悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「仕事の後や休日に何をしたらいいのかわからない」と悩む人へのビジネス書です。

*■今回のお悩み
「コロナ禍で思うように出かけられず、また人にも会えず、仕事の後や休日に何をしたらいいのかわかりません」(36歳男性/IT関連技術職)


人間にとって"習慣"はとても重要。習慣ができていれば、そこから日常生活を円滑に送るためのリズムが生まれるからです。

しかもリズムは"点"を"線"にしてくれるものでもあり、仕事を継続する際などに大きな力となってくれます。

逆に、あったはずの習慣がなくなってしまうと、途端にリズムが失われてしまうことも考えられます。その結果、当たり前の日常を維持することが難しくなったとしても不思議ではありません。

今回のご相談もそのひとつ。コロナの影響で、これまでのいろいろな常識が覆されてしまったからこそ、いままでできていたことが思うようにできなくなってしまったということなのでしょう。

ただ、あまり深刻に考えすぎるのもどうかと個人的には思います。フリーランスとして、何十年も前から"基本的にはひとりで""平日も休日もなく"働き続けてきたからこそ、そう感じるのかもしれませんけれど。

なにしろ、重たく考えてみたところで状況が変わるわけではないのです。それどころか、いずれ社会が「コロナ前」の状態に戻るかといえば、決してそうはならないだろうとすら感じます。同じ時代はもう訪れないと考えたほうがいいと思うのです。

いいかえれば、いまこそ「ポスト・コロナ」のライフスタイルや価値観が求められているわけで、だとすれば、まずは「そういうことになったのだ」と(できる限り)気楽に受け止めるべき。そしてそこから、"新たな習慣"を模索していけばいいのではないでしょうか?

なにより最優先されるべきは、自分自身が快適であることなのですから。たとえば「休日になにをしたらいいかわからない」のも、これまでの習慣に囚われすぎているからではないかと感じます。だったら、「休日を快適に過ごすための新たな習慣」を見つけ出せばいいのです。

切り替えて自分の時間をつくる

これからの時代を生き抜くには、メンタルを健康に保ち、コモディティ化しないことが求められます。そのためにいちばん必要な要素は、「休暇」だと思います。休暇によってリフレッシュし、精神的な健康を保つことはもちろんですが、さらに、イノベーションを起こすような新しい発想を得るためには、まとまった休みの時間がなにより必要でしょう。(「はじめに」より)

『休む技術』(西多 昌規 著、だいわ文庫)の著者もこう主張しています。だとすれば、テレワークの時間で自分の時間をつくりやすくなったいまは、チャンスであると考えることもできるはず。

  • 『休む技術』(西多 昌規 著、だいわ文庫)

ところが「せっかく休んでも、休んだ気になれない」人がいることも事実。休日をネガティヴに考えるようになってきているなら、「週末うつ」への入口にいるのかもしれないといいます。

後ろ向きな考えが積み重なると、「どうせ休みがあっても楽しめない」「いっそ、休みなんてないほうがいい」という悲観論を持つことになりかねないというのです。

しかし、それではなにも改善しません。休日の脳まで仕事に完全占領されてしまっては、1日も休まずに会社へ行っているようなものだからです。

「週末うつ」を防ぐもっとも有効な対策としては、アバウトに時間を区切ってしまうことでしょう。たとえば、午前、午後に2分割して、午前中は仕事のことを考えるならば、午後は100%仕事のことを排除して、運動なり映画なり、自分の好きなものを楽しむ時間にあてることです。午前、午後、夜の3分割でも、もちろん構いません。(27〜28ページより)

「休日にも仕事の雑念が入ってくることはやむを得ない」と割り切って、仕事や雑事を考える時間を決めてしまうということ。

たとえば午前中にダラダラとテレビを見て過ごしてしまったのだとしたら、午後から別の予定をこなせばいい。そのように"切り替え"をすることが大切だというわけです。

これまでは仕事が主体であった以上、最初はうまくいかないかもしれません。でも習慣化してしまうことができれば、きっと慣れるはずです。

そして、とくに重要なのは「自分の好きなものを楽しむ時間」、すなわち「遊ぶこと」ではないかと思います。遊ぶべき時間に遊ぶことができれば、当然のことながらリフレッシュでき、以後の仕事にも好影響を与えるはずだからです。

自分に合った遊び方を見つける

『大人はもっと遊びなさい 仕事と人生を変えるオフタイムの過ごし方』(成毛 眞 著、PHPビジネス新書)の著者も、遊ぶことの価値を解いています。

  • 『大人はもっと遊びなさい 仕事と人生を変えるオフタイムの過ごし方』(成毛 眞 著、PHPビジネス新書)

