北海道の電力を支える巨大石炭火力発電所、苫東厚真(とまとうあつま)発電所。
2026年4月、北海道電力の次世代エネルギー部門の新入社員と、グループ会社および協力会社の新人たちが、3者合同でこの現場に集まった。
午前は発電所の基礎を学ぶ座学、午後はいよいよ本物の設備を間近で見学。本稿では、社会人としての第一歩を踏み出したばかりの若者たちの、少しだけ緊張感のある一日をレポートする。
3者の新人が一堂に ─ 春の研修がスタート
午前のプログラムは講義で、会場となったのは苫東厚真発電所構内にある安全・カイゼン・技術教育センターの研修室。この日の研修には、北海道電力本体だけでなくグループ会社および協力会社 2 者を加えた計 3 者の新人が参加した。それぞれの会社の作業着を着た新入社員たちが席につくと、部屋にはほどよい緊張感が漂う。
最初に挨拶に立ったのは、今回の研修を取りまとめた次世代エネルギー部 安全・カイゼン・技術教育センターの副主幹である田畑秀也氏。続いて同センターのグループリーダー・厚田倫史氏が、この研修の意義について語りかけた。
「安全については、1社・1人の問題ではありません。どこか1つに不備があるだけで、大きな事故につながりかねない。だからこそ、会社の垣根を越えた連携が大事なのです」(厚田氏)
発電所の現場では複数社が協力して動く場面が多い。最初から「チームとして動く」感覚を身につけることが、この合同研修の重要な狙いの一つだ。
「この研修が、これから働いていく中での良い出会いや機会になれば」という締めの言葉に、新入社員たちは静かにうなずいていた。
北海道の電力を支える"最大の火力発電所"とは
開会の挨拶が終わると、いよいよ「発電所の基本概要」を主なテーマにした約1時間の講義がスタートした。講義を行ったのは、安全・カイゼン・技術教育センターの寺田保之氏だ。
北海道電力が現在稼働させている火力発電所は6か所。そのうち石炭を燃料とするのは2か所で、今回の研修会場である苫東厚真発電所はその中でも最大規模を誇っている。
1980年10月に1号機の運転を開始して以来、北海道の電力供給を長年にわたって支えてきた存在だ。
現在は1号機・2号機・4号機の3ユニットが稼働しており、総出力は165万kW。燃料となる石炭は、オーストラリアやインドネシアなどから輸入した「海外炭」を使用している。安定した供給と価格面の安定性を両立できる点が、石炭火力の強みの一つだと説明された。
また、エネルギーをめぐる環境の変化についても触れられた。東日本大震災後に原子力発電所が一定期間停止して以降、火力発電の担う役割は大きく増した。一方で、再生可能エネルギーや省エネ機器の普及が進んだ近年は、火力発電の利用率が下がる傾向にあるという。
電力をめぐる情勢の変化を肌で感じながら、新入社員たちは熱心にメモを取っていた。
石炭が電気になるまで──汽力発電所の仕組みを学ぶ
今回の研修が行われた苫東厚真発電所は「汽力発電所」だ。聞き慣れない言葉かもしれないが、「燃料を燃やして水を沸騰させ、高温・高圧の蒸気でタービンを回して発電する」方式を採用した発電所である。
講義では、ボイラーでの燃焼から始まり、タービン・発電機を経て電気が生み出されるまでの一連の流れが丁寧に解説された。あわせて、発電所全体の状態をリアルタイムで監視する「プラント管理システム」の役割も紹介された。
このシステムにより、発電所内の設備情報を集約・管理し、プラント全体の状況把握に役立てているという。
広大な発電所をまるごと管理するその精緻さは、新入社員にとってはまだ実感しにくい世界かもしれない。それでも「いつか自分がこのシステムを扱う側になる」という意識は、この場で少しずつ芽生え始めているようだった。
