「肌色」が消えた
「肌色」がなくなっていることをご存じだろうか。といっても、私たちが肌色と呼んでいたあの色が消滅したわけではない。肌色という言葉が消えたのだ。
なぜだろうか。それは、社会の意識の変化と関係がある。
様々な人種への配慮
落ち着いて考えてみると、肌色とは奇妙な言葉だった。なぜなら、肌の色は様々だからだ。黒人、白人、ヒスパニック……世界には色々な色の肌を持つ人々がいる。肌色という言葉は、日本に多い東アジア系モンゴロイドを前提にしていたにすぎない。
だから、肌色という言葉は、多様性が価値を持つ時代にふさわしくないだろう。文房具界もこの流れを受け、肌色という言葉を使わなくなっている。たとえばクレヨンで有名なぺんてるは、1999年から「ぺんてるクレヨン」の肌色を「ペールオレンジ」と呼ぶようになった。
この流れはもちろん文房具に限ったものではない。米国ではTru-colourというブランドが黒人の肌色にも合う絆創膏を出し、話題になっている。他にも、やはり黒人の肌色に会うバレエ用トウシューズが出るなど、今までの「当たり前」が当たり前ではなくなる動きが続いている。
あらゆる人に文房具を
誰もが使い、社会に密着している文房具でも、今まで忘れられていた人々を意識したアイテムが作られはじめている。
一例を挙げると、19という会社の出した日記「TONE REVERSAL DIARY」は、紙が黒いのが特徴である。黒い紙に白いインクのペンで書くように作られているのだ。それは、視覚に障害を持つ人でも見やすいためだという。また、無印良品の定規には、左利きの人でも使えるように、表と裏とでは数字の並びが逆になっているモデルがある。
視覚に障害を持つ人も、左利きの人も、広い意味でのマイノリティである。彼ら・彼女らの存在は、これまでの商品開発では見落とされていて、多数派向けに設計された物を使わざるを得なかった。。だが、文房具業界は、そういう人々にも目を向け始めたのだ。
思えば、今までが奇妙だったのだ。目が普通に見えることも右利きであることも、決して「当たり前」ではない。「肌色」の肌が当たり前ではないことと同じだ。
社会が「当たり前」が当たり前では言ことに気づいた今、文房具もその対象をあらゆる人達に広げていくだろう。考えてみれば自然な話だ。文房具は、社会のあらゆる場所で、すべての人のために存在し続けているのだから。