悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「働かないおじさん」に困っている人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「働かないおじさんを有効に活用する方法」(36歳男性/専門サービス関連)
「働かないおじさん」は、どこの組織にもいるものです。
かつて僕が勤めていた会社にもいましたよ。その人には、いつも回遊魚のように各部を巡っては無駄話をしているような印象がありました。憎めない人ではあったし、ちょっと懐かしい……。
でも、一部の社員からは煙たがられてもいたんだろうなとも思います。真面目に仕事をする人たちからすれば、社内回遊魚は許し難い存在ですものね。
しかも、その人がそうであったように、「働かないおじさん」の多くは役職のついた年上の方々です。したがって歯向かうわけにもいかず、「働く下の人たち」はストレスをため込んでいくことになってしまうわけです。今回のご相談が、まさにそういったケースではないでしょうか。
働かないおじさん=真面目でコツコツ働く人?
しかし現実的には、「働かないおじさん」についての認識を改める必要もあるようです。人事コンサルタントである『「働かないおじさん問題」のトリセツ』(難波 猛 著、アスコム)の著者によれば、現在「働かないおじさん」と呼ばれてしまう人の多くは「真面目でコツコツ働く人」だというのです。
ビジネスを取り巻く環境が移り変わり、
会社が本人に求める働き方や成果が劇的に変化する中で
様々な原因が複雑に絡んで
本人が今まで通り「真面目にコツコツ働いて」いるにもかかわらず
生産性の低下や会社側の期待とのギャップを招いていることが多いようです。(6ページより)
したがって現在の「働かないおじさん問題」は、「本人が悪い」というような従来の認識で捉え切れるものではなく、本人・上司・人事・会社・社会が真剣に向き合うべき問題だということ。
とはいえ「働かないおじさん問題」の難しさは、同僚や部下のモチベーションなど、「組織のモラル」に少なからず影響を与えてしまうところにあります。
中高年のローパフォーマーに対し、経営者や上司が注意や指導をしないでおくと、(とくにハイパフォーマーの)若手社員のモチベーションを奪うことにもつながってしまうわけです。
そこで注目すべきは、著者が「"陰口"をいっても解決しないのだから、必要なら"表口"をいう」べきだと主張している点。
「こういうふうに行動してもらえるとうれしい」
「こういう言動が続くと、仕事で困ってしまうので変えてほしい」
「私が手伝えることはありますか」
など、まず自分がコミュニケーションの起点として動くことで、相手や状況の変化を促すことを目指そうという考え方。組織に所属する各人が「自分にも変えられるところはないか」「お互いが感じていることは率直に話し合おう」と考える風土ができると、組織は大きく改善するといいます。
どうせなら、自分の憂さ晴らしにしかならない「陰口」ではなく、組織や相手の役に立つための「表口」にしてしまうのです。(216ページより)
相手や組織のためを思って発言することは「自分の課題」、その発言を相手がどう受け止めるかは「相手の課題」と、アドラー心理学でいう「課題の分離」を行い、勇気を持って一歩を踏み出してみる。そうすれば、ベテラン社員や上司は、その勇気ある態度を尊重・信頼してくれることが多いということ。
参考にしてみる価値はありそうです。
ベテラン社員が活躍するためのマネジメント
ところで先にも触れたとおり、「働かないおじさん」の多くはベテラン社員です。ということで参考にしたいのが、『なんとかしたい! 「ベテラン社員」がイキイキ動き出すマネジメント』(片岡裕司 著、日本経済新聞出版)。組織開発コンサルタントである著者が「ベテラン社員の活性化」についてまとめたものです。
本書でいう「ベテラン社員」とは、40代後半から65歳で、部下と責任部署を持つ管理職ではない人を想定しています。
従業員の構成や業種の特性から各企業で少しずつ問題が異なると思いますが、「50歳目前から、60歳以降も働き続ける人が元気に職場で活躍する状態を、どうやってつくり出していくか」が本書のテーマです。(「はじめに ベテラン社員の活性化に向けて」より)
