悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、自分のリーダーとしての能力に悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「リーダーとしての自分の能力を活かせない」(40歳男性/IT関連)


以前にも書いたことがありますが、これまで生きてきたなかで何度か、自分のリーダーシップのなさを痛感した経験が僕にはあります。

もちろん当時は精一杯がんばっていたのですけれど、ことあるごとに「上に立つタイプじゃないよなー」と思い知らされるしかなかったわけです。

だから長い間、自分のリーダーとしての才覚について考えては落ち込んだりもしていたのですが、最近はちょっと考え方が変わってきました。

リーダーシップがないことで落ち込むのではなく、むしろ「できない」を前提として「では、なにができるか」を突き詰めればいいのではないだろうかと考えるようになったのです。

これはどんなことにも当てはまることですが、落ち込んでしまうのは、「人にできて、自分にできないこと」があるからです。でも、だとすれば「人にできなくて、自分にできること」もあるはず。

だったら、後者を選択すればいいのです。できもしないことをやろうとするから無理が生じるのであって、「自分にできること」をすればいいだけの話。

そして、それはリーダーとしてのあり方についてもいえるはずなのです。

「だったら、自分にはなにができるのか?」

そう考え、実行に移すことが重要なのではないかということ。その結果、うまくいかなかったとしたら、また別の方法を考えて試してみればいいのです。

そんなことを続けているうちに、いつか自分らしいリーダーシップの発揮の仕方が見えてくるはず。だからこそ、そこにたどり着くまでには、いろいろなことを試してみたほうがいいと思うわけです。

今回は、そのような考え方に基づき、タイプの異なる3冊をチョイスしてみました。

「人間的魅力」がある上司の共通点

『リーダーが壁にぶちあたったら読む本』 (神田和明 著、あさ出版)の著者は、サントリー酒類株式会社 執行役員(本書執筆当時)。

  • 『リーダーが壁にぶちあたったら読む本』 (神田和明 著、あさ出版)

リーダーとしての能力に限界を感じていたころにビジネスコーチスクールでコーチングを学び、以後はそのスキルを生かしながら組織を先導してきた人物です。つまり本書では、そうした長い経験を軸にリーダーシップのあり方を説いているのです。

たとえばここでは、「人間的魅力」の重要性が強調されています。例として挙げられているのは、著者がリーダーとして尊敬するふたりの上司。彼らと一緒に仕事をしたときは、必ずといっていいほど部署全体の業績が上向いていったのだそうです、

重要なポイントは、彼らの人間的魅力によるところが大きかったということ。そしてこのふたりには、「姿勢」「行動」「考え方」に共通点があったのだといいます。

1つは「誰とでも同じ目線に立って接する」。上司であっても、部下であっても同じ立場の目線で接し、誰に対しても分け隔なく全て平等に接していた。(109ページより)

すると部下は緊張感がほぐれ、リラックスしてコミュニケーションをとることができるわけです。したがって著者もいいたいことを遠慮なく口にすることができ、すっきりとした気分で伸び伸び働けたそうです。

2つ目は、「細かいことをいちいち指摘しない」。私が本当に組織に大きな影響を与えるリスキーな行動を取ろうとしたとき以外は、多少のミスや失敗については、気づいていても敢えて黙って見守ってくれた。(110ページより)

普段から細かいことをいちいち指摘されないため、ストレスを感じることなく、前向きな気持ちで仕事に取り組めたということ。

3つ目は、「私の話を最後までよく聞いてくれた」。彼らは私が話をしているとき、途中で話を遮ることなく、全て終わるまでじっくり聞いてくれた。そのうちに、自分自身の彼らに対する安心感と信頼感が次第に高まっていったのを覚えている。(110ページより)

この3つは、著者がいた環境のみならず、どのような職場の人間関係にも当てはまるはず。そこで、まずは自身の環境でこれらを実践してみてはいかがでしょうか?

