9月1日は防災の日。ひとりで事業を回す人こそ備えたい「止めない仕組み」


もし来週から1週間、まったく動けなくなったら…。ひとりで回している副業や小さな事業には、常にそんなリスクがあります。地震や台風だけの話ではありません。インフルエンザで寝込む、親が倒れる、パソコンが壊れる。そのどれもが、事業を止める十分な理由になります。9月1日の防災の日を前に、いま考えておきたいのが、事業を止めないための備えです。

こうした備えを「BCP(事業継続計画)」と呼びますが、その普及状況には、企業規模による大きな差があります。帝国データバンクが2026年6月に公表した調査によると、BCPを策定している企業の割合は全体で21.4%と過去最高を更新しました。ただし内訳を見ると、大企業が39.9%なのに対し、中小企業は18.3%。その差は21.6ポイントで、前年から縮まっていません(帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査」2026年 )。策定しない理由として多いのは、「策定に必要なスキル・ノウハウがない」が42.2%、「策定する人材を確保できない」が33.5%、「時間を確保できない」が28.1%。まさに、ひとりで事業を回している人ほど当てはまる理由が並びます。

具体的に想像してみると、備えの必要性がはっきりします。高熱で寝込んだ初日、まず起きるのは連絡の途絶です。依頼主からのメールに返事ができません。二日目には、納期が迫っている仕事の遅れが確定します。ですが、事情を伝えられないまま日が過ぎると、相手は「連絡が取れない人」として次の依頼先を探し始めます。三日目、ようやく起き上がって画面を開いたときには、信用の回復に何倍もの労力がかかる状態になっている。多くの場合、事業を傷つけるのは病気そのものではなく、連絡が止まった時間なのです。

個人の副業や小商いに、企業のような分厚い計画書は不要です。必要なのは、紙1枚だけ。書き出すのは3つだけです。①取引先の連絡先と、動けなくなったときに誰に何を伝えるか。②仕事のデータがどこにあるか。③納期を延ばしてもらうときの連絡文の型。この3つを書き出しておけば、いざというときの判断が速くなります。

とくに見落とされがちなのが、データの置き場所です。パソコンの中だけに顧客の連絡先や作業中のファイルが入っている状態は、それが壊れたら事業が止まることを意味します。クラウドに保存する、外付けのハードディスクにも残す。どちらか一方ではなく、両方に置いておくのが基本です。作業を再開できるまでの時間が、何日も変わってきます。

お金の備えについても触れておきます。会社員として本業の給料がある副業なら、事業が止まっても生活が即座に困ることは少ないでしょう。ですが、仕入れの支払いや、外注先への報酬など、事業側の支払いは待ってくれません。副業用の口座に、月々の事業経費の2、3か月分を残しておく。これで、動けない期間はしのげます。専業で独立している方なら、生活費も含めて半年から1年分が目安とされます。なお、事業の規模が大きくなれば、中小企業庁の「事業継続力強化計画」という認定制度もあります。

見落とされやすいのが、自分が倒れたときに、家族がその事業の存在と状況を把握できるかどうかです。取引先の名前も、入金予定も、契約の中身も、本人しか知らない。そんな状態は珍しくありません。特別な引き継ぎ書までは必要ありません。「この封筒に、副業の書類がまとめてある」と家族に伝えておく。それだけで、事情はずいぶん変わります。

備えは、起きてからでは間に合いませんが、始めるのに大がかりな準備は不要です。防災の日を口実に、この夏、紙を1枚だけ用意する。連絡先とデータの場所を書き込む。その紙があるだけで、動けない1週間の意味が変わります。そしてその紙は、あなたのためというより、あなたの代わりに動く人のためにあります。

(新井 一:起業コンサルタント)