悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、転職したいけどできないと悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「転職したいのですが日々の仕事で活動する気力がなかなか湧いてきません」(43歳男性営業関連(営業・MR・人材・コールセンター他))


今回のご相談内容を拝見し、強く感じたことがあります。

もし本当に、日々の仕事の影響で気力が湧いてこないのだとしたら、この先もずっと転職活動などできないだろうということ。

たいへん申し訳ないのですが、それが偽らざる僕の本音です。

もちろん、ご本人に自覚はないかもしれません。とはいえ文面を確認する限り、やる気が湧いてこないことを、日々の仕事のせいにしているように思えてしまうのです。

だとしたら結果的にそれは、やる気が欠如しているということになってしまうのではないでしょうか。

本気で転職したいと感じているのであれば、どれだけ忙しかったとしてもなんらかの形で転職活動をしているはず。なのに、それができないということは、極端ないいかたをすれば、転職にかける思いがそれほど大きなものではないということです。

少なくとも、本気で転職したいと感じたとき、ハードな環境下でも動いた経験が僕にはあります。なので(あくまで個人的な感覚ではありますが)、ことさらそう感じずにはいられないのです。

したがって、仕事や環境のせいにするのではなく、言い訳もせず、まずは"やる気のある人"になる必要があるのではないでしょうか?

今回はそんな観点から、3冊を選んでみました。

「すぐやる」スイッチを取り戻すために

『やる気に頼らず「すぐやる人」になる37のコツ (科学的に先延ばしをなくす技術) 』(大平 信孝 著、かんき出版)は、「すぐやる」スイッチを取り戻すための本。つまり、「やらなきゃ」と思いながらもやれずにいるような人を対象にしているわけです。

  • 『やる気に頼らず「すぐやる人」になる37のコツ (科学的に先延ばしをなくす技術) 』(大平 信孝 著、かんき出版)

「すぐやる」スイッチは、誰もが持っているものなのだそう。ところが「つい、先延ばししてしまう人」は、そのスイッチの入れ方を忘れているもの。そこで本書では、そのスイッチの入れ方を紹介しているのです。

たとえば著者はここで、「無意識に口にしている『言い訳』に気づくことの重要性を説いています。「時間がないからできない」というように、普段なにげなく使っている口癖は、先延ばしのトリガー(引き金)になっているのだと。

そういった口癖が"動けないこと"を正当化し、潜在意識に刷り込まれてしまうーー。だからこそ、行動・思考パターンを変えたいのなら、自らの口癖に「気がつく」べきだという考え方。

まず大切なのは、1日の終わりに、「きょう一日、『時間がない』など、行動しないことを正当化する言い訳をしたかどうか振り返る習慣をつけること。そして、その次の段階にあたる"言い換え"も重要だといいます。

もし、言い訳をしてしまったら、言いっ放しにせずに、その都度言い換えましょう。 たとえば、「時間がないから無理」と言い訳してしまったのであれば、「時間がないから無理だと思っていたけれど、時間は自分で生み出せるものだった」「時間が足りないから、朝の時間にやってみよう」など、言い換えの言葉は、自分でしっくりくるものを見つけておくのです。(112ページより)

今回のご相談でいえば、「日々の仕事の影響で活動する気力が湧いてこないから、一度リフレッシュして気分を変えてみよう」というような言い換えをしてみる。そして、それを実行に移してみることが大切であるわけです。

たしかにそうすれば、頭がスッキリし、転職活動に対するモチベーションも高まるかもしれません。

「長期的な視野で見たときに重要なこと」に注目する

『FRIDAY FORWARD フライデー・フォワード あなたの可能性を引き出す52のヒント』(ロバート・グレイザー 著、田村加代 訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、企業経営者である著者が社員に向けて送っていたニュースレターを原点とした書籍。

  • 『FRIDAY FORWARD フライデー・フォワード あなたの可能性を引き出す52のヒント』(ロバート・グレイザー 著、田村加代 訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