そして午前の研修の締めくくりとして、苫東厚真発電所を紹介する映像を全員で視聴。実際の設備内部や発電プロセスが映像で解説されると、会場のあちこちから「おお」と小さな声が漏れた。
発電所は人々の生活を支える電気をつくる場であると同時に、公的機関など外部からも厳しく監視・管理される存在でもある──その重さが、映像を通じてじわりと伝わってくるようだった。
ヘルメットの紐を結び、いざ本物の発電設備へ
午後はいよいよ、本物の発電設備を巡る現場見学だ。参加者は4つの班に分かれ、担当の講師とともに構内へと歩き出す。耳にはレシーバー、頭にはヘルメット。午前中に座学で学んだばかりの知識が、目の前の光景と結びついていく瞬間が、この先にいくつも待ち受けていた。
まず案内されたのは4号機の本館屋上。そこで目に飛び込んできたのは、天に向かってそびえる巨大な煙突と、その向こうに広がる太平洋の絶景。眼下には石炭を受け入れる港湾設備や広大な構内が見渡せる。「自分たちがこれから携わっていく発電所」の全体像を、文字通り"上から"眺められる特別な体験だ。
屋上を後にすると、いよいよ設備の内部へと進んでいく。薄暗い通路を一列になって進みながら、石炭を運ぶベルトコンベアや、ボイラーへ純水を送り込む給水ポンプ、タービンを回し終えた蒸気を水に戻す冷却装置など、発電プロセスを支える設備を次々に見学した。
アンモニアを使って排煙から NOx(窒素酸化物)を取り除く脱硝装置も間近で確認し、発電所が電気を生み出すだけでなく、環境への配慮にも細心の注意を払っていることが伝わってきた。
圧巻だったのは、4号機の発電機・タービンを間近で眺めた場面だ。広大な建屋の中に鎮座する巨大な緑色の機体は、「これが北海道の電気を生み出しているのか」と思わず立ち止まってしまう迫力だった。
定期検査中の2号機の設備が保管されているエリアも見学でき、分解されたタービンのローターが床に整然と並ぶ光景は、普段の業務ではまず目にできないレアな光景だ。
「なるほど館」で、今日の学びがひとつにつながる
施設見学の締めくくりは、「ほくでん火力なるほど館」を訪れた。ここは、火力発電の仕組みやエネルギーについて学べる無料のPR施設で、約800分の1スケールの発電所ジオラマや、ボイラー・微粉炭機の精巧な模型などが並ぶ。
参加者たちはヘルメット姿のまま展示を見て回り、興味を引いた模型の前で足を止め、講師を囲んで質問を投げかける場面もあった。
午前の座学で全体像を頭に入れ、午後の見学で実物に触れ、最後に模型で改めて構造を俯瞰する。この一日の流れは、新人たちが発電所を「自分ごと」として捉えるためによく練られた構成となっていた。
「大好きな北海道のために」 ─ 将来に向けた新入社員の思いを聞く
研修に参加した新入社員のひとり、八木さんに話を聞いた。札幌出身で、室蘭の大学院ではエンジン燃料の研究に取り組んでいたという。
「カーボンニュートラルに向けた燃料の工夫や排気ガスを減らすこと、という研究テーマが会社の方向性と合っていました」と、研究内容を踏まえた志望動機について話す。
入社して変わったことを聞くと、真っ先に「生活習慣」と答えてくれた。学生時代は良くも悪くも自由だったが、今は規則正しくなり、むしろ健康になった感覚があるという。
それ以上に大きいのは、心境の変化だ。「これまでは自分のためにやってきたことが多かったのですが、入社後は誰かのために、と考えるようになりました。大好きな北海道のために働いていきたいですね」と、穏やかな口調で話してくれた。
研修期間中は近隣町の宿泊施設を利用しており、夕食後にはジムで筋トレ、サウナでリラックス──そんな充実した部門研修生活もいよいよ終わりを迎え、現場への配属が始まる。「まずは目の前のことから、能動的にいろいろ経験したいです」。そう語る表情は、どこか頼もしかった。









