数ある投資の中でも、少額から始められ、郵便局や銀行でも買える、といった敷居の低さから、多くの人の注目を集める「投資信託」。老後の資産形成にも有益だと言われていますが、本当に投資信託でお金を増やすことはできるのでしょうか。

この連載では、金融商品の斡旋や販売をしない中立的なお金の学校ファイナンシャルアカデミーが、投資信託の「よくある落とし穴」の中身を分解しながら、着実に資産形成をするためのヒントをお伝えします。

今回は、ビギナーを中心に勘違いが後を絶たない「基準価額」について学んでいきましょう。

  • 勘違いが後を絶たない「基準価額」

基準価額とは、投資信託の値段

そろそろ購入する商品を探してみたいと思い、証券会社のホームページで各商品の詳細をみてみると、最初にパッと目につく数字があります。そこには「基準価額(きじゅんかがく)」という日常生活では見慣れない言葉が。実はこれこそが投資信託の値段。営業日ごとに算出され、多くの場合、1万口当たりの値段のことを指します(まれに基準価額=1口、という場合もあります)。

基準価額は、その投資信託が保有する株式や債券などの時価総額に、利息や配当金などの収入を加え、そこから運用コストを差し引いた金額を総口数で割って算出することができます。

しかしそれより何よりみなさんにぜひ押さえておいてほしいことは、「ほとんどの投資信託は、運用をスタートした日の前日の価格を10,000円として基準価額を設定している」ということです。

優秀な投資信託は、基準価額が高い商品? 安い商品?

ではここで、みなさんに質問です。ここにAとBの2つの投資信託があります。どちらも日経平均と同じ動きをする商品なので値動きはよく似ているのですが、Aは基準価額が12,000円、Bは基準価額が9,500円です。さてみなさんなら、どちらを買いますか?

先ほど、運用を開始する前日の価格を10,000円として基準価額を設定しています、と伝えたばかりなので、Aの方が上振れしているからAの方が良い! と思われた方もいらっしゃるでしょう。その一方で、Bの方が割安でお買い得なのでは? と考えた方もいらっしゃるかもしれませんね。

実はこの問題、基準価額だけでは「判断がつかない」というのが答えなんです。なぜなら、投資信託の基準価額は、設定したタイミング、つまり運用をスタートした時の相場がどうだったかによって、大きく左右されるから。日経平均に連動するタイプの商品であれば、もし、スタートした時点の日経平均がそもそも低かった場合、基準価額はその後、高くなりやすい傾向があります。反対も然り。日経平均が高いタイミングでスタートした商品なら、その後、大幅に高くなっていくのは難しいですよね。

別の角度からも具体的にみてみましょう。ここに、基準価額が10,000円の投資信託と、基準価額が20,000円の投資信託があったとします。投資先はどちらも同じです。こう2つ並べられると、なんとなく後者の方が割高に感じる人もいるかもしれませんね。

仮にいま、これらの商品を10万円分購入したとします。理解しやすくするため、ここでは基準価額=1口で考えることにします。

前者は基準価額が10,000円なので10万円だと10口購入することができます。反対に後者は、基準価額が20,000円ですので、5口購入することができます。その後、どちらも20%値上がりしたとします。そうなると前者の基準価額は12,000円、後者は24,000円になります。では、このタイミングで、保有していた投資信託を売った場合、利益はどうなるでしょう。

前者は12,000円×10口で12万円。では後者はというと、24,000円×5口で、なんとこちらも12万円。そうなんです。基準価額に関わらず、どちらも利益は同じになる、という訳なんです。

スーパーのお買い得セールとは別! 投資信託ならではの価値判断を

「値段」という存在は、私たちの日常生活に密着しているからこそ、「ちょっと割高だな」とか「これはお買い得かも」と無意識のうちにバイアスがかかり、誤った判断をしてしまいがちです。

ですが、ご覧いただいての通り、投資信託の場合は、投資信託の値段である「基準価額」の高い低いは、お買い得な商品選びには無関係なのです。この事実は、知識を身につけている人にとっては、ごくごく当たり前のこと。ですが、何も学ばず投資信託を始めるビギナーさんにとっては、陥りがちな落とし穴でもあります。

目につきやすい基準価額の高い低いに惑わされることなく、前回までに学んだ「運用方針」や「運用期間」のような、良い商品を選ぶためにみるべき様々な指標を駆使して、運命の一本にまで絞り込んでいくことが大切です。

運用はプロに任せることができる投資信託。将来に向けて2,000万円を作る方法としては、忙しい人にも十分おすすめできる方法です。ですが、部分的な情報をもとになんとなく選んだ商品を、ただ毎月購入しているだけで2,000万円が作れるほど、投資信託は甘いものではありません。

ここまで記事を読んでくださったみなさんには、正しい知識がいかに重要かを認識し、身につけた知識に基づいて良い商品を選び、ご自身の資産を大きくしていってほしいと願っています。

この連載もいよいよ次回が最終回。ラストは投資信託で2,000万円を作りたい人が押さえるべきポイントを一緒にみていきましょう。

ファイナンシャルアカデミー

お金の教養を身につけるための「総合マネースクール」。2002年の創立以来、東京校・大阪校・ニューヨーク校・WEB受講を通じて19年間で延べ60万人が、貯蓄や家計管理といった生活に身近なお金から、資産運用、キャリア形成、人生と社会を豊かにするお金の使い方までを学んでいる。現在、全くの初心者でも投資の基礎知識をわかりやすく学べる「株式投資スクール体験セミナー」「投資信託スクール体験セミナー」などを無料提供している。