「どこにも負けないおいしい米を作る」「もうかる米農家になる」――9日にフジテレビで放送される第35回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『学びと継承の先に~どうなる日本の米づくり~』(27:15~、※関東ローカル、さくらんぼテレビ制作)では、米づくりを学ぶ若者たちを通して、日本の稲作が直面する課題と、その先にある未来を見つめる。

2024年、スーパーの棚から米が消え、価格が高騰。政府が備蓄米を放出するなど、これまで当たり前に食卓に並んできた米をめぐる環境は大きく揺れた。大規模化による効率的な農業と、受け継がれてきた技術を生かし、手間を惜しまず自慢の米を作る農業。さまざまな選択肢がある中、次代を担う若者たちはどのような米づくりを目指すのか。

  • 指導を受け稲刈りをする学生

    指導を受け稲刈りをする学生

「もうかる米農家に」「どこにも負けないおいしい米を」

番組が取材するのは、山形県新庄市にある山形農林大学校。設立から70年余りにわたり、稲作、果樹、酪農など、農業県・山形を支える人材を送り出してきた。

2年間の全寮制で、学生たちは同じ志を持つ仲間と生活しながら農業を学ぶ。2025年度の稲作経営学科には、1、2年生合わせて15人が在籍。品質や収量の確保といった米づくりの基本に加え、大規模化を見据えた経営的な視点、直播栽培、ドローンの活用など、先進的な手法についても学んでいる。

担い手不足に加え、異常気象や災害など、稲作を取り巻く環境は不安定さを増している。それでも学生たちから聞こえてくるのは、「どこにも負けないおいしい米を作る」「もうかる米農家になる」「高温障害に強い米を作る」といった前向きな言葉だ。

大規模化を目指す鈴木星名さん、家族経営を守りたい渡辺新太さん

2年生の鈴木星名さんは、山形市で大規模な農業法人を営む父の後を継ぐことを考えている。将来的に作付面積を増やすため、早生品種の栽培を研究。若い農家が減る中、父が担ってきた地域農業のリーダーとしての役割も受け継いでいきたいと考えている。

一方、1年生の渡辺新太さんの実家は中山町の米農家。家族経営で、農業収益が上がらず厳しい経営を続けてきた姿を身近で見てきた。そのため渡辺さんが研究するのは、省力的でコストを抑えた栽培方法。高齢化が進んでも、家族で農業を続けていくための道を模索している。

祖父は手間を惜しまず“こだわりの米”を作ってきた。その技術を渡辺さんへ継承する考えだが、一方で、日々お金と向き合い続けなければならない農業経営の厳しさも実感している。

“おいしい米を作る”ことと、“農業で生計を立てる”こと。次の世代には、その両方をどう成立させるのかという課題が突きつけられている。

農地を集めても「分散したまま」 大規模化の課題

番組は、学生たちの姿と並行して、日本の農政にも目を向ける。

国は農地を集積し、大規模化することで、より低コストで効率的な農業を実現する方針を進めてきた。しかし、農業経営に詳しい宮城大学の大泉一貫名誉教授は、農地の“集積”が進んでも、立地を見ると“分散したまま”で、期待されたほど効率化が進んでいないと指摘する。

良食味を追求するのか、生産量を確保するのか、経営効率を高めるのか、地域や集落を守るのか――どれか一つだけが、日本の米づくりの答えではない。

「地域や家族を守りたい」という思い

ディレクターを務めたさくらんぼテレビ報道制作局報道部の高橋信太郎氏が取材を始めたきっかけは、“令和の米騒動”だった。

「米の値段は高い? それとも安い? 今回の騒動をきっかけに“米とは何か”を初めて考えた人も多かったのではないでしょうか」と問いかけ、米価が大きく変動する中で、これから農業へ進む若者たちはどのような未来を見ているのかを知りたいと思ったという。

山形農林大学校の学生たちからは、「味にこだわりたい」「ビジネスとして成功したい」という希望や野心を感じた。その一方、高橋氏がそれ以上に強く感じたのが、「地域や家族を守りたい」という思いだった。

「愛する地元をどうやって未来につなげていくか。米作りを通じてこの山形を支えていきたいという意思表示でもありました」と振り返り、「この番組が、一粒の米に詰まった価値に思いをはせながら、食、農業、そして地方について考えるきっかけになれば幸いです」と願っている。