根底には、"一歩突っ込んで考えさせられるエピソード"を盛り込んだニュースレターを読むことによって、少し違った角度から気づきを得てほしいという思いがあったようです。

ほとんどの人が、能力を100パーセント発揮せずに毎日を過ごしていると思います。でも、私たちには、自分が望む人生を実現する能力がもっともっとあるはずです。(「はじめに」より)

著者は本書のなかで、「アイゼンハワーマトリクス」と呼ばれる時間管理術の話題を引き合いに出しています。かつてアイゼンサワー大統領が用いていた、優先順位を決めるのに役立つ方法。

そこでは、たいていの人は次の順序で用事を片づけていくものだという指摘がなされています。

1 緊急かつ重要。
2 緊急だが重要ではない。
3 重要だが緊急ではない。
4 緊急でも重要でもない。
(96ページより)

私たちは、「重要だが緊急ではない」ことよりも「緊急だが重要ではない」ことを優先しがちなのだとか。そのため、かえって生産性を下げているというわけです。ちなみにそんな指摘からもわかるとおり、これは生産性についての考え方。

しかし見逃すべきでないのは、この"順序の問題点"が将来の目標などにも当てはまることです。つまり"長期的な視野で見たときに重要なこと"があとまわしになってしまうということ。

その結果、それらのことが「緊急かつ重要」になったとき、場当たり的に対応してしまうことになるわけです。たしかに日常の忙しさの渦中では「緊急かつ重要」なことを忘れてしまいがちですが、それは望ましいことではありません。

だからこそ、早く動くことが大切なのです。

強調しておきたいのは、まわりの物事に受け身の姿勢で対応していると、自分が立てた大きな目標を達成できなくなってしまう、ということです。(中略)肝心なのは、急ぎの件に注意を奪われずに、長期的な視野で達成したい目標に焦点を当てることです。そうすれば、自分でも意外なほど、多くのことを成し遂げられるはずです。(98ページより)

当然ながら今回のご相談でいえば、転職のために動くことこそが「長期的な視野で達成したい目標」になるということです。

結果を導き出すのは「行動」しかない

『人生を変える行動科学セルフマネジメント~自分を変化させるたったひとつの方法』(石田 淳 著、大和書房)の著者は、現代人に欠かすことのできない重要なポイントとして、「周囲に流されることなく自分の人生、生き方を見つめなおし、本当に自分に適した居場所を築いていくための『セルフマネジメント能力』」を挙げています。

  • 『人生を変える行動科学セルフマネジメント~自分を変化させるたったひとつの方法』(石田 淳 著、大和書房)

では、セルフマネジメントを活用するためにはどうしたらいいのでしょうか?

結果を導き出すのは「行動」しかありません。どれほど強い意志があろうと行動なきところに結果は生まれません。逆に意思は弱くても行動すれば結果は出ます。(「プロローグ」より)

これは、まさに今回のご相談にあてはまることばではないかと思います。

また著者は行動に関し、感情を整理してシンプルに動くべきだとも主張しています。思考がシンプルになれば、おのずとストレスは減っていくのだと。

人は自分で認識する以上にいろいろな荷物を背負っており、自分の思考に多くのよけいなものをくっつけています。(中略)
好調なときも不調のときも、「人間は勝手な思い込みをする」ということを忘れないでください。
どうしてもネガティブになってしまうこと。
悲観的な妄想をしてしまうこと。
人間である自分には、そうした思考が起きやすいのだということを認識したうえで、日々の中に感情を整理する時間を持ちましょう。(186ページより)

大切なのは、気力がなかなか湧いてこない自分を受け入れ、そんな自分を認めたうえで、改めて転職に関する気持ちを整理してみること。そうすればいつの間にか、「転職にために、いつ、なにをすべきか」が見えてくるのかもしれません。