好きな遊びはいつ始めてもいつ止めても構わないし、誰にも迷惑をかけない。社運を賭けたプロジェクトなどとは違って、自由気ままに取り組めるのだ。完全に自分でコントロールできるのが、遊びなのである。
主体的に生きたければ、人間、ともかく遊ぶべきなのだ。
しかも、仕事にまじめで勤勉な人ほど、いい加減に遊んだほうがいい。(「はじめにーーまじめに働いている人ほど、遊んだほうがいい」より)

とはいえ、今回のご相談のように「なにをしたらいいのかわからない」という方もいらっしゃるはず。著者が指摘する「まじめで勤勉な人」は、ことさらそうかもしれません。「遊ぶ時間はつくったけれど、なにをしたらいいかわからない」というように。

かといって、いつまでもぼーっとしているわけにもいきません。では、どうすべきなのか?

そういう人に対して著者は、まず仕事に関する遊びを見つけてみたらいいと提案しています。

たとえば、パン製造会社勤務なら、本職のパンとは少しずれた、近所のスーパーで売っているすべてのプレーンヨーグルトを食べ比べてみるとか、コンビニのコーヒーを飲み比べてみるとか、そういったじつに手軽なことから始めるのだ。
そんなことは普段からやっているかもしれないが、それを遊びだと意識し、楽しんでやろうと思うと、味わい方が変わってくる。
酸味はどうか、甘味はどうか、香りはどうかといったことを比べ、ランキングしたくなるだけでなく、人に違いを説明するならどうするかということまで考えたくなる。これはもう、立派な遊びである。(37ページより)

こうした比較が楽しくなると、食品以外のものも比較したくなってくるかもしれません。つまりは、それが遊びへの最初の一歩。いいかたを変えれば、自分の感じ方、考え方次第でなんでも遊びの対象となりうるわけです。

オンもオフで活用できるし、オフだからこそオンを楽しむこともできるということ。シンプルではありますが、これは本質的で、とても重要なことではないかと思います。

真剣に休日を楽しむ

『年収の伸びしろは、休日の過ごし方で決まる ズバ抜けて稼ぐ力をつける戦略的オフタイムのコツ』(池本克之 著、朝日新聞出版)の著者も、この点を指摘しています。

  • 『年収の伸びしろは、休日の過ごし方で決まる ズバ抜けて稼ぐ力をつける戦略的オフタイムのコツ』(池本克之 著、朝日新聞出版)

辣腕経営者や一流のビジネスパーソンには、「オンとオフは表裏一体であり、意識的に切り離すものではない」と考えている人が多いというのです。

そういう意味では、仕事を遊び、ひとつのゲームのように楽しんでしまうという考え方もあるのではないでしょうか?

「どうすれば最適なプロセスで高得点(高利益)が出るか」、その答えをゲームだと考えて楽しんでしまおうという発想。なお、これは仕事をいい加減にやるという意味ではないと著者は強調しています。

仕事をゲーム(遊び)にして、休日に楽しむように真剣に取り組むべきだということ。

経営者や個人事業主なら、ゲームの初期設定や基本ルールは自分でつくれます。会社勤めの方であれば、デフォルト設定されているステージで自分に可能な方法でゲームに参加すればいいのです。

世の中の流行や経済情勢、業界の動向などの情報を採り入れながら、今月の成績を先月よりもアップさせる。目標スコア(売上)達成を目指す。(中略)
スコアをアップさせるために真剣に考える。ステージクリアのために真剣に知恵を絞る。こうして仕事への取り組みに真剣さが生まれてくれば、そこに少しずつおもしろさも見えてくるかもしれません。(23〜24ページより)

仕事というゲームがおもしろいのは、ステージクリアした先にある答えが、普遍的なものではないこと。環境や社会情勢などの外的要因によって、その答えは常に流動しているわけです。

これが見つかればゲームクリアという「正解」は永遠に出てこないからこそ、おもしろく、そしてやりがいもあるという考え方。つまり自分の仕事を「遊び」にしてみれば、遊びと同じように仕事にも真剣になれるということです。

いいかたを変えれば、「仕事」か「遊びか」はそれほどの問題ではないのです。大切なのは目の前にある状況を前向きに捉えることで、そうすれば、おのずと仕事も遊びのように楽しんでしまえるのですから。

いわば、「仕事のあとの時間や休日をいかに過ごすべきか」も、自分の感じ方、考え方次第。なんだって遊びにできるし、目の前のものを楽しむことができれば、おのずと充実感も生まれてくるということです。