厄介。ましてや仕事が営業関連なのであれば、「話して伝える」ことのハードルはさらに高くなってしまうのかもしれません。うまく話せないと、「自分ほど話が下手な人間はいない」と大袈裟に考えてしまい、つい自分を責めてしまいがちでもありますしね。

でも実際には、「自分だけがダメ」などということはないものです。それどころか、話し下手だと思っている人って意外に多いのではないでしょうか? つまりは程度の差こそあれ、話すことについては、誰でも多かれ少なかれ苦手意識を持っているものだということです。

もちろん、人も羨むようなくらい話し上手な人は例外ですが、そういう人のほうが少数派。ですから、まずは必要以上に苦手意識やコンプレックスを持ちすぎないことが大切なのではないかと思います。苦手意識やコンプレックスはあって当然ですけれど、とはいえ「持ちすぎる」必要はないのですから。

したがって、自分のなかにある苦手意識やコンプレックスがあることを認め、それを否定せず、うまく共存しながら少しずつスキルアップを目指していくべき。僕はそう思います。もちろん短期間で話し方が格段に上達するなどということはあるはずもないでしょうが、それでいいのです。一歩一歩進んでいけば、いつかは必ずレベルアップできるはずなのですから。

「アホ」なほうがみんなに好かれる

「しゃべる」仕事をこんなに長くやっているというと、「会話が得意なんだろうな」「もともと上手にしゃべれるんだろうな」と思っていただけるようですが、実は、最初のうちは、決して「得意」でも「上手」でもなかったんです。(「はじめに」より)

人気アナウンサーである『ゴゴスマ石井の なぜか得する話し方 誰からも好かれる会話のコツ』(石井亮次 著、ダイヤモンド社)の著者も、決して話が上手だったわけではないのだと明かしています。ただし重要なのは、このあとに続く記述です。

  • 『ゴゴスマ石井の なぜか得する話し方 誰からも好かれる会話のコツ』(石井亮次 著、ダイヤモンド社)

ただ、とにかく「好き」ではありました。何が好きかと言うと、誰かと話すこと。話している相手が喜んで、笑ってくれること。その場になんとなく「楽しい空気」ができること。(「はじめに」より)

つまり話し方がうまいことよりも、「誰かと会ってしゃべるなら、一緒に楽しくなりたい」という思いを持つことのほうが大切なのでしょう。

そんな著者は、会話のなかで「これを口に出しても大丈夫かな」と迷ったときには、その結果が「損か得か」を考えると答えが出ると主張しています。

なぜなら、「損得」というものさしは判断基準としてわかりやすいから。「こういう発言をしたら損をする」という基準が曖昧になることは、滅多にないということです。

ただし当然ながら、双方にとって同時に「損か得か」で考えるべき。自分だけが得をして相手が損をする、相手だけが損をして自分は損をするというのでは長続きせず、そもそも楽しい空気にはならないからです。

ちなみに「損か得か」で考えたとき、「自分を賢く見せたい」という欲望にかられることがあります。しかし、そんな気持ちに基づく言動は、「賢くみられて得」のように思えて、実は「損」なのだと著者は考えているそう。

誰かが話をしている時に、
「あ、それ知ってる」
「そうそう、そうなんですよ」
と、「そんなこととっくに知ってますよ」感を漂わせる賢さアピールは、自分にそのつもりがなくても、相手のプライドを傷つけて不快にさせてしまう可能性が高いので、「損」してしまうことになります。(86〜87ページより)

そもそも、「賢さ」をアピールしたところで得なことはほとんどないもの。それどころか、本当に賢かったとしても好感度を下げてしまう可能性のほうが高く、相手にバリアを張られてしまうことだって考えられます。

むしろ、いっそ「アホ」なほうがみんなに好かれるものだと著者はいいます。

素直に人の話を感心して聞いて、わからないことは「わかりません教えてください」、知らないことは「知りませんでした」と言えることのほうが、賢さアピールよりも絶対「得」です。
人は「スキのある人を好きになる」ものだと思います。(87ページより)

わからないことを認めることができれば、おのずと気持ちは楽になるはず。そして、それが理想的な結果に結びつくということなのでしょう。

いいコミュニケーションには準備が必要

ところで、慣れない人と話をする際にはなにかと緊張してしまいがちです。今回のご相談の根底にも、そんな思いがあるような気がします。そこで参考にしたいのが、『伝わる仕組み 毎日の会話が変わる51のルール』(藤井貴彦 著、新潮社)のことば。

  • 『伝わる仕組み 毎日の会話が変わる51のルール』(藤井貴彦 著、新潮社)

慣れない人と話をする際に大切なのは、「相手の体温を上げること」だというのです。話が得意でないという相手から話を引き出さなければならない場合は、なるべく答えやすい質問から進めていくべきだという考え方。

たとえば相手の名前に印象的な漢字が使われていたとしたら、「誰がつけてくれたのですか?」というような問いかけをすれば、相手も答えやすいわけです。また、本人もしっかり答えられたことでコツをつかむことができ、自信が持てるはず。そうすれば、緊張感もほぐれるわけです。

初対面の人とどんな会話をしたらいいかわからないという場合も同じです。相手の答えやすい質問から順番にしていくと相手の体温が上がってきます。その途中で、趣味が同じだったり、共通の友人がいたりした場合には、その瞬間から「体温」がすっと上がって何の心配もなくなります。(40ページより)

とはいえ問題は、「どうしたら答えやすい質問が浮かぶのか」ということでもあるはず。そこで著者は、少しでも相手のことを調べておくべきだと主張しています。下調べができていれば、自然と「答えやすい質問」が見つかるからです。

そればかりか、きちんと下調べをしているということに気づけば、相手もうれしい気持ちになるはず。そのため、答えようとする姿勢も前向きになってくる可能性があるのです。

いいコミュニケーションには準備が必要です。10分でも20分でも相手のために準備をすれば、会話の体温は間違いなく上がっていきます。(41ページより)

これは、覚えておきたいポイントかもしれません。

「相手ファースト」の説明をする

『「説明が上手い人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(ハック大学 ぺそ 著、アスコム)の著者は、悩めるビジネスパーソンに役立つ動画を発信しているというビジネス系YouTuber。

と聞くと「いかにも話がうまそうだな」と思われるかもしれませんすが、決してそうではないのだそうです。ビジネスを通じで出会った「説明がうまい人」の話し方を観察し続け、「説明がうまい人に共通するテクニック」を発見したのだとか。そして、そのテクニックを模倣することで、「説明力」を身につけたというのです。

  • 『「説明が上手い人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(ハック大学 ぺそ 著、アスコム)

通じるために大事なことは「私が何を伝えたいか」ではなく「相手が何を知りたがっているか」なのです。
それが理解できると、何を話せばいいのか、会社や業界の何を調べておけばいいのか、どんな話を準備するといいのかが逆算できるようになります。(「はじめに」より)

「通じない=説明がうまくいかない」のだとしたら、それは「相手を無視しているから」だということになるはず。緊張や経験不足が原因で、あるいは配慮不足や不注意のせいで、ごく当たり前の「相手のことを考える=相手ファースト」という大原則が、頭のなかから飛んでしまうことがあるわけです。

だからこそ、「なんのために」「どう説明するか」という意識をつくっておくことが大切。そこで、どう説明したらいいか迷ったら、

自分はこれから、何のために説明するのだろう?
相手は、自分から何を説明されるとうれしいのだろう?(25ページより)

と考えてみることが大切なのだといいます。つまり、「相手」と「目的」について再確認するクセを身につけるべきだということ。それだけでも、説明のレベルは格段にアップするそうです。

常に、相手の目的を満たす説明を心がける。「相手」×「目的」は、説明力を上げていく基本的な公式です。(29ページより)

逆にいえば、相手が求めていない内容を説明することは無意味。それは、「自分なりに一生懸命説明しているつもりなのに、相手に評価されないとつらい思いをしている人が陥っている罠なのだと著者は指摘しています。

つまり、あくまでも相手の立場に立った説明を心がけることが、なによりも大切なのでしょう。