ベテラン社員に活躍してもらうためにはマネジメントのやり方を変えていく必要があり、本書ではそれを「5つのマネジメント・ステップ」として説明しています。
【ステップ1】土台をつくる ……向き合い、気づき、知り合う
【ステップ2】目標を設定する ……「与える」から、「考えさせる」へ
【ステップ3】心に火をつける ……プライドをシフトする
【ステップ4】達成に向け支援する ……仲間として支援する
【ステップ5】フィードバックする ……感謝と期待を伝える
(38ページより)
ステップ1は、ベテラン社員と信頼関係をつくる段階。お互いに、自分と相手に向き合い、気づき、知り合うことが活躍に向けた土台になるのです。
やりがいのある仕事、成長実感のある仕事なしに、ベテラン社員の活性化はありえないもの。そこでステップ2では目標を設定するわけですが、大切なのは目標を与えるのではなく、本人に考えてもらうこと。
ベテラン社員の心に火をつけるためには、本人の仕事に対するプライドを目覚めさせることが重要。それができれば、ベテラン社員は自走を始めるからです。多くのベテラン社員のプライドは自己防衛的なものへと変質していくので、それをシフトさせることが大切。
ステップ4の「目標達成に向けた支援」とは、上司であるとか、偉い人だといった考えを捨て、同じビジョンに向けてともに旅する仲間だという認識を持つこと。
ステップ5でいうフィードバックとは部下をほめることではなく、ポイントは感謝することと、期待を伝えること。
この一連のステップを確実にクリアしていくことで、ベテラン社員をイキイキと活躍させることができるようになるそうです。
構造を理解して正しい働き方を選ぶ
さて、「働かないおじさん問題」を考えるにあたって避けては通れないものの、気づきにくくもある点があります。将来的には、自分自身が「働かないおじさん」になる可能性があるということ。
なぜなら、おじさんが働かなくなるのは、会社やサラリーマン人生のしくみという「構造的」な問題が原因だから。
『人事のプロが教える 働かないオジサンになる人、ならない人』(楠木 著、東洋経済新報社)の著者はそう主張しています。逆にいえば、その構造を理解して正しい働き方を選べば、「働かないおじさん」にならずにずっと輝いていられるということ。
そこで本書では、「働かないおじさん」にならないための働き方を明らかにしているのです。
では、「働かないおじさん」にならないためにはどうしたらいいのでしょうか? この問いに応えるべく、著者は「働かないオジサンにならないための7カ条」を挙げています。
第1条 足元の仕事をきちんとする
足元の仕事に地道に取り組むほうが、会社での自分の評価もよくなる可能性が高いということ。
第2条 会社の仕組みの外から眺める
たとえば個人事業主と自分を重ね合わせながらサラリーマンの働き方についてつねに思いを回らせば、意外と会社の枠組みが見えてくるもの。
第3条 時間軸で見る
合理性と効率性が支配する企業内で、かけがえのない、また代替可能ではない自分を取り戻すためには、時間軸のなかで自分を見つめなおすことが最低条件。
第4条 師匠を探せ
自分なりの師匠を見つけることはとても重要。師匠がいるということは目の前に手本があるということなので、師匠と自分を重ね合わせる作業が大きな力になるわけです。
第5条 お金との関わり方を変える
自己の成長にお金をかけ、身銭を切れば、お金の価値が自分のなかでもっと明らかになってくる。
第6条 多様な自分を受け入れる
「この道一筋」ではなく、あれもこれも的なところがあるほうが柔軟な対応が可能になる。また、一生のうちに異なる立場をいくつか経験することは、人生を深く味わうことにつながる。
第7条 自分の向き不向きを把握する
自分を変えようとするよりも、自分を高く評価してくれるところに自分を持っていくことを意識すべき。本人の持つ「向き不向き」が重要。
(183〜219ページより抜粋)
いまは目の前の「働かないおじさん」のことが気になってしまうかもしれませんが、将来的に自分がそうならないよう、この7カ条を意識しておくことも必要なのかもしれません。