部下の行動を見守り「変化に対応する力」

社会環境が大きく変化するなか、過去の成功体験にこだわるあまり消えていくリーダーや組織が多くあるーー。そう指摘しているのは、『結果を出すリーダーほどこだわらない』(山北陽平 著、フォレスト出版)の著者。

  • 『結果を出すリーダーほどこだわらない』(山北陽平 著、フォレスト出版)

さらには、そんな時代を生き抜くために必要不可欠なのは、「変化に対応する力」なのだとも主張しています。

個人はもちろん、組織やチームにも、状況の変化に合わせて、常に変化し、対応していく力が求められるのです。(「はじめに」より)

変化をつくり出し、新しい価値観のシステムを形成するために大切なのは、部下の行動を見守ること。そして彼らを応援し、サポートする必要がマネジャーたる上司にはあるわけです。

私は、設定した行動を指示どおり部下が実行したことに対しては褒め、行動から成果が得られなかったとしても、部下を叱ってはならないという指導をしています。
マネジャーが設定した行動を実行する責任は部下にありますが、設定した行動結果の責任はマネジャー側にあると考えます。(101ページより)

営業組織で、「面談を獲得するためのテレアポ」という行動を設定したとしましょう。その場合、方法や内容は人によって変わってきます。

目的を果たすためにセールストークを展開する人がいる一方、ただ電話をかけているだけで目的を忘れているような人もいるわけです。

多くのマネジャーはそこで、
「そんなセールストークでは、アポイントが取れないぞ。もっと○○を意識して、△△と言われた場合には、考えて話をしないと、電話をかける意味がないぞ」
と本人を否定する評価をしてしまいます。
しかしそこで、行動していることは評価せず、成果が出ていないことに対する否定的な評価をしてしまうと、テレアポ活動そのものを避ける方向に行動を向けるようになりかねません。(102ページより)

すると部下は安全安心を守るために、指示された行動を避けることになるかもしれません。そうさせないためには、まず「行動していることに対して評価する」必要があるということ。

このように、リーダーとしてのあり方をていねいに説いた本書もまた、今回のお悩みの手助けとなってくれそうです。

テレワークで部下に送る文章の心得

ところで昨今は、「テレワークになってから部下との関係が悪くなった」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか? もしそうだとしたら、リーダーとしての能力はさらに発揮しづらくなるはずです。

そこで最後にご紹介したいのが、『テレワークで人を動かすリーダーのメール術』(吉田幸弘 著、秀和システム)。

  • 『テレワークで人を動かすリーダーのメール術』(吉田幸弘 著、秀和システム)

年間130本の研修・講演を行なっているという人材育成コンサルタントの著者が、部下にとってプレッシャーにならないメールの書き方、ビジネスチャットでの心得など、リーダー固有の悩みを解決する方法を明かした一冊です。

一例として、失敗した部下に対してメールを送るときのことを考えてみましょう。

感情が高ぶっていると、知らず知らずのうちに文章が詰問調になってしまい、次のようなことが起こりがちです。

(1)文章を強く書きすぎてしまい、強調言葉や乱暴言葉になる可能性がある
(2)確認を怠るなどによりミスが生じ、パスワードの送付漏れ、コンプライアンス違反など、信頼をなくす行為をしてしまう
(3)伝え間違いが起きて改めてメールを送る時間が生じたり、相手との人間関係を修復するための時間を取られたりします。「急いでやらないと」「早くやらなきゃ病」が別の仕事を増やすなど、かえってムダな時間を発生させる (17ページより)

しかし、それでは逆効果。そこでイライラしてしまったときは、感情をクールダウンさせることが大きな意味を持つわけです。そこで短い時間でできるものとして、著者は以下の行動を勧めています。

・好きな景色やペットの画像を見る
・「まあ、いいか」と言う
・自分の心を落ち着かせる言葉を唱える、グッズを使う
・手足をブラブラさせる
・水を飲む
・紙をぐしゃっと丸める
・深呼吸する(18ページより)

シンプルなことばかりですが、これらの方法は、人命に関わる緊急性の高い仕事に就いている方も実践しているのだとか。

いずれにしても、メールでなにかを伝えようとする際には、感情的にならずに気持ちを落ち着けることが大切